【メルマガ】F.M.Letter No.229

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.229◇
  2021年11月5日(金)[和暦 神無月朔日]
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◆ F.M.豆知識  農業・食料関連産業のシェアの推移
◆ O.カレント  食品ロス削減の日(10月30日)
◆ ほんのさわり 平賀 緑『食べものから学ぶ世界史』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 和暦では神無月に入りました。新穀で酒を醸す季節であることから醸成月(かもなしづき)とも呼ばれます。部屋のカレンダーはあと2枚となりましたが、昼間は暖かい日が続いています。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録下さった皆様に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−農業・食料関連産業のシェアの推移−

リンク先の図229は、農業・食料関連産業の国内総生産の、全経済活動(GDP)に占めるシェアの推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2021/11/229_share.pdf 

 国内農林漁業のシェアは、1970年には5.5%でしたが2019年に1.0%へと低下しています。また、食品製造業や外食産業を含む関連産業全体では、同期間に15.6%から9.6%へと同様に低下していますが、それでもGDP全体の約1割を占めています(なお、これには輸入原料を用いた加工品等も含んでいます)。
 一次産業以外の関連産業のシェアが相対的に大きくなっていることが分かります。

 国内農林漁業のシェアが低下傾向にあり、現在は1%という低い水準となっていることについて、悲観的に(あるいは批判的に)捉える見解もありますが、それは必ずしも妥当とは言えません。
 というのは、経済の成長に伴って経済の中心が第一次産業から第二次産業、さらには第三次産業へと移行していくことは歴史的に普遍的にみられる法則(ペティ=クラークの法則)です。現に主要先進国における第一次産業のシェアはいずれの国でも1〜2%となっていますが、だからといって、アメリカやフランスの国内において第一次産業の重要性を否定するような意見があるとは、寡聞にして聞いたことはありません。

 なお、これは一次産業に限った話ではありませんが、私たちは、そろそろ大きいことがいいことだという意識(成長信仰)を変革すべき時期に来ているのかも知れません。
 ちなみに作家・市民運動家の森まゆみさんは、「下町には『小粋』『小体(こてい)』『小ぎれい』など、小さいことが良い意味を持つ言葉が多い」と話されています。

[資料、参考]
 農林水産省「農業・食料関連産業の経済計算」
  https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/keizai_keisan/
 森まゆみ、松久 寛『楽しい縮小社会』(2017.6、筑摩書房)
  https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480016515/

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−食品ロス削減の日(10月30日)−

(消費者庁HPより)

「豆知識」欄でも紹介したように、食料関連産業(食品製造業、流通業、外食産業等)が発展し食品流通が広域化するなかで、年間600万トンという膨大な食品ロスが発生しています。
 このようななか、農林水産省は去る10月30日の「食品ロス削減の日」に合わせて、食品ロス削減や食品リサイクルなど商慣習見直しに取り組む事業者の取組を募集し公表しました。このなかでは、いわゆる「3分の1ルール」(賞味期間の3分の1以内で小売店舗に納品する慣例)の見直しや賞味期限表示の大括り化に取り組む事業者が増えている状況がみられます。

 一方、食品ロス削減のためには事業者のみならず消費者の取組みも重要です。例えば、消費者庁が中心となって、商品棚の手前にある商品を選ぶ「てまえどり」を呼びかけるキャンペーン等を行っています。

 ちなみにゴミ清掃員でお笑い芸人である滝沢秀一さんは、「消費者は100円の大根を買う時には1円でも安くと気にする一方で、腐らせて半分(50円分)捨てたりしている」等と話しています。

[参考]
 農林水産省プレスリリース「食品ロス削減や食品リサイクルの取組事業者と取組内容を公表」 
  https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/211029.html
 消費者庁HP「食べもののムダをなくそうプロジェクト」
  https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/ 
 マシンガンズ滝沢秀一『このゴミは収集できません』(2018.9、白夜書房)
  http://www.byakuya-shobo.co.jp/page.php?id=5648&gname=shoseki_livingculture

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−平賀 緑『食べものから学ぶ世界史−人も自然も壊さない経済とは?』(2021.7、岩波ジュニア新書)
 https://www.iwanami.co.jp/book/b584818.html

広島出身の著者は、国際基督教大学卒業後に香港の大学に留学し、新聞社、金融機関等に勤めながら食や環境に関わる市民活動を企画運営された後に、改めて大学院に進学し、ロンドン市立大学で修士(食料栄養政策)、京都大学で博士(経済学)を取得されました。
 現在は、京都橘大学経済学部准教授を務めるとともに、様々な市民活動にも参画されています。

 本書では、現在の「資本主義的食料システム」がもたらしている多くの問題が明らかにされています。
 著者によると、資本主義とは拡大と成長を延々と続ける政治経済システムであり、今や世界のオべレーティング・システムになっているとのこと。これに食料や農業も取り込まれてしまったため、生命の糧であるはずの食べものは「金儲けのための商品」へと変貌し、、経済的効率性を優先した工業的農業生産が行われ、地球環境と人の健康と地域社会を破壊しているとしているのです。
 また、戦後日本で輸入原料に依存した食料システムが構築されたことについては、消費者の嗜好(食生活)の変化だけでは説明がつかないともしています。

 その一方で、資本主義自体は、日本では明治以降150年にも満たないものであり、自然の法則でも不変のシステムでもないこと。さらには地球は有限で、モノも飽和状態にあるなど、資本主義自体が行き詰まっていることも明らかにしています。
 したがって、今後は私たち一人ひとりが、どのように人と環境に望ましい持続的な食と農のシステムを築いていくかについて考える必要があるとしているのです。

 とは言え、私たちの毎日の食事などは小さなことです。
 しかし著者は、食べものが世界経済や政治がつながっていることを自覚して「自分ごと」としつつ、小さな取組みを広げていけば「いつかきっと世界のシステムを変えることができる」としているのです。
 そのはじめの一歩として著者が具体的に提案しているのは、例えばペットボトルではなく自分でお茶を淹れてみる、料理に挑戦する、そして地域で頑張っている小さな農家とつながること等です。

 「まずは今日のご飯から、人も自然も壊さない世界を考えてみませんか」と著者は訴えています。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 都内の循環型牧場と新渡戸『農業本論』[10/23]
 https://food-mileage.jp/2021/10/23/blog-341/

○ 安藤昌益の「ご縁」[10/28]
 https://food-mileage.jp/2021/10/28/blog-342/

▼ 筆者が企画・進行役を務める食農市民談話会(全6回)の最終回です。参加者募集中です。
○ 第6回 食と農の市民談話会
 日時:11月 9日(火)19:00 〜21:00
 話題提供:平賀 緑さん(京都橘大学准教授、「ほんのさわり」欄参照)
 『食と資本主義の歴史ー人も自然も壊さない経済とは?』(仮題)
 場所:オンライン
 主催:NPO 市民科学研究室
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.shiminkagaku.org/agrifoodmeetings/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 奥沢ブッククラブ第73回・玄侑宗久『中陰の花』
 日時:11月8日(月) 19:00〜21:00
 場所:オンライン
 主催:奥沢ブッククラブ
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/267355025319089

○ 野菜がもっと好きになる(親子)収穫体験
 日時:11月23日(火・祝)10:30〜12:30
 場所:白石農園(東京・練馬区大泉町)
 主催:CSまちデザイン
 (詳細、問合せ等↓)
 https://cs-machi.com/kouza5/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「穀物より草の方が好きな牛もいるんだって?」
「ぼく、そう(牧草)」

 輸入トウモロコシ等で飼養する工業的畜産と異なり、放牧は自然循環等の面で優れています。
 コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.230は11月19日(金)[和暦 神無月十五日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/
 (2022年版が出てるんだ!)

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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