【ほんのさわり】吉田 裕『日本軍兵士』

本書は、日本だけでも310万人(軍人・軍属230万人、民間人80万人)が戦没したアジア・太平洋戦争について、「兵士の目線」で「兵士の立ち位置」から、凄惨な戦場の現実(死の現場)を直視することを試みたものです。

 まず、戦病死者が非常に多いことが指摘されています。  戦場における死の最大の原因は、戦闘による死(戦死)ではなく、餓死を中心とした戦病死でした。戦況の悪化(制海・制空権の喪失)に伴い補給路は寸断され、戦争末期には輸送された食糧の半分近くが前線に到達せずに失われたそうです。
 これら食糧不足や心身の疲労に加え、ストレスや恐怖等によって体内の調節機能が変調を来し、身体が生きることを拒否する「戦争栄養失調症」が蔓延していました。
 さらに飢餓が深刻になると、食糧強奪のために友軍を襲撃・殺害するような事件があったことも紹介されています。

 また、日本軍では捕虜になることが事実上禁じられていたことから、多数の傷病兵を軍医や衛生兵が殺害(「処置」)する、あるいは彼らに自決を強要することが常態化していたことも明らかにされています。
 例えば1944年のインパール作戦では、退却する部隊の最後尾に落伍者を収容する「後尾収容班」が設けられましたが、その実態は、落伍者に肩を貸すどころか、自決を勧告・強要するのが役割だったとのこと。

 さらに著者は、兵士たちの無残な死の背景には、帝国陸海軍の構造的な要因(短期決戦重視、作戦至上主義(補給等の軽視)、極端な精神主義等)があったこと、さらには明治憲法体制そのものの根本的欠陥(統帥権の独立、多元的・分権的政治システム等)も指摘しています。
 著者は「約230万人といわれる日本軍将兵の死は、実にさまざまな形での無残な死の集積だった」とし、その一つひとつの死に対するこだわりを失ってはならないと訴えています。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-No.174
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 (過去の記事はこちらにも掲載)
  http://food-mileage.jp/category/br/