【ほんのさわり】寺本英仁『ビレッジプライド』

寺本英仁『ビレッジプライド-「0円起業」の町を作った公務員の物語』(2018.11、プックマン社)
 https://bookman.co.jp/book/b427817.html

 1971年生まれの著者は、東京農業大学を卒業後にUターンして石見町(現 邑南町(おおなんちょう))役場の職員となりました。
 公務員になったのは、幼い頃からおばあちゃんに「公務員になりなさい、安泰だよ」と言われていたためで、最初の頃はあまり仕事に熱心ではなかったと告白しています。

 その後、結婚して長男が誕生し、同級生からは「役場は働け」と発破をかけられ、観光係に異動したこともきっかけになり、何とか町を持続させたいという一心で「町おこし」に邁進するようになりました。
 ネットショップの立ち上げ、「A級グルメ構想」の推進の一環としての役場直営の地産地消レストランの開店、「耕すシェフ」研修制度や「食の学校」「実践起業塾」の創設など、次々と斬新なアイディアを打ち出し、実行に移していきます。

 移住者の男性が、自己資金ゼロでパン屋を開業したエピソードも紹介されています。
 地元にパン屋が欲しかった地域の人たちが店舗を準備(空き店舗を改修)し、開店後は客としてパンを買うだけではなく、レジ作業や皿洗いを手伝ってくれているのだそうです。

 しかし全てが順調だった訳ではありません。「すべては試行錯誤」で、たどりつくまでの「紆余曲折」についても、本書には詳らかに書かれています。
 例えば、ネットショップの売上げは伸びたものの、ヒレやサーロインといった特定の部位ばかり売れてバラやモモが余って困っているという生産者の声を聞いた著者は、ショックを受け、自分にできることはないかと考え悩んだ末、一人で串焼きをつくって道の駅で売ったこともあったそうです。
 大量の串を刺すため手はボロボロになったとのこと。

 著者は「歩き始めるのがいちばん重要であり難しい。もし間違っても、その都度修正していけばゴールに近づいていく。ゆっくりであっても歩き始めれば、いつかゴールは見えてくる」と書かれています。
 著者の目標は「この町が好きで、誇りをもって暮らせる町」にしていくこと。その「ビレッジ・プライド」を全国に広げていきたいという著者のさらなる活躍に、期待したいと思います。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-No.178
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 (過去の記事はこちらにも掲載)
  http://food-mileage.jp/category/br/