【ほんのさわり】新井和宏、高橋博之『共感資本社会を生きる』

-新井和宏、高橋博之『共感資本社会を生きる-共感が「お金」になる時代の新しい生き方』 (2019.11、ダイヤモンド社)-
 https://www.diamond.co.jp/book/9784478109335.html

著者の新井氏は、外資系の資産運用会社勤務を経て、リーマンショック後に「いい会社」だけに投資する鎌倉投信(株)を創業された金融のプロ。
 一方の高橋氏は、「食べる通信」や「ポケットマルシェ」という斬新な仕組みを構築し、第一次産業の生産者と消費者をつなぐ活動を続けておられる方。
 「お金」と「食」という異なる分野におけるフロントランナーのお2人が、これからの幸せな社会のあり方や個人の生き方について語り合ったのが本書です。

 2人に共通する問題意識は、現在の資本主義は限界を迎えており、何らかの補正が必要ということ。
 生産性向上ばかり追求してきたために個性が排除され、関係性も失われた結果、10~30歳代の死因第一位が自殺という社会になってしまいました。

 そして、これからは「共感」をベースとした新しい社会(共感資本社会)の構築を目指すべきとしています。
 それは自然や他者との関係性を取り戻し、感じることで、自分の生が充実していく社会。多様性が尊重され、個々人の多様な価値観の下に、本当に大切にしたいものを大切にできる社会。そして正直者がバカを見るようなことのない社会とのこと。

 その実現に向けて、新井氏は eumo(ユーモ)という新しい「お金」(貯められない、現地に行って人に会わないと使えない)を提案、実証実験をされています。
 一方の高橋氏は、「食」を仲立ちにして生産者(農村)と消費者(都市)との間の顔の見える関係作りを推進し、今回の災害支援でも大きな力を発揮したそうです。

 しかし、この新しい社会は2人だけで創造できるものではないとし、
 「もう従うのはやめて、みんなで主体的に動こう。動いたら必ず自分が幸せになれるコミュニティ関係性を実感できる」と読者に訴えています。

 資本主義のパラダイムを変える可能性さえ感じさせられる好著ですが、18世紀の「経済学の父」アダム・スミスも共感(sympathy)の重要性を強調していることを思い返すと、本来の経済の姿への回帰を目指しているものと言えるかも知れません。

[参考]
株式会社eumo
 https://eumo.co.jp/
ポケットマルシェ(ポケマル)
 https://poke-m.com/

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-No.181
 2019年11月27日(水)[和暦 霜月朔日] 
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
  (過去の記事はこちらに掲載)
  http://food-mileage.jp/category/br/