【ほんのさわり】青木美希『地図から消される街』

-青木美希『地図から消される街-3.11後の「言ってはいけない真実」』 (2018.3、講談社現代新書)-
 http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000190725

著者は北海道新聞等を経て朝日新聞の記者。
 携わった「手抜き除染」報道等は新聞協会賞を受賞し、さらに本書は貧困ジャーナリズム大賞、日本医学ジャーナリスト協会賞特別賞を受賞しています。

 東日本大震災から7年(本書刊行時)が経過する中、世間の関心は五輪やワイドショー的な事件に向い、原発事故のことは急速に忘れ去られつつあります。
 そのような世間の無関心をいいことに、避難者等に対する支援は打ち切られ、原発事故は「なかったこと」にしようとする国の思惑通りに進んでいることに、著者は危機感を抱き、「声の小さい弱者」の方たちへのインタビューを重ねます。

 声を上げることのできない東電の現地採用社員、横行する「手抜き除染」を強いられる除染作業員、ハクビシンに自宅を荒らされて声を失う旧住民など。
 そして「帰らないわがままな人たち」とレッテルを貼られる避難者の方たち。
 例えば2人の子どもを連れて東京に母子避難した女性は、住宅支援が打ち切られるなか心因性の病気になり、ついには自死を遂げます。

 避難者であることを理由にいじめられていることを告白した子どもを「虚言癖がある」と決め付ける教育委員会の指導主事、「私も住んでいるんだから危険などと言わないで下さい。あの人たち(自主避難者)って“お金持ち”なんですよ」とささやく県庁職員の姿等も描かれています。

 「復興が進んでいるという明るい面ばかり報道される」という現地の方の声を受けて、あえて「帰還政策」の欺瞞を告発したベストセラー。原発事故のことを忘れかけている私たちに取って、必読の書といえます。
 しかし一方で、自ら帰還することを選び、被災地で困難な暮らしを送りつつも頑張っている多くの方達もおられることも、忘れてはならないと思いました。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-No.176
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 (過去の記事はこちらにも掲載)
  http://food-mileage.jp/category/br/