【ブログ】大江正章さん『有機農業のチカラ』から学ぶ(市民研入門講座)

NPO法人 市民科学研究室(市民研)では、毎週月曜日の夕方、市民研会員等を講師とした「市民科学を語る入門講座」を開催しています(会員以外の方も参加できます)。
 テーマは、数学、エネルギー革命、国際放射線防護委員会(ICRP)、核廃棄物の地層処分など幅広く、「入門」と銘打たれていますが、かなり高度な内容が含まれている会もあります。

 上田昌文代表は、科学とは縁遠い私にも温かい声を掛けて下さり、2月1日(月)の会(第10回)で話題提供する機会を頂いたのです。

選んだテーマは「コロナ時代を生きる知恵-大江正章さん『有機農業のチカラ』から学ぶ」。

 昨年12月に急逝された大江さんのご著書(残念なことに、ご遺稿となってしまいました)をテキストにさせて頂き、コロナ時代の食べものや農業のあり方について、参加者の皆様と考えてみようという趣旨です。

 説明資料は暫定版を前日にお送りしていましたが、ぎりぎりまで追加・修正。
 10分ほど前にzoomに入室。マイクとスピーカーがうまく機能して一安心。やがて18名ほどの参加者が次々と入室して下さいました。有難うございます。

上田代表の開会挨拶に続き、早速、パワーポイントを共有して説明。
 表紙の写真は、大江さんとご一緒した「ふくしま浜通りスタディツアー」(CSまちデザイン主催、2018.11/4)の際のいわき市薄磯海岸。美空ひばり『みだれ髪』の舞台となった塩屋岬の灯台です。

 続いて挨拶を兼ねて自己紹介(ここでボケをかましましたが、大スベり)。フード・マイレージの概要についても紹介させて頂きました。

 さらに大江さんとの個人的なつながりとして、スタディツアーやシンポジウム等での思い出の写真を紹介させて頂きました。

そしてようやく本題。以下は、私からの拙い説明の概要です。

 まずは、大江正章さん『有機農業のチカラ―コロナ時代を生きる知恵』(2020年10月30日、コモンズ)の構成(目次)から、幅広い内容を含んでいることを紹介。

 「まえがき」で大江さんは、コロナ禍は異常な産業社会・新自由主義経済が招いた当然の帰結であるとし、「脆弱な都市型社会と過剰な便利さの追求を見直し、 第一次産業を重視し様々なレベルにおける食の自給を目指すべき。軸となるのは持続可能な社会をつくる有機農業」とされている。

法律等における有機農業の定義は、農薬や化学肥料、遺伝子組み換え技術を使わない等とされているが、大江さんは、有機農業とは「本来の農業」であるとしている。

 日本の有機農業の取組み面積は増えているが、ヨーロッパ等に比べると非常に低い水準。しかし新規参入者の有機農業志向は高く、大江さんは「彼・彼女らは納得できる仕事と生き方を求めている」と評価。

大江さんによると、本来、有機的とは「良い関係性を作る」ことであり、道筋や手段の違いを認めて批判しないこと等を「有機的感性」と呼んでいる。

 日本の消費者は「自分と家族の(半径3メートル)の安全性は求めるが、農業・農村を守ろうとする意識は高くない」とし、徳野貞夫先生(熊本大)のアンケート結果を紹介されている。また、食べものにはまっとうな対価を払うことが必要で、生産者と関係性を持つことで割高とは感じなくなる、と大江さんは指摘されている。

本書でも他の著作でもそうだが、大江さんが自ら歩いた様々な地域の実例が豊富に掲載されている。現地を訪ね、その土地の方たちと交流することの大事さは、市民研の連続講座「日本の市民科学者の系譜」とも重なる。

そしてあとがきには、大江さんがこの本を創ろうと思った理由を記されている。
 一つは新型コロナ問題、もう一つは、ご自身が生まれて初めて大きな病気をして改めて命の有限性に向き合い、若い人たちのために集大成の本を残したかったとのこと。

そして本書が刊行された2か月後、63歳で大江さんは逝去され、お別れ会で頂いたお礼状には「走り抜けた人生」とあったことを紹介。
 そして、私自身も、大江さんの志の一部でも受け継いでいきたいと決意を述べさせて頂きました。

大江さんは産地や生産者とつながることの大切さを強調されているが、なかなか自分には難しいと感じた方もおられたかも知れない。
 しかし現在、コロナ禍の影響もあり、ネット等で生産者とつながる手段は増えているとして、本年1月10日(日)の市民研・新年交流会の際の資料の一部を紹介させて頂きました。

 ポケマルでサツマイモを買って下さった上田代表の写真(下)も(ご本人の事前許可を得ず)紹介させて頂きました。

最後に、近年、多くの論者が資本主義は限界を迎えつつあると論じているが、食は持続可能性を追求しやすい分野(自ら選択できる余地が大きく、地域の資源・風土と密着)であることを指摘。

 そして、自分たち消費者が持続可能なライフスタイルを選択することが、地域や地球全体の持続可能性にもつながる(「あなたの食が地球を変える」)旨を訴えさせて頂きました。

(写真右は市民研・新年交流会(1/10)の時のもの)

40分ほどの説明(やや長くなってしまいました)に引き続き、参加者の皆さんとの意見交換。
 司会の上田さんの「抽象的ではなく、自分の生活等を踏まえた議論ができれば」との言葉を受けて、多くの意見が出されました。

 「有機農業のシェアが低いことに驚いた」「市民農園で無農薬で作った野菜は不揃いで虫食いもあるが、びっくりするほど美味しい」等の感想。

 「地元の市の環境審議会で、JA出身の委員は消費者は綺麗な野菜でないで買わないと主張していた」という経験を披露して下さった方も。

 「多品種少量生産が本来の農業ではないか。有機でなくても生産のプロセスが分かれば消費者は買うのでは。市民農園は体験したことを語り合う場としても重要」という意見。

有機農業の里と言われる小川町で活動されている女性からは、
 「有機農産物は高いと言われるが、農家の手取りは1/3ほど。企業との全量契約栽培など普通の値段で手に入る仕組みを地域で作っている。日替わりシェフのレストランなど、有機の良さの「見える化」にも取り組んでいる。コーディネータの存在が重要」等の意見。

 「成田空港闘争の経験もあり、千葉では率先して有機栽培や都市住民との交流活動に取り組んでいるJAもある」と紹介して下さった方。

 東京・あきる野市で自然栽培に取り組んでいる方からは「きちんと土づくりを続ければ虫食いは減る」等のコメント。

 「大江さんは社会問題に対する深い情熱をお持ちで、会うたびに惹かれていった」という思い出を話して下さった方もおられました。

最後に上田さんから、
 「消費者が体験活動等を通じて生産者とつながっていくことがポイント。今日の参加者の皆さんなど関心のある人が一歩を踏み出し、身近なところからレベルアップを図っていくことが重要では」という閉会の言葉があり、この日の講座は終了。

 拙い資料と説明で恐縮でしたが、お忙しいなか多くの方が参加して下さり、貴重な意見交換ができたと思います。
 参加された皆様、上田代表はじめ市民研の皆様、有難うございました。もちろん、素晴らしい本を残して下さった故 大江さんにも感謝です。
 
 私自身、「半径3メートル」からでも、食を通じて少しでも良い社会を作っていきたいという思いを新たにしました。

翌2月2日(火)は節分。例年より1日早まるのは124年ぶりとのこと。
 お寿司を巻いてみましたが、綺麗にできませんでした(これでは「負け寿司」?)。
 福島・いわき小名浜から届いた鰯の丸干しとともに頂きました。

 翌3日は立春、さらに4日には観測史上もっとも早い春一番が吹きました。日比谷公園では早くも菜の花が満開です。
 地球温暖化で、日本の暦も変わりつつ(壊されつつ)あるのかも知れません。

 私たちが何を食べるか(環境負荷の小さな食品を選択すること)は、地球環境とも関わっているのです。