【ブログ】正義の食、真っ当な食

代替肉、昆虫食、ヴィーガンなどが流行りですが、「畜産は地球環境を破壊しているから肉食は正しくない」といった主張には大いに違和感があります。

 一口に畜産(物)といっても生産や流通のスタイルによって環境負荷の大きさも様々で、一律に「肉を食べない」のではなく、環境負荷の低い肉(放牧や自給飼料など)を選ぶことが大事だと思っています。
 そもそも「食べる」という極めて人間的な個人的な営みについて特定の正義感、価値観を押し付けようとすること自体、多様性を軽視するという意味からも正しくないと私は思うのですが、いかがでしょうか。

オンラインのイベントが連続。
 オンラインは参加しやすく便利ですが、どうしても議論が深まらない傾向があり、物足らなく思うのは私だけでしょうか。

2021年8月24日(火)の18時30分からは「今夜もご機嫌@銀座で農業」というイベントに参加。
 コロナ禍以前はリアルで開催されていた銀座農業コミュニティー塾が、現在はオンラインで定期的に開催されています。

前半は蔦谷栄一先生(農的社会デザイン研究所)による「農業情勢トピックス」。
 記録的大雨や米の生産過剰問題、農林水産省のニッポンフードシフト農村政策についての新たな動き等に加えて、「持続的な畜産物のありかた検討会中間とりまとめ」について紹介がありました。

蔦谷先生によると、これは農林水産省「みどりの食料システム戦略」の畜産版で、有機機畜産物についての消費者理解増進、気候風土を踏まえたアニマルウェルフェアの推進、放牧や飼料自給率の向上など、環境負荷低減を意識した取組みの方向が示されているとのみとです。

後半は、ヴィーガンストア等を運営されている鈴木翔子さん(global meetsb合同会社)から報告を頂きました。
 熊本や長野で地域活性化に取り組んでおられること、地域資源の循環や有効利用を進めておられる様子など興味深い内容でした。
 ただ、世界の全人類が肉食をやめれば二酸化炭素排出量を70%削減できる等のご発言には違和感を覚えざるを得ず、また機会があれば、改めてお話を伺いたいと思った次第。

続いて同日の19時30分からは(一社)縮小社会研究会オンライン座談会を視聴。

 まず、松久 寛代表から「日本の食料自給試案」について紹介して下さいました。生産、消費、貿易など、様々な統計数値等をご自身で調べられた「力作」で、今後の食料政策を考える上で一つのたたき台となる貴重な報告でした。

続いて、母なる地球を守ろう研究所(福島・喜多方市)の長谷川 浩さんによる「農業と農村・農家は三位一体」と題する報告。
 さらに長谷川 浩さんに加えて、青野豊一さん、 長谷川義仁さん、 大前宏一さんという生産者の方々による対談。
 もはや農民には期待しないでほしいという絶望的な発言も出た一方、有機農業を広げていくために本来の姿(商品生産・販売ではなく提携)を取り戻していくべき、週末だけでも都市住民は地方に来て農に携わるべき、等の意見や提言も出されました。

都市部の住民にとって実際に農業に携わっておられる方々の「肉声」を伺う機会はほとんどありません。様々な立場の方が参加されている市民団体がこのようなイベントを企画して下さったことは、貴重な機会となりました。

翌8月25日(水)19時からはNPO市民科学研究室「TV科学番組を語り合う講座」に参加。
 この日取り上げられたのはNHKスペシャル 東京リボーン第3集「輸送革命 果てなき欲望との闘い」(2019)です。

一番印象的だった映像は、チリで養殖されタイで加工された鮭を使ったおにぎりが、日本のコンビニで24時間販売されている様子。
 「物流革命」は重要で、それに携わっておられる現場の方々(コンテナふ頭のガントリークレーンのオペレータ、海底トンネル建設に従事する潜水士など)のご尽力には大いに敬意を表する一方、自分たちの「果てしない欲望」に歯止めをかける必要もあると痛感する番組でした。

8月26日 (木)はNPO有機農業ネットワーク主催の地域づくりオンラインセミナー #1『堰と棚田を軸にした関係人口の作り方』に参加。

代表の浅見彰宏さんからは、喜多方市山都町本木早稲谷地区人口減少が進む山間部で、地域外のボランティアを募集して江戸時代から続く水路(本木上堰、喜多方市山都町)を維持している状況等について紹介して下さいました。
 浅見さんご自身も、鉄鋼メーカーを退職して移住・新規就農された方です。

浅見さんは、故・明峰哲夫さんの「有機農業運動はたくましい農民を生んだが、たくましい消費者を生むことには失敗した」との言葉を引用されつつ、弱体化していく地縁(農村)コミュニティからミッションを持ったテーマ型コミュニティへの転換、Win-Winではなく弱さ(お互いが必要なもの)を交換することによる新しい形の地域づくりを提唱されていたのが心に残りました。

8月28日(土)の13時からは、NPO日本有機農業研究会の50周年記念シンポジウム「さあ、有機の時代へ」を視聴。初のオンライン開催だそうです。

冒頭、魚住道郎理事長から「この50年、単なる売り買いの関係だけではなく、提携を通じた人と人との関係性を培ってきた」等の開会挨拶。
 続く第1部は、久保田裕子先生(國學院大學)による「みどりの食料システム戦略-概要と問題点」と題する講演です。

本年9月に国連食料システムサミットが予定されているが、これは途上国に(ビル・ゲイツらが主導する)工業的農業を押し付けようとするもの。
 農水省の「みどりの食料システム戦略」も先端科学技術やデジタル化、スマート農業ばかり強調されていることには問題が大きい等の内容でした。

第2部は、江原浩昭氏さん(埼玉県鴻巣市・ガバレ農場)をコーディネータに、明石誠一さん(埼玉三芳町・明石農園)、樋口かおりさん(大阪交野市・かたのの森のようちえん)、浅見彰宏さん(福島県喜多方市ひぐらし農園)、森田加代子氏(熊本県宇城市・うきうき森田農場)、松沢政満さん(愛知県新城市・福津農園)からの実践報告とディスカッション。

「有機農業には多様な仕事があり、障がい者福祉との親和性が高い。障がいのある方を地域で支えていくことは、正に有機農業的なつながりと言える」
 「朝市など多様な販売チャネルを増やすことも重要。新規就農者を知ってもらえる機会にもなる」
 「ネット販売等も行っているが、口コミや友達の紹介が一番長く続く」
 「都市住民でも、通信の発行や見学会を通じて生産者との距離を近くすることができる。子どもたちは畑の生きものに夢中になる」
 「有機農業は排除の論理ではなく、物質循環など共存の論理に立つ。虫や雑草とも共存でき、地球全体の課題へのモデルとなる」等々、現場で活動されている方たちならではの多くの示唆に富むご発言が続きました。

明石農園HP、農水省HP(うきうき森田農園の紹介)より。

最後に熊本の森田さんから、
 「有機農業が時代のさきがけとなり、ファッションとなる世の中が来るのが楽しみ」とのご発言。50年以上にわたって学習会や有機農業に取り組んで来られた方の言葉だけに重みを感じました(森田さんのお宅には、九州農政局在勤中に何度がお尋ねしたことがあることを懐かしく思い出しました)。

一連のオンライン・イベント等を通じて、多くの学びを頂きました。
 その一つは、「正義の食」はないけれども、「真っ当な食」はあるのではないか。そしてそれは、消費者自らが選び取っていくものではないか、とうことです。

 故・宇沢弘文は「農業は、自然と共生する産業であるところが工業とは決定的に違う」と述べられています(『人間の経済』)。
 とすれば、遺伝子組換えやゲノム編集、植物工場、代替肉などの「フェイク」食品などは、仮にそれらが安全性や地球環境に配慮したものであっても、本来の農業(農の営み)により生み出されたものとは言えないのかも知れません。

宇根 豊さん(百姓、元 農と自然の研究所代表)がおっしゃっている通り、食べものとは人間が「生産」するものではなく、人間の自然に対する働きかけを通じて、自然の恵みによって手に入れることができるものです。
 であれば、それを一方的に消費する身(消費者)としては、自然の循環のなかで生産され、「顔の見える関係」(有機的なつながり)を通じて入手する食べものこそが、「真っ当な食」と言えるのではないでしょうか。
 また、それができる者、意識して心がけることができる者が「たくましい消費者」と言えるのではないでしょうか。

以上は私の個人的な意見です。ご感想、ご批判などお寄せ頂ければ幸いです。