【メルマガ】F.M.Letter No.200

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.200◇
 2020年9月2日(水)[和暦 文月十五日]
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◆ F.M.豆知識  人類史と農地面積
◆ O.カレント  母なる地球を守ろう研究所(福島・喜多方市)
◆ ほんのさわり ハラリ「サピエンス全史」
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 2020年も9月に入りました。いつもと違う夏が終わりつつあります。
 時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信してきた本メルマガも、節目の200号を迎えました。読者の皆様に感謝申し上げます。ちなみに第1号は2012年10月30日付けの配信でした。
 今号では、地球・人類史と農業について少し考えてみました。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−人類史と農地面積−

 45億年前に形成された地球という惑星上に人類の祖先が現れたのが250万年前、ホモ・サピエンスが出現したのは20万年前とされます(諸説あります)。
 そして、農耕が始まったのは1万年ほど前と、地球史、人類史のなかではごく最近のことです。
 リンク先の図200は、世界の農用地面積の超長期推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2020/09/200_landuse.pdf

 イギリス・オックスフォード大学の研究者等の共同作業により構築・運営されている長期データベース“Our World in Data”によると、紀元前5000年の農用地面積は約4千万ha(農地1千万ha、放牧地3千万ha)でした(図の棒グラフ)。
 その後、世界的な農耕の広がりにより農用地面積は増加し、紀元前後には約10倍の4.4億haにまで拡大しました。さらに1600年には8.6億haとなりましたが、紀元の頃に比べると2倍弱の水準に留まっていました。
 ところがその後、農用地面積は増加のペースを大幅に高め、1900年には25億haとなり、現在(2000年)は48億haとなっています(農地15億ha、放牧地33億ha)。
 このように18世紀以降になって農用地面積が大きく増加した背景には、農業に関わる技術革新があります。産業革命による様々な分野における新技術開発は、農用地の開墾や灌漑施設の整備、農業機械の開発を推進し、農用地面積の拡大に貢献しました。

 一方、図の折れ線グラフは人口1人当たり農用地面積の推移を示したものです。
 実は1人当たり農用地面積が最も広かったのは紀元前3000年頃の2.7haでした。その後は1人当たり農用地面積は右肩下がりで推移し、さらに19世紀以降は大きく減少のテンポを早め、2000年には0.8haとなっているのです。
 これは、農用地面積が拡大した以上に人口が増加したためです。しかし現在、全地球的な広範な食糧不足が顕在化していないのは(サブサハラなど地域的な飢餓は撲滅されていませんが)、やはり産業革命の成果である化学肥料や農薬の開発によって単位面積当たりの収量が増加したためです。

 しかし様々な環境・資源制約が顕在化する中、将来にわたり、人類に十分な食糧が安定的に供給される保証があるとは言えません。

[資料]
 ウェブサイト“Our World in Data”
  https://ourworldindata.org/land-use

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−母なる地球を守ろう研究所(福島・喜多方市)−

 長谷川 浩さんは1960年岐阜県生まれ。
 農学博士で、国の研究機関で有機農業の研究等に24年間従事された後、2011年の原発事故を機に退職。福島・喜多方市山都(やまと)の中山間地に移住し、自ら有機農業や豚の放牧の実践に取り組んでおられる方。
 NPO福島県有機農業ネットワーク、同・縮小社会研究会の理事等を務められており、『食べものとエネルギーの自産自消』等のご著書もあります。

 その長谷川さんが2020年6月に立ち上げられたのが、「母なる地球を守ろう研究所」です。
 同研究会のHPによると、2020年からの10年で人類の運命が決まるとのこと。20世紀の価値観と仕組みでは、新型コロナウイルスのような感染症にも脆弱で、地球も子ども達の未来も守れないとし、母なる地球を守る方法について一緒に考えようと呼びかけられています。
 長谷川さんが目指す21世紀型文明とは、地球1個分の暮らしと社会を目指すもの。再ローカル化(顔の見える人に依存)、有機農業の普及等による循環的な生産と消費、地方分散、市民が主役といった内容です。

 インターネットセミナー(「情報ひろば」欄参照)や販売事業も予定されています(長谷川さんの放牧豚の豚肉は絶品!です)。
 理論だけではなく実践にも根差した、地域からの地球的なスケールの活動の発展に期待したいと思います。

[参考]
 母なる地球を守ろう研究所
 https://www.motherearthresearchinstitute.org/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史−文明の構造と人類の幸福−』(上下、河出書房新社、2016.9) −
 http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309226712/

 農業革命は、人類史上最大の詐欺であった。
 それ以前の狩猟採集民は、より刺激的で多様な時間を送り、バランスの取れた食生活を謳歌し、飢えや感染症のリスクも小さかった。ところが人類(ホモ・サピエンス)は農耕を始めたこと(農業革命)で、確かに食糧の生産量は増加したものの、人口爆発とエリート層の形成(身分格差の生成)につながったたけで、平均的な農耕民は、それまでの平均的な狩猟採集民よりも苦労して長時間働くようになったにもかかわらず、見返りに得られる食べ物は劣ってしまったのだ。
 しかし、その責任は、王や聖職者、あるいは商人に帰せられるものではない。犯人は小麦、稲、ジャガイモなどの植物種である。つまり、人類がそれらを栽培化したのではなく、それら植物種によって人類が家畜化されたのである。

 1976年生まれの歴史学者(イスラエル・ヘブライ大)によるこの世界的ベストセラーを最初に読んだ時、最も印象に残ったのが以上の記述です。衝撃を受けました。
 著者は250万年前の人類の誕生以降の人類史を俯瞰し、なぜ、人類の中でもネアンデルタール人等に比べて肉体的には劣っていた私たち(ホモ・サピエンス)が、地球上の覇者になり得たかについて考察しています。
 その道筋を決めたのは、7万年前の認知革命、1万2千年前の農業革命、そしてわずか500年に始まった科学革命(産業革命)であったとのこと。また、私たちの文明は虚構(宗教、資本主義、貨幣等)の上に成り立っているものとする洞察。
 なお、冒頭の記述は、他産業に比べて農業が詐欺だったということではなく、現代まで続いている近代資本主義に基づく「成長」そのものが大がかりな詐欺になりかねないとしています。

 そして人類史を現代までたどってきた著者は、ついに生命を変えるまでの技術を獲得したホモ・サピエンスを「自ら神にのし上がった」とし、その行く末は続編の『ホモ・デウス』で詳細に考察されています。
 いずれにしても私たちの未来は、手放しで喜べるような楽観的なものではないようです。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報

〇 イベントや勉強会(オンラインばかり)[8/26]
 https://food-mileage.jp/2020/08/26/blog-276/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ オンライン連続セミナー「コロナ禍における協同組合の価値」【全5回】
  第1回「持続可能な日本と地域社会ビジョン」
 講師:古沢広祐氏(國學院大學客員教授、JACSES代表理事)
 日時:2020年9月5日(土)14:00〜15:30
 場所:オンライン
 主催:(一社)市民セクター政策機構
   (特非)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
 (詳細、問合せ等↓)
  http://jacses.org/700/

○ 奥沢ブッククラブ 第59回「ペスト」
 日時:9月14日(月)19:00〜21:00
 場所:オンライン
 主催:奥沢ブッククラブ
 (詳細、問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/300675381169080/

○ インターネットセミナー「気候崩壊について知ろう」
 〜これからの10年が人類の未来を決める(全3回)
 日時:2020年9月15、22、29日(火)20:00〜
 場所:オンライン
 主催:母なる地球を守ろう研究所
 (詳細、問合せ等↓)
  https://www.motherearthresearchinstitute.org/%E6%B0%97%E5%80%99%E5%B4%A9%E5%A3%8A%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E7%9F%A5%E3%82%8D%E3%81%86/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「説明責任を果たさないって、入道雲みたいね」
「えっ、どういうこと?」
「モクモク(黙々)」

 2か月半ぶりの記者会見は辞任表明。批判も多々ありますが、病気による辞任とは気の毒ではあります。
 コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載しています。
  https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.201は9月17日(木)[和暦 葉月朔日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
  https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也

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