◇フード・マイレージ資料室 通信 No.272◇
2023年8月1日(火)[和暦 水無月十五日]
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◆ F.M.豆知識 知的・発達障がい者の農作業によるストレス軽減効果
◆ O.カレント NPO法人ユメソダテ(東京・世田谷区)
◆ ほんのさわり 福岡伸一、伊藤亜紗、藤原辰史『ポストコロナの生命哲学』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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カレンダーでは8月に入りました。世界の7月の平均気温は観測史上最高となり、いよいよ「地球沸騰」の時代が到来したとの見方も(国連のグレテス事務局長)。
今号では「農福連携」を取り上げました。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−知的・発達障がい者の農作業によるストレス軽減効果−
近年、農福連携の取組み(障がい者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組み)が広がっています。
農作業は、障がい者等のストレスを減らす効果がある(「農の福祉力」)とされていますが、順天堂大学大学院 緩和医療学研究室、NPO法人ユメソダテ、都城三股農福連携協議会は、そのことを実証するため、「農作業によるストレス軽減テスト」を実施しました(2023年3月)。
添付先のグラフは、その結果を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/08/272_noufuku.pdf
実証テストの対象は、ユメソダテ(注:オーシャン・カレント欄参照)が主催する「人を育てる畑コース」第1期生の6名(知的・発達障がいを抱えている方)で、体操、座学、農作業から構成されているプログラムの開始前と終了後に採取した唾液を分析した結果です(αアミラーゼについては途中(座学終了後)でも分析)。
これによると、αアミラーゼ(総合的な不快感の指標となる消化酵素)の数値は低下しており、活動により不快感が取り除かれ情緒が安定していることが分かります。また、コルチゾール(心理的緊張、やる気の指標となるホルモン)の数値はやや上昇しており、全体として活動による活力の向上が見られます。さらに、分泌型免疫グロブリンA(免疫や身体的緊張の指標となる抗体)の数値は低下しており、活動が情緒を安定させ不快感を払拭させている可能性が示唆されています。
以上のように、ユメソダテのプログラムは全体的に有効であることが示唆されています。また、受講生それぞれの自発を促すには、不快を感じにくく、かつ参加できるプログラムが重要ですが、農作業はこの両面を満たす可能性があると分析されています。
データの出所(グラフは以下の資料から筆者作成)。
順天堂大学大学院 緩和医療学研究室、NPO法人ユメソダテ、都城三股農福連携協議会
「農作業によるストレス軽減テスト」(2023年3月16日(木)実施、ノウフクマガジン#68より)
https://noufuku.jp/magazine/post-20230518/
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−NPO法人ユメソダテ(東京・世田谷区)−
2018年に設立されたユメソダテの理念は、社会がユメ(夢)を育て、ユメが人を育て、人が社会を照らす循環づくりです。
知的・発達障がいのある方(当事者)の認知発達を促すフォイヤーシュタイン教材やブレインジム(体操)の体験会、障がいのある方のための「お買い物体験講座」、千葉大学とコラボしてのニコニコみかんソースの製造・販売など、幅広い活動をされています。
また、2022年10月に開園した夢育て農園(世田谷区)では、障がいのある方々を対象に、畑作業をしながら認知・身体機能を高める「人を育てる畑コース」を設け、毎週木曜日には支援者の方々とともに認知身体発達の取組みと併せて畑作業を行っています。また、順天堂大学等と連携し、畑作業等が心身の状態を改善していることについてのエビデンスの収集・発表も行っています。
理事長の前川哲弥さんは1962年生まれ。農林水産省、経済協力開発機構(OECD)勤務を経て、現在は家業の精密機器運送業を営みつつNPO活動に勤しんでおられます。
知的障がいのあるご子息の将来の自立に不安を感じていた前川さんは、障がいのある当事者の方々にお話を伺ったそうです。すると、何人かの方が「ユメ」(希望、目標など)を生き生きと語られたとのこと。「社会がユメを育て、ユメが人を育てる」ことに気づき、仲間とともにNPOを立ち上げたのだそうです。
去る7月8日(土)、月に1度の夢育て農園のオープンデーは私も見学させて頂きました。障がいのある方が、支援者の方たち等とともに、楽しそうに汗を流しておられました。
前川さんは「障がいのある方や御家族、支援者の方々にユメを語っていただき、人と人を繋ぐことで、共にユメの種を育て、ユメをかなえる。ユメに育てられた人が明るい社会を創ると信じています」と笑顔で語っておられました。
なお、次回の夢育て農園のオープンデーは9月24日(土)午前10時からの予定(8月は猛暑のため中止)です。また、8月6日、20日(いずれも土曜日、午前9時半から)には、身体発達を促すブレインジムの講習会が開催される予定となっています。
参考:
NPO法人 ユメソダテ ホームページ
https://yume-sodate.com/
同 FBページ
https://www.facebook.com/yumesodate
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−福岡伸一、伊藤亜紗、藤原辰史『ポストコロナの生命哲学』(2021.9、集英社新書)−
https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1085-c/
生物学者、美学者、歴史学者による論考と鼎談により、現在の政治、経済、社会、科学からは「いのち」に対する基本的態度(「生命哲学」)が抜け落ちていることに警鐘を鳴らしている本です。
「ウィルス同様、自らの身体も制御不能な自然物。ウィルスとは共生するしかない」と断じる生物学者(福岡)、「今こそ自然に耳を研ぎ澄ませて、効率優先の食と農のシステムを見直すチャンス」とする歴史学者(藤原)など、多くの示唆に富む本書ですが、今号のメルマガで特に紹介したいのは、美学者・伊藤亜紗の論考です。
障がいのことを考える時、本書等で伊藤が紹介する「はとバスツアー」のエピソードが、私の頭から離れることはありません。
19歳で全盲になったという女性は、「目が見えなくなってから、毎日がはとバスツアーになっちゃった」と語ります。効率的に観光地に連れて行ってくれるバスツアーは便利ですが、日常の生活の中で常に周囲の人に介助されることは「いつもサポートしてもらう役割に固定され、障がい者を演じさせられてしまう感じが辛かった」というのです。
善意(利他)の行動が、案外、本人のためになっていないことを知った伊藤はショックを受け、相手の自律性を尊重し信頼することが必要と悟ります。
また、コロナのパンデミックが始まった頃、全盲の人や難病を持っている知り合いと「Zoom飲み」をした時のエピソードも紹介されています。彼らは開口一番、「みんな障がい者になったね」と口にしたとのこと。つまり、自分のせいではなく、環境が原因で自分の自由が失われるという経験を今、みんながするようになったというのです。
障がいを持っている人たちは、思い通りにならないことに対してどうつきあえばいいかという経験値がとても高いのではないか、と伊藤は語っています。
さらに伊藤は、障がい者という概念が生まれたのは、(時給という言葉に見られるように)時間が均一化された産業革命以降としています。しかし現実には時間は均一ではなく、植物が太陽の動きに合わせて日々、少しずつ生長していくような時間の捉え方が重要ではないかともしています。
もとより障がいの内容は多様ですが、この伊藤の主張にも「農の福祉力」に関する示唆が含まれているように思われます。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 親子で食農体験 @練馬・白石農園[7/22]
https://food-mileage.jp/2023/07/22/blog-449/
○ 酷暑のしごと塾さいはら(山梨・上野原市)[7/31]
https://food-mileage.jp/2023/07/31/blog-450/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ 今夜はご機嫌@銀座で農業
日時:8月9日(水)18:30〜19:45
場所:中央区環境情報センター(東京・京橋)
主催:Slow Food Ginza
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1208562777209850/
○ 奥沢ブッククラブ第93回
スペンサー・ジョンソン「チーズはどこへ消えた」
日時:8月14日(月)19:00〜21:00
場所:オンライン
主催:奥沢ブッククラブ
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/300914779043251
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
核兵器による威嚇を繰り返すロシアの行動を非難します。小咄のネタにもなりません。過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.273は8月16日(水)[和暦 文月朔日]に配信予定です。今年も鎮魂と不戦を誓う季節を迎えます。
正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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