【ほんのさわり】山下祐介『限界集落の真実』

山下祐介『限界集落の真実-過疎の村は消えるか?』(2012.1、ちくま新書)
 http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480066480/

 本書は、2007年頃から「限界集落」に関する議論が高まり、さらに2011年の東日本大震災よって問題が先鋭化する中、あえて「常識」に抵抗するために発表されたそうです。
 その「常識」とは、「少子高齢化の進行により多くの集落が消えつつある」、「限界集落のように効率性の悪い地域には、この際、消滅してもらった方がいい」というもの。

 これに対して著者は、自身のフィールドワーク(青森、新潟、高知、鹿児島等)を基に、ダム建設や災害による移転は別にして、「少子高齢化が原因で消えた集落など、探し出すのが難しいくらい」としています。

 さらに、そもそも「効率性」とは何かと著者は問います。  条件不利とされる山村は、長い歴史の中ではきわめて効率性の高い地域だったとのこと。採集・狩猟、農耕や林業をベースとして、自給自足が実現されていたのです。
 ところが、食料や木材、燃料等がグローバル経済(国際的な市場経済)の波に押されるようになってから、これら地域は非効率とみなされるようになりましたが、それは、高々数十年のことだそうです。

 現在日本の経済社会は、グローバル経済化が進行する下、競争力の強化が叫ばれています。
 著者はその必要性自体を否定しませんが、効率性を重視するあまり暮らしの「安心・安全・安定」が脅かされるなら、何のための効率化かと疑問を呈しています。
 そして、安心して生きていくための暮らしの文化や技術は、農山村のコミュニティの中で継承されているとします。
 また、高齢化が進んでいる地域でも、他出している子どもたちが帰ってきて祭りに参加するなど、地域を支えている現実を明らかにしています(熊本大学・徳野貞雄氏の「集落点検」という手法も紹介されています)。

 それに比べて大都市においては、コミュニティが消滅し、各個人は孤立し、無力感にさいなまれているとのこと。
 そして、限界集落問題の本質とは、個々の暮らしの中から地域社会をどのようにしていくかを再考し、引いては日本という社会をどのように設計していくのかが問われているものである、と結論づけているのです。

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出所:
F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-No.171
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
(過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/br/