【ブログ】棚田学会シンポジウム(生物多様性と棚田)

知人に頂いた珍しい葡萄(左写真手前)。東京・国立で有機栽培されている貴重なものだそうです。みずみずしくて美味でした。ご馳走様でした。

 2025年8月23日(土)の午後は早稲田大学へ。知人に誘っていただき初めて棚田学会大会シンポジウムに参加させて頂いたのです。今年のテーマは「生物多様性は棚田の価値向上に寄与するか」。

会場は早稲田キャンパス3号館3Fの大教室。到着した時には棚田学会賞受賞者の講演が行われていました。
 仰木自然文化庭園構想 八王寺組 (滋賀県大津市)の方から、地域全体の水稲作付面積が減少するなかで、ボランティアやオーナー制度も活用して棚田の保全と地域づくりに取り組んでおられる状況について報告がありました。

シンポジウムは、安井一臣理事の進行により13時30分過ぎに開会。会場とオンライン合計で220名以上の方が参加さておられるそうです。
 まず、小谷あゆみさん(棚田学会研究委員、農ジャーナリスト)からシンポジウムの趣旨説明。簡潔なキーワードを用いて、生物多様性の豊かな棚田とはどういうものか、誰がどのように取り組んでいるのかについて、生産者、 研究者、NPOなど様々な視点で対話を行い、棚田と環境、社会、経済との関係をとらえ直したいと説明がありました。

続いて、宇根 豊さん( 百姓・思想家・元農と自然の研究所代表理事)から、「生きものへのまなざしは三つ、名前と情愛と概念のどれが大切か」と題する基調講演。
 宇根さんとは九州農政局在勤中を含め以前から面識を頂いていたのですが、ご講演をお聴きするのは久しぶりです(以下は他の方も報告も含めて、特に印象に残った部分のみ。文責・中田)。

 「県の農業改良普及員として指導を行っていたのに、自ら就農したときは畔塗りのやり方が分からず地元の方に教えてもらった。マニュアル化できる技術は指導できるが、百姓仕事の多くは指導できない。現代は技術ばかりが語られている。百姓仕事とは『天地自然』に『手入れ』すること」

 「田んぼに行くと花に目が留まる。生物多様性とは外から見た箱のようなもの。箱の中に入らないと生き物と目を合わせることはできない。一方、中に入ってしまうと箱(概念)は見えなくなる。百姓から生まれた概念がほとんどないことは不満」
 「赤とんぼの99%は田んぼで生まれる。生物多様性は新しい文化を生み出すために必要な概念だが、内側からのまなざしが必要。生き物調査はその一つのきっかけになる」

 「米騒動にはうんざり。価格の話ばかりで誰も田んぼを見ていない。赤とんぼも田んぼの生産物であるにもかかわらず、農政のみならず、社会全体としてその価値が理解されていない。税金から対価を支払うべき。このことについては農民サイドも運動してこなかったし、百姓のまなざしも衰えている。そもそも赤とんぼ自体が減っている。危機感を持たなければいけない」

 「百姓ほど生き物を殺す残酷な仕事はない。しかし、例えばコオニタビラコを刈っても、また来年には会うことができる。これが農のすごいところ。稲は人間が生産するものではなく、自然の恵みのおかげでとれるもの。人間はあくまで受け身。頂いた恵みを返すことが農の本質」
 「百姓仕事の本質を自覚すれば、棚田はもっと輝く場になる」と訴えられました。

続いて、楠本良延さん(農研機構西日本農業研究センター・中山間地営農研究領域・主席研究員)から「農村が育む生物多様性と保全」と題して報告。
 生物多様性をラベル等で「見える化」することにより、付加価値化や地域農業振興につながっている事例や研究成果について報告して下さいました。

 堀 延弘さん(特定非営利活動法人せんがまち棚田倶楽部 事務局長)からは、「茶草場と棚田の里 千框」について事例報告。
 静岡・菊川市上倉沢の千框(せんがまち)地区にあった見事な棚田は、一時、ほとんどが耕作放棄されてしまったそうです。しかし「先祖を泣かせてはいけない」という思いから、復活・保全活動に取り組むようになった経緯等について説明して下さいました。 

さらに、服部謙次さん(佐渡市環境アドバイザー・佐渡トキファンクラブ事務局)から「棚田の生きもの調査からみえる農の世界」と題する報告。
 棚田ごとに作成しているという、オリジナルの生き物図鑑の実物を回覧して下さいました。見事です。

 それにしても宇根さんが取り組み始めた生き物調査が各地で行われ、様々な成果を上げていることを目のあたりにして感じ入りました(宇根さんご自身も喜んでおられました)。

最後は、小谷さんの司会により、登壇者全員によるパネルディスカッションが行われました。

宇根さん
 「子どもたちは生き物調査に夢中になるが、これは百姓が仕事に没頭している時の幸せさに通じる。子どもたちにお茶碗1杯のご飯を食べればオタマジャクシ30匹が生きることができると話すと、食べ物を通じて自分と生き物がつながっていることを実感する」
 「農政は、田んぼの生産物は米だけではないことを宣言し、EUのような本格的な環境直接支払いを施策化すべき」

服部さん
 「生き物調査は、農家が自信ややりがいを再発見することにもつながる。出来上がった図鑑は子どもたちや消費者にも好評。生き物には人と人とをつなぐ不思議な役割がある」

楠本さん
 「ラベルや認証は、生物多様性に気づくとっかかりになる。生産性と生物多様性は両立できる。農家はランドマネージャー」

堀さん
 「子育て世代が多いオーナーの方たちは、生産物ではなく体験を求めて参加してくれている。獣害が酷かった年はお米はいらないとさえ言ってくださった。何とか調達してお渡しできたが」
 それぞれの立場・場所で実践されている方ばかりで、深みのある対話となりました。

終了後は、眼下に大隈講堂を見下ろす15Fの食堂で懇親会。
 宇根さん、登壇者の方をはじめ、各地から来られている方たちと警視交換・意見交換できました。

棚田学会のホームページには、学会の紹介として次のような記述があります。
「棚田はその美しい景観から人々を魅了し続ける一方、地形的条件不利、後継者不足、生産効率の悪さなどの課題を抱えています。棚田学会では、多様な研究成果と現場の実践的な知を結びつける場となることで、その課題解決に取り組んでいます」

 棚田には、農業生産、国土保全、気候緩和など様々な役割がありますが、そのなかで特に「生物多様性」にフォーカスした今回のシンポジウムからは、貴重な多くの学びを頂くことができました。
 なお、棚田学会では毎年、発表会や現地見学会、フォトコンテスト等も開催しているとのこと。都市の消費者を含め、多くの方に「棚田」について関心を持っていただければと思います。

(ご参考)
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
 https://food-mileage.jp/
 メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」
 https://www.mag2.com/m/0001579997
 フェイスブック「フード・マイレージ資料室(分室)」
 https://www.facebook.com/foodmileage