【ブログ】都内の循環型牧場と新渡戸『農業本論』

2021年10月18日(月)。雨模様の日々の合間の晴れ間に、東京・八王子へ。
 JR高尾駅から京王高尾線に乗り換えて3駅目の山田で下車。交通量の多い都道を渡りゴルフ練習場の脇を抜けたところに、磯沼ミルクファームの看板が出ています。畑や放牧地など、視界が一気に広がります。
 私は5年ぶり、2度目の訪問です。

 木漏れ日のなかの坂道を下っていくと、牛舎が見えてきました。
 様々な品種の牛が、一心に首を伸ばして牧草の餌を食んでいました。覗いていると、牛の方から近づいてきます。

さらに進むと案内板。そしてたい肥舎。
 ここでは畜産廃棄物である牛糞と、コーヒー殻等の食品廃棄物が資源として再利用されています。化学肥料が莫大なエネルギーを使って合成されることに比べると、みごとな対比(たい肥)です(笑)。
 悪臭はほとんどなく、ほのかにコーヒーの香りが漂っています。

ビル・ゲイツは著書のなかで、化学肥料の多投と品種改良で収穫量の大幅増を実現した「緑の革命」をさらに世界に広げるべきと主張していますが、エネルギー多投、科学技術偏重とは別の(オルタナティブな)循環型の農畜産業が、ここでは実現しているのです。
 地球の、あるいは地域の環境にとって、果たしてどちらのスタイルが望ましいのでしょうか(二者択一という訳でもないのかも知れませんが)。

なお、生産された牛糞コーヒーたい肥は袋詰めにして、一般の人にも販売されています(持参した袋に詰め放題もあるそうです)。

ピザ等が焼ける石釜があり、その先には仔牛舎があります。
 ジャージー、ブラウンスイス、ホルスタインなど毛色も品種も様々。平日の昼間だったので子ども達の姿はありませんでしたが、人気のコーナーと思われます。

 少し大きな牛たちは、野菜くずなどの餌を一心に食べていました。廃棄される野菜の皮や芯などが、牛さん達のご馳走になっています。

ヨーグルト工房・直売所もあり、テラスや庭先の椅子に座って頂くことができます。
 この日はヨーグルト(濃厚!)と人気のジェラードを頂きました。お土産に牛乳やソーセーも。

羊も放牧されていました。一心に草を食んでいます。

 隣には農業体験もできる教育ファーム。
 固定種等の野菜などが栽培されており、無人の直売所で求めることもできます(小松菜を一束、購入させて頂きました)。

近年、温暖化ガスの発生源であるとして、ともすれば畜産は「悪者」扱いされる傾向があります。肉や酪農品を食べないことが、環境に優しいクールな行動(ファッション?)ともてはやされる気風さえあります。

 しかし、東京都内においても資源循環型の酪農が営まれていることを、ぜひ多くの方に知って頂きたいと思います。
 できれば訪ねて、牛たちの姿を見ながらヨーグルトなどを頂いてみてください。畜産に対する表層的な見方が変わるかもしれません。

ところで、新渡戸稲造に『農業本論』という著作があります。

 有名な『Bushido(武士道)』の前年(1898年)に出版されたもので、母校でもある札幌農学校の教授時代に行った講義をベースに、欧米留学等の経験を踏まえた幅広い知識と視野のもとで、農業、農村が論じられています。

その最終章(結論部分)のタイトルは、「農業の貴重なる所以(ゆえん)」。

 新渡戸は農を貴ぶべき理由として、人間が必要とする食料を生産すること、商工業の発達に寄与すること、多数の就業の機会と提供していること等に加えて、「廃物を利用すること」を掲げています。
 屎尿など「廃物視される塵芥」を野菜や穀物の生産に利活用することは、廃棄物処理のコストを削減すると同時に衛生面でも貢献するとして、「その効、何ぞ医の仁術に譲らんや」と高く評価しているのです。

新渡戸は、日本の資本主義の草創期という、公害や地球温暖化が社会問題となるはるか以前の時点で、農が持つ自然循環機能に注目していたことが分かります。