2021年秋の福島訪問(1日目、大熊町)

新型コロナウイルス感染症にかかる緊急事態宣言等が9月末に解除され、2回のワクチン接種も終了したこともあり、ようやく福島訪問が実現しました。3泊4日の予定です。
 本年3月のプレゼントツリーのツアーを別にすれば、およそ2年半ぶりです。

2021年10月30日(土)。
 東の空が白み始める頃に自宅を出発し、JR武蔵野線・京浜東北線経由で大宮へ。快晴です。7時5分発のやまびこ203号の座席は9割方埋まっています。

 8時19分に郡山着。駅前でレンタカーを借りて、国道288号線を大熊町に向かいます。
 深刻な事故を起こした東京電力・福島第一原子力発電所が立地する大熊町は、役場や復興公営住宅団地、交流ゾーン(後述)等が立地する大川原地区(東京五輪の聖火リレーも行われました。)と大野駅周辺を除いて、現在も避難指示(帰還困難)区域に指定されています。
 一時立入りには、住民、ボランティアを含めて許可が必要です。

大熊町に入りましたが、各所で道路工事が行われていて景色が変わっています。いったん通り過ぎてから戻り、10時過ぎにもーもーガーデンに到着しました。

もーもーガーデンでは、大震災と原発事故を生き抜いた牛たちを生(活)かすことで、荒廃しつつある土地と景観を保全する取組みを行っています。

 帰還困難区域を示す柵の手前で、谷さつきさん((一社)ふるさとと心を守る友の会 代表)が待っていて下さいました。
 谷さんは、本年7月の第2回 食と農の市民談話会(NPO市民研主催)でも話題提供をして下さっています。

 この日、ここでのボランティアは私と妻の二人だけのようです(隣接する富岡町で草刈り作業をしている方がおられるとのこと)。

 長靴と手袋を消毒した後、パネルを手にした谷さんが牧場内を案内して下さいました。
 もーもーガーデンでは、大震災と原発事故を生き抜いた牛たちを生(活)かすことで、荒廃しつつある土地と景観を保全する取組みを行っています。
 美しく整備された草原の景色ですが、牛が入る前の同じ場所の写真を見せてもらうと、人の背丈以上の高さの雑草や灌木が生い茂っています。牛たちが草などを食べることで、住民が避難し放棄された地域を綺麗にしてくれているのです(効果は抜群のようです)。

ところが、11頭いるはずの牛たち(もーもーイレブン)がなかなか見つかりません。ようやく牧場の東端に近い一画で、群れになって草を食んでいる牛たちに会えました。
 抱えて行った塩のブロック(なかなか重い!)を与えると、さっそく美味しそうに舐め始めます。

谷さんの姿を見つけた牛たちが集まってきます。目の前で見るとなかなかの巨体で迫力があります。
 谷さんは、一頭ずつ牛の背中を撫でながら、声を掛け続けます(これが本当の放し(話)飼い?)。

ここでは配合飼料は与えておらず、特に牧草の栽培もしておらず(したがって農薬や化学肥料は使っておらず)、えさは自然の草などが中心とのこと。
 糞尿はそのまま土に戻されていて、あちらこちらにある牛糞を谷さんが手にとって(!)臭いをかがせてくれましたが、全く悪臭はありません。
 おかげで土壌は自然にふかふかになります。台風等で土砂が崩れても、放牧地とそれ以外では草地の回復のスピードが全然違うそうです。

 電柵はありますが、水は高いところの水源から家庭用(!)ホースで自然にとっているなど、エネルギーも極力使っていません。

 谷さんはこの自然循環型の飼養方法が、生態系保全や二酸化炭素の土壌貯留等の面で効果的であることを、経験から実感されています。
 その効果を客観的なデータで明らかにしたいと、大学や民間研究機関等に声は掛けられているそうですが、今のところあまり具体化はしていないとのこと。
 ともすれば、牛はげっぷでメタンを放出するなど「悪役」扱いされることもありますが、いずれにしても環境や地球温暖化などはホット(!?)なテーマだけに、もーもーガーデンが貴重な研究・実証のフィールドとしても活用されればいいと思われるのですが。

気が付くと正午を回っていました。これでは手伝いに来たのか邪魔しに来たのか分かりません。
 柵の外の作業小屋に戻り、牛に与えるリンゴの選別をお手伝いすることに。県内の喜多方市や二本松市の有機農家の方から、販売できない規格外のリンゴを無償で提供してもらっているそうです(見た目は美味しそうなものもたくさん)。
 ところが帰還困難区域内であるためボランティアの数も制限されており、取りに行ったり仕分ける作業も十分にできないとのこと。

明らかに痛んでいるもの、傷があったり赤く熟していたりして早目に給餌した方がよいもの、しばらく日持ちしそうなものに分けていきます。外見は綺麗でも、割ってみると中が黒く腐っているものもあります。
 牛が草刈りをしてくれるお陰で復活した野草が、目を楽しませてくれます。

 作業の段取りを指示してもらったあと、谷さんはいったん富岡町の草刈り作業現場へ。
 2時間弱をかけ、コンテナ6箱ほどあったリンゴの仕分けが終わった頃に谷さんが戻ってこられました。

丸いままだと牛が喉に詰まらせる恐れがあるそうで、包丁などで適当に割っていきます。
 それを台車に載せて牧場内に運び、頭数分の桶に分けていきます。牛はそれぞれ個性があるそうで、少し離して置いていきます。

 続いて隣の草地ではロールをほどき、これも牛の頭数分ほどに分けて置いていきます。富岡町で刈り取られた草だそうで、ラップをはがして分けていると発酵香がします。
 気が付くと、エサの匂いをかぎつけたのか、端れたところから牛たちが移動し集まってきました。
 美味しそうに一心にえさを食む様子を、谷さんが優しく見守っています。

16時前には後片付けも終了。
 再び長靴などを消毒した後、谷さんに先導されて町のスクリーニング会場へ。車輛と靴の裏などの線量をチェックされ、その後、谷さんは今夜の宿泊場所近くまで案内して頂きました。
 大したお手伝いもできず、お忙しいところ有難うございました。

17時前、ほっと大熊(宿泊温浴施設)に到着。この10月にグランドオープンしたばかりの交流ゾーンの一画にあります。
 かねて色々とお世話になっているふたすけ(ふたば地域サポートセンター)の鈴木亮さんに紹介して頂きました(亮さんはこの施設でも勤務されているそうです)。

ちょうど、隣のLinkる大熊(交流施設)で国際イベントの準備中だった亮さんに挨拶。
 係の方が施設内を案内して下さいました。研修室のほか運動器具を備えたジム、ピアノやドラムセットもある音楽室スタジオもあり、多目的ホールでは翌日の衆院選投票日に合わせた町民健康診断の準備が進められていました。

チェックイン時、記念にと「帰忘郷」という銘柄の日本酒をプレゼントして下さいました。
 町内産の酒米(五百万石)を、原発事故後、一時、役場も含めて避難していた会津地方の蔵に委託して醸造したものだそうです(後日頂きましたが、芳醇な風味で美味でした)。
 部屋は広く、温浴場も快適です。

 夕食は、何度かお邪魔したことのある富岡町のCafé Yへ。
 震災後、早い時期から、復興支援の方や帰還者をサポートするために営業されていたお店です。
 この日は生姜焼きやエビフライ盛り合わせの定食を頂きました。Wさん、今回もご馳走様でした。

 20時前にホテルに戻り、交流ゾーン内のコンビニで買ったビールを飲むうちに、椅子の上で寝落ちしてしまいました。そのままベッドへ。
 初日の終了です。