【ほんのさわり】筒井一伸ほか『移住者による継業』

筒井一伸、尾原浩子『移住者による継業-農山村をつなぐバトンリレー』(2018.4、筑波書房(JC総研ブックレットno.22))  http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=05_81190535/

著者は鳥取大・地域学部教授と同非常勤講師(日本農業新聞記者)。第34回農業ジャーナリスト賞(2018年)を受賞しています。

 農山村では、農林水産業のみならず地域のなりわいの後継者の不足が深刻化している一方で、農山村への移住を希望する「田園回帰」の動きが活発となっています。
 このようななか、これまで世襲で行われてきた地域のなりわいを移住者などの第三者が継ぐ「継業」(バトンリレー)が、各地の農山村で広まっています。
 なお、継業は地域との関わりが大きいという面で、単なる事業承継や経営継承とは区別されるとのこと。

 継業には、起業に比べて初期投資の抑制、それまでの顧客を引き継げるなど多くのメリットがあります。また、移住者等の新しい視点や価値観に基づく革新性も備えているそうです。

 本書では、そのような4つの事例が詳しく紹介されています。
 岐阜・郡上市明宝地区では、農家等の協同組合が経営していたキャンプ場が高齢化と後継者不在により存続が危ぶまれていました。そこで、行政や商工会等が仲介・支援することで、滋賀県出身の男性が継業し、ネット等を積極的に活用して運営しているそうです。
 高知・香美市香北町のある地区に唯一あった商店も廃業の危機にありましたが、何とか存続させたいという地域の方達の思いもあり、高知市出身の夫妻が継業することとなりました。新たに食堂も始め、地域の社交場となっている様子が紹介されています。
 また、地域おこし協力隊だった男性が地元の豆腐店を継業した事例(新潟・小千谷市真人地区)、祖父母の糀(こうじ)店を孫が移住して継業した事例(千葉・鴨川市)も紹介されています。

 本書では継業を、後継者不足など農山村に共通する課題に対する一つの解決方法であると同時に、地域のなりわいを地域全体の資源・宝として捉えなおして存続させる「地域づくりの新しい挑戦」と位置づけています。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-No.185
 2020年1月25日(土)[和暦 睦月朔日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 (過去の記事はこちらに掲載)
  http://food-mileage.jp/category/br/