【ブログ】森 歩さんの「川湊の暮らし・港町の仕事」(第9回 食と農の市民談話会)

2022年3月15日(火)。
 食と農の間の距離を縮めるきっかけ作りを目的に、昨年6月から月1回のペースで6回(別に番外編(放談会)も1回)開催してきた食と農の市民談話会。本年に入ってからの第2シーズンの3回を含めて、全9回の最終回を迎えました。

この日、ゲストとして話題提供頂くのは森 歩(もり・あゆみ)さん。
 兵庫県北部・但馬(たじま)地域にある香美町の但馬漁業協同組合(JF但馬)にお勤めの方です。
 談話会として、初めて漁業を取り上げることとなりました。

主催者であるNPO市民科学研究室・上田代表の挨拶に続き、進行役の中田から毎回恒例の「今日の豆知識」を紹介(昨年の拙メルマガからの転載です)。

 日本の海面漁業の漁獲量は、200海里時代の到来も1980年代のピークから3割弱にまで減少。
 特に近年におけるさけ類、さんま、するめいか漁獲量の大きな減少は、昨年の水産庁研究会の検討結果を踏まえ、地球温暖化などに起因する資源変動によるもので、今後、長期に継続する可能性がある等の説明を行いました。

続いて森さんから、多くの写真等を使いながら、今の暮らしや仕事の様子について話題提供して下さいました(以下、文責は中田にあります)。

「昨年、豊岡市竹野町に移住した。竹野川が日本海にそそぐ地。海岸までは徒歩1~2分で、小高い山(じゃじゃ山)に登ると日本海と猫先半島が一望できる。兵庫県最北端の岬で、地元の人は『キユーピー半島』と呼んでいる」

以下、写真は、特に記載のない限り当日の森さんの説明から。

「大好きな景色。お弁当を持っていくこともある。
 小さかった愛犬・アフロも大きくなった。犬の散歩をしていると、色んな人が話しかけてくれる。彼のお陰で世界が広がった」 

豊岡市では、毎年、出身者である植村直己さんを記念した『冒険賞』の選考と授賞式を実施。
 2019年には平田オリザさんが劇団とともに移住された。豊岡演劇祭は昨年はコロナの影響で中止されたが、今年は2年ぶりに開催される予定。
 豊岡市は、冒険家やアーティストを受け入れる度量がある土地。竹野温泉もある」

コウノトリ育む農法でも有名。
 コウノトリは1970年代に全国から姿を消したが、豊岡市では冬期湛水(とうきたんすい)や農薬使用削減等により復活させた。コウノトリをシンボルに、住みやすい環境づくりに取り組んでいる。
 移住者には、1俵分のコウノトリ米の引換券をくれる。自ら農家に取りに行くことで、農家や地域の人との接点ができることになる。自分は昨年3月の田植えから通い、10月に受け取ることができた」

 「ナシやブドウの生産が盛んな地でもある。ナシの花は綺麗」

「街の中では、アカモク(海藻)など海産物を干す光景が多くみられる。自分で食べる分でも勝手に採って食べることはできず、漁協の組合員となる必要がある」

「黒い街並みは、耐久性の高い焼き杉板が壁に使われているため。移住をサポートするNPO と焼き杉板を作るイベントを企画したが、やってみるとなかなか難しい。
 野生獣害も拡大しており、わな猟や解体も見学した」

「毎日、この夕日が見られるだけで幸せ。5月頃には夜光虫で彩られる。冬は『兵庫の北海道』と呼ばれるほど厳しい。ほとんど晴れ間はなく雪もかなり降る。
 一方、夏は暑く、四季がはっきりしている。桜、紅葉など1年を通じて景色が賑やか」 

「2013年の創刊時から『東北食べる通信』の愛読者で、これで知った岩手・大船渡綾里(りょうり)に、友人を誘って通うようになった。それまで食のことなど考えたこともなかったような友人でも、漁師さんと一緒にホタテやワカメの作業をすると、食に対する見方が違ってきたと言う。
 東京・高円寺のマルシェ等でも販売した」

 「福島・喜多方市のアスパラ農家にも、定期的に通っていた。 
 荒廃した農地を再生して新規就農された方だが、買ってくれる人がいないと継続できない。色んな人に声を掛けて、畑に人が集まって一緒に農作業をするような活動をしてきた。この度、ポケマルチャレンジャーアワード2021を受賞された」

 「交流することで消費者も変わるが、農家や漁師さんなど作る側の人も変わっていく。つながることで、双方が誠実になれる」

「東京では、アジア圏の留学生に日本語を教える仕事をしていた。天職と思っていたのだが、まさかやめることとなるとは。卒業式の記念写真(シャッターの瞬間に後から突かれた)は私の宝物」

「現在、私が勤めているのは但馬漁業協同組合(JF但馬)。JA(農協)と違ってJF(漁協)という言葉は、あまり聞いたことがないかも知れない。
 最大の特産品は松葉ガニ(ズワイガニ)で、浜値もヒーロー。今シーズンは不漁で特に高く、私も食べられなかった」

 「ハタハタは秋田、ホタルイカは富山が有名だが、実はどちらも漁獲量1位は兵庫県。
 ブリコを珍重する秋田産と違い、但馬のハタハタは抱卵前で身自体が美味しい。但馬に春を告げるホタルイカは、正に今が旬」

「カニは足折れすると高く売れない。他の水産物も安い時には漁協が買い取り、加工等に回している。地元の水産高校とコラボして商品開発した炊き込みご飯の素や、発酵食品である魚醤なども商品化してネットでも販売している。
 本当は魚のままで出せたらいいとも思うが、消費者の魚食離れもあり、手軽に食べられる商品として提供することも大事と思っている」

 「ちなみに漁師さん達は、中央卸売市場やスーパーの開店時間に合わせるために、夜間に出漁している。都市に合わせて地方の仕事は行われている」

「漁協とは、漁師さん達を組合員とする協同組合。
 但馬漁協には4つの支部があり、組合員数は計1,410名。漁業は年功序列ではないこともあって(水揚げも均等割り)、若い人も多い。漁協では漁師募集もしている」

 「正職員数は69名。自分がいる統括本部企画流通課の職員は9名で、うち6名が直販店、3人が開発を担当。女性は2人。
 漁協職員はほとんど地元の人で、就職した時には『あんた誰の子ね』と聞かれた(笑)」 

 「組合の主な収入源は、水揚げ手数料。
 今年の松葉ガニは前年比約5割という不漁だったが、せり価格が高かったので金額としては微減。地球温暖化も不漁の原因の一つと考えられ、海水温が1℃上がると人間にとっては10℃の変化位に感じられるらしく、カニはより深いところに移動する」

 「水産物の値段はもっと高くてもいいと思っているのだが、実はこれが難しい。近所に漁師さんがいると、余った時など只で貰えることも多い。スーパーの魚が高いと言っているのも地元の人。
 正当な価格で販売することが大事だと思っているだが、移住してきて、地元の人が自ら価値を下げているような面があることを知った時は、ちょっとショックだった」

写真は但馬漁業組合HPより。

最後に森さんからは、
 「兵庫移住を決めた時は『東北を捨てるの』と聞かれたこともあったが(笑)、東北に通って学んだことを、この地で活かしていきたいと思っている。
 自ら生産者になるのではなく、消費者と生産者、産地をつなげていくという第三者の視点を大切にして、これからも活動していきたい」等と締めくくられました。
 森さんらしい、明るくて楽しいお話でした。

後半は、参加者の皆さんも交えた談話(質疑応答、意見交換)です。

「食料(特にたんぱく質)の安定供給の面からも、漁業と魚食を見直す必要があるのでは」
 「護岸や堤防によって、人間の生活が水辺とが切り離されてしまったところに問題があるのではないか」等の意見が出されました。

上田代表からは、
 「市民研でも子ども料理教室等の取組みを行っているが、子ども達に魚をさばくのを見せるとやってみたいという声が多く出る。魚は種類も多くかたちも様々で、魅力ある食材ではないか」とのコメント。

漁業と農業との違いについても話題となりました。
 「農業(農協)とは異なり、漁業は組合員でないと漁獲や販売はできない。但馬漁協では自分で食べる水産物だけ獲る準組合員が多く、岩手とはだいぶ事情が異なる。また、日本海側にあるため養殖も難しい(アワビの陸上養殖はある)」

「農業の場合は自分で何を作るかを選べるが、漁業は、種類も量も、獲れる魚次第というのが難しいところ。魚体が大きすぎると包装の発泡スチロール代の方が高くなることもある」等の説明。

あまり有名ではない魚の利用は、どうしているかとの質問には、 
「底引き網には、カニだけではなく、現在はあまり利用されていない色んな魚が入ってくる。
 現在、取り組もうとしているのがノロゲンゲという魚。コラーゲン豊富で、外見も目が愛くるしい。しかし鮮度保持が難しく、獲れてすぐに船上で8kg単位のブロックで冷凍しており、これをどのように食べやすくして届けるかを考えている。
 なお、豊岡にはカニを始め有名な食材はたくさんあるものの、『ご当地の看板メニュー』がないことも課題」等の回答。

 この日は、東京等で一緒に活動に参加されていた方たちも参加されていました。
 「気になりながらご無沙汰していたが、お元気そうでよかった。話も楽しく聞かせてもらった。ぜひ、東北から世界を広げていってもらいたい。
 また、現地を訪ねてみたいが、季節はいつがいいか」との質問には、
 「冬は正直、交通面なので大変なので、やはり夏がおすすめ。海水浴場もある」との回答。

さらに、「漁業にも色んな現場がある。見れば見るほど違ってくる 日本語教師をしていて、日本人は自分だけというアウェイの環境に身を置くことによって、刺激的で、見えてくる景色がどんどん変わってくるという経験をした。
 今、兵庫に身を置いてみて、改めて東北や東京の新しい良さが見えてきたような気がする」との言葉も。

最後に上田代表から、
 「本談話会は今回が最終回だが、毎回、20名ほどの方にコンスタントに参加頂いた。話題提供して下さった方々の話は、いずれも心に残るものだった。今後については、現地訪問などを含めて企画していきたいと思っているので、皆さまのご意見を寄せて頂きたい」との発言があり、この日の談話会は終了です。

なお、以上のブログは概要ですので、森さんのお話に関心を持たれた方は、ぜひ当日の動画アーカイブをご覧下さい(有料:500円)。

食と農の市民談話会は、企画・進行役の私(中田)にとっても、毎回、興味深く刺激的な話を伺えるという、貴重な、かつ楽しい経験でした。
 私としては、今後とも、食卓と農林水産業の現場との間の距離を縮め、都会の消費者が産地や生産者のことを「自分ゴト」として捉えるきっかけとなるような取組みを続けていければと思っています。
 談話会の話題提供者、参加者の皆さまに加え、参加費の受付から当日のzoom運営までを一手に引き受けて下さった上田代表にも、改めてお礼申し上げます。