【ブログ】絵空事ではない日本の食料危機(CS市民講座・渡辺研司先生)

職場至近にある東京・日比谷公園では、二重咲きのキキョウが咲き揃っています(初めて見たような気がします)。

 2024年7月6日(土)は、東京・経堂にある生活クラブ館へ。この日も午前中から異常な暑さ。梅雨明け前にもかかわらず、連日、猛暑が続いています。

 この日10時30分から開催されたのは、NPO法人 コミュニティスクール(CS)まちデザインの市民講座「絵空事ではない日本の食料危機」。会場とオンラインのハイブリッド開催です。
 講師は渡辺研司先生(名古屋工業大学 大学院 社会工学専攻教授・リスクマネジメントセンター防災安全部門長)。農林水産省「不測時における食料安全保障に関する検討会」の座長も務められました。

この日のコーディネータは、CSまちデザイン理事の榊田みどりさん(農業ジャーナリスト)。榊田さんに直接お目に掛かるのは久しぶりでしたが、お元気そうでほっとしました。

 渡辺先生は説明用に詳しいスライドを準備して下さっていました。私は初めて面識を頂いたのですが、農学部を卒業後、大手銀行勤務、ビジネスコンサルタントといったユニークな経歴をお持ちの方のようです。
 かなり複雑で難解なテーマながら、時折りジョーク(「リスクマネジメント等の人の不幸について研究している」等)を交えられつつ、分かりやすく説明して下さいました(以下は一部。なお、文責は中田にあります)。


 「農水省では、昨年8月から12月にかけて計5回の検討会を実施し『とりまとめ』を公表している。6月14日には食料供給困難事態対策法が成立。農水省の若手職員たちも資料づくり等に頑張ってくれた」
 「検討会のメンバーの中にも様々な意見はあったが、食料需給を不安定化するリスクが世界的に高まっており、日本もより一層大きな影響を受けるのではという問題意識は共有されていた。その上で、法制度の内容等についての具体的な議論が行われた」

 「不測時の食料安全保障については、現在、政府全体の意思決定や指揮命令を行う体制は整備されておらず、既存の国民生活安定緊急措置法等も対象等が限定的。
 そこで、重大な食料の供給不足のおそれが生じたときには、内閣総理大臣をトップとする政府の対策本部を立ち上げることとし、併せて消費者の不安による過度な買いだめ・買い急ぎの発生に備えるための消費者対策の重要性等も強調している」

渡辺先生が説明で引用された農水省検討会資料(とりまとめの概要)より。

「罰則については、外部からも含めて様々な意見や議論があった。まずは国による要請、インセンティブ(支援)措置を基本とした上で、公平性を担保する、正直者が馬鹿を見ないようにするために、罰則等の法的な担保措置を講じるという整理としている。国による割当て・配給や価格統制もできるだけ避けたいと考えている」

 渡辺先生は、5月9日の衆議院農林水産委員会における参考人意見陳述の様子も紹介して下さいました。
 法案を審議する国会の場において、法案成立はスタートであるとし、今後求められる取組みとして、情報収集・モニタリングに係るデータの標準化、関係者との信頼関係の醸成、消費者の意識改革(地産地消など)の重要性について訴えられたとのことです。 

渡辺先生が説明で引用された農水省検討会資料(「リスクの高まり」)より。

渡辺先生からは、講演の最後に「今後の方向性と課題」として、
 「食の安全保障体制の確立は待ったなし。政府主導のトップダウンの取組みと同時に、農業者や消費者からのボトムアップの取組みが不可欠。地産地消を基盤とした地域社会の農業への多様なかかわり方の推進、給食等を通じた『地元の食を楽しむ』文化の醸成等が必要」等と説明されました。

 また、NHK番組のインタビューにおける「消費者には、お金を払えば、いつでも何でも好きなものが食べられる状態に依存しすぎると、不測の事態に陥る可能性が膨らむという構造を、まずは知ってもらいたい。グローバルなサプライチェーンから地産地消にシフトするなど、『我慢する』ということではなく、『地元の食を楽しむ』という意識に変えていくことが、インパクトを減らすことにもつながるはずだ」という言葉も紹介して下さいました。

引き続き、参加者(会場及びオンラインの参加者との間で質疑応答・意見交換。

 「高齢化等により農業生産力が落ちている中で、農家だけに食料を生産してもらうのではなく、食べ手である私たちも少しでも生産を担っていくことが必要なのでは」との意見に対して、渡辺先生からは、
 「消費者の農業へのかかわり方は様々なかたちがあると思う。しかし多くの都市住民や子どもは、そもそも農作物がどのようにできているかを知らない。まずは体験イベントに参加してもらうなどして、農業生産のプロセスを知ってもらうことが大切では」等のコメント。

「国際的に食料が戦略的なカードとして使われるようになっているということか」との質問には、
 「そういった面は確かに強くなっている。安定的な食料輸入を続けていくためには外貨(国力)が必要だが、アニメの輸出などクールジャパン戦略やインバウンドの呼び込みは、結局、海外だのみ。ちぐはぐな面があることは否めない。自国民の食べものは自給できる体制をつくっていくことが必要」等の回答。

 生活クラブ生協の取組みとして、なるべく国産を重視し、生産者が元気でいられるように考えていること、困窮者支援を目的に生協で購入した食料がフードバンクに届くような仕組みもあること等を紹介して下さった方も。

 最後にコーディネータの榊田さんからは、
 「法律ができた時からがキックオフであり、自分たちが何ができるかを考えなければいけないことが理解できた」等のとりまとめがあり、近藤理事長からは今後の市民講座の予定等の案内があり、この日の講座は終了です。
 ちなみにこの後は、中山間地域フォーラムのシンポジウム参加のため、急いで東京大学に移動(別途、報告予定)。

 法律の具体的な内容については、早速、来週から検討会メンバーによる議論が再開されるそうです。しかし榊田さんがまとめられたように、ボールを受け取った私たち一人ひとりも自分ゴトとして考え、できるところから実践(地産地消、家庭菜園、家庭内備蓄など)していくことが重要です。

 自宅近くに一画を借りている市民農園では、今年は枝豆が大豊作。
 しかし、夕方に収穫するだけでも、ちょっと異常な猛暑です。

(ご参考)
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
 https://food-mileage.jp/
 メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」(月2回、登録無料)
 https://www.mag2.com/m/0001579997