◇フード・マイレージ資料室 通信 No.273◇
2023年8月16日(水)[和暦 文月朔日]
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◆ F.M.豆知識 米の生産・消費量と食料自給率の推移
◆ O.カレント スプーン(平和祈念展示資料館)
◆ ほんのさわり 阮 蔚『世界食料危機』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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今年も鎮魂と平和を祈る季節が巡ってきました。戦中戦後は、厳しい飢餓に見舞われた時期として記憶されています。ロシアのウクライナ武力侵攻等により世界の食料情勢に不透明感が増す中、私たちの食について改めて考えてみました。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−米の生産・消費量と食料自給率の推移−
戦中戦後は、日本の歴史上もっとも深刻な飢餓に見舞われた時代でした。
米は1941年4月に配給制に移行し、成人の配給量は一人一日当たり二合三勺 (約330g)と定められました。これを1年間に換算すると約120kgになります(1945年には約108kgに削減)。
遅配・欠配が常態化していたとはいえ、実はこの量は、現在の米消費量(50kg超)の2.3倍に当たります。それでも、多くの戦災孤児等が飢えて亡くなっていきました。
添付先の折れ線グラフにあるように、米の消費量は、現在まで一貫して減少しています。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/08/273_kome.pdf
ちなみに、やや余談ながら、宮沢賢治『雨ニモ負ケズ』には「一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ」とありますが、これだと年間約200kgに相当します。肉体労働が中心で副食が乏しかった時代は、必要なカロリーのほとんどを米から摂取していたのです。
戦後、日本人のライフスタイルと食生活は大きく変化しました。肉体労働が減少する中、畜産物や油脂の消費を数倍に増加させることで、米から摂取するカロリーの減を補って余りあるカロリーを畜産物や油脂から摂取してきたのです。
しかし、畜産物や油脂等の生産のための飼料や原材料の多くは輸入に依存しています。食料自給率も低下を続け、先日公表された2022年度においてはカロリーベースで38%となっています。
一方、米の国内生産量は、消費減に対応して生産調整を続けてきた結果、現在は約730万トンにまで減少しており、すでに戦中戦後の水準を下回っています。一方、人口は1.7倍に増加しており、一人当たりに換算すると、米の生産量(配給可能量)は50kg程度と戦中戦後の半分以下に過ぎません。
万が一の最悪の事態(輸入食料の途絶)に備えるのが安全保障であるとすれば、現在は危機的な状況と言えるのではないでしょうか。
データの出所:以下の資料から筆者作成。
農林水産省「食料需給表」、同「作物統計(作況調査、長期累年)」、食糧庁「食糧管理史 各論別巻(参考資料編)」等
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/index.html
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_kome/index.html
https://rnavi.ndl.go.jp/mokuji_html/000001167911.html
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−スプーン(平和祈念展示資料館)−
去る8月13日(日)、東京・新宿にある平和祈念展示資料館を初めて訪ねてみました。
企画展「43人が描く空想未来漫画『2100年8月15日』」と、漫画を描くワークショップが開催中(10月1日まで)で、小さな子どもを連れた家族連れ等が多数来場していました。
シベリアの収容所で乏しい黒パンを切り分けている場面を描いたジオラマは、抑留者たち全員の目がその手元を見つめています。来場者の男の子も、真剣な表情で眺めていました。
特に印象に残ったのが、数多くのスプーンなど食器の展示でした。
抑留者たちは、いつの日か故郷に帰り、腹いっぱい食べることを信じて食器を手作りすることで、明日への生きる望みをつないでいたそうです。
アルミや白樺の木から作った食器は、見事な細工です。極限状態における、食への強い思いが籠められているかのようです。
戦後78年を経て、私たちは激しい飢餓という民族としての記憶を喪ってしまったのでしょうか。
参考:
平和祈念展示資料館(総務省委託)
https://www.heiwakinen.go.jp/
当日の写真はこちら(筆者撮影)
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/08/230813_2.png
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−阮 蔚『世界食料危機』(2023.9、日経プレミアシリーズ)−
https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/22/08/08/00308/
著者(るあん・うえい氏)は中国・湖南省生まれ。上海外国語大学日本語学部を卒業し上智大学大学院で経営学修士を修了。現在は農林中金総合研究所の理事研究員を務めておられます。
著者は農業調査のために世界を回る中で、アメリカ等の大規模で工業化された農業と、途上国などの零細個人農家の間に埋めがたい格差があることに気付きました。
その格差は、気候などの農業の生産条件から自然発生的に生じたものではありません。
戦後、アメリカや欧州(EU)は深刻な穀物の過剰生産に陥りました。これら先進国は、自己中心的な補助金付きの輸出競争を繰り広げ、その結果、アフリカ等の途上国は輸入食料(援助を含む)への依存を強め、農業の自立と食料自給が阻害されたというのです。
そのアフリカや中東では、近年、輸送距離(コスト)や価格の面から、ロシアやウクライナ産穀物への依存度を高めています。そのため、今回のロシアによるウクライナ武力侵攻はこれらの国を直撃し、干ばつともあいまって深刻な食料危機と社会不安をもたらしているのです。
また、20世紀における飢餓の大半は戦争や部族紛争等の人為的な原因で起きたとしつつ、今後は気候危機が食料生産に深刻な影響を及ぼす可能性があるとした上で、日本の食料安全保障についても提言しています。すなわち、国際協調や備蓄の充実に加えて、一定水準の国産を追求すべき時に来ているのではないかというのです。そして、増産のカギは安定した需要であり、生産者が安心して継続的投資を行える環境整備が必要としています。
さらに、飢餓に苦しむアフリカと、おおむね自給体制を構築できているアジアとを対比する中で、連作障害が起きにくく生産を安定させやすい作物としての米の長所について指摘していることも印象に残りました。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 2023年の集落総出の草刈り(新潟・大賀)[8/7]
https://food-mileage.jp/2023/08/07/blog-451/
○ 基本法見直しと食料安全保障、スプーンの記憶[8/14]
https://food-mileage.jp/2023/08/14/blog-452/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ オンラインツアー2023夏
日時:8月19日(土)14:00〜16:00
場所:オンライン
主催:(一社)ふくしまオーガニックコットンプロジェクト
(詳細、問合せ等↓)
https://www.fukushima.organic/information/news/288/
○ 福島円卓会議 #3
日時:8月21日(月)14:00〜16:00
場所:杉妻会館(福島市)及びオンライン
主催:復興と廃炉の両立とALPS処理水問題を考える福島円卓会議
(詳細、問合せ等↓)
https://fuku-round-3.peatix.com/view
○ 「種子をつなぐ人〜西原 中川智さんの雑穀栽培の暦〜」完成披露上映会&交流イベント
日時:9月10日(土)14:00〜16:00、17:00〜19:00
場所:西原ife体験宿したで(山梨・上野原市西原1738)
共催: 合同会社古民家のっけ、「種子をつなぐ人」映像制作プロジェクト
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/zakkokumura/posts/pfbid0nqpDfCcx5HLMjUYHCx2NyURCUAk2zYrGCJfagZVErx3ZtvWV6Ly6i94V9DuEFgSCl
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
現在も一般市民に犠牲者が出ています。小咄どころではありません。過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.274は8月30日(水)[和暦 文月十五日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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