-高木仁三郎『プルトニウムの未来-2041年からのメッセージ』 (1994年12月、岩波新書)
https://www.iwanami.co.jp/book/b268184.html
【ポイント】
原発や核兵器、人工知能について考えるための多くの示唆が含まれている「フィクション」(近未来小説)です。

著者は1938年群馬県生まれの物理学者(核化学)、民間企業、大学教員を経て原子力資料情報室の代表等を務めた在野の市民科学者。2000年に63歳で死去。遺言により遺産をもとに設立された高木仁三郎市民科学基金(高木基金)は、市民科学者の育成のための事業を行っています。
本書がフィクション(近未来小説)仕立てとした理由を、著者はプルトニウムの問題を多くの人に考えてもらうためとしています。ちなみにそれまで(現在までも?)、岩波新書でフィクションが出版されることはなかったとのこと。
フィクションとはいえ、序章はプルトニウムの現状についての解説にあてられており、となっ1章以降にも多くの脚注が付されています。
プルトニウムは長崎原爆の材料となった核兵器物質であり、体内に入ると遺伝子を損傷するなど毒性の強い物質でもあります。コスト面も含めて欧米各国がプルトニウム利用から撤退するなか、ただ日本のみが高速増殖炉の建設と核燃料サイクルの確立を推進している状況が説明されていますが、このことは本書出版から30年後の現在も基本的には全く変わっていないことに驚きます。
そしてフィクション部分。
事故による昏睡状態から目覚めた核科学者は、47年をタイムスリップして現在は2041年であることを知ります。プルトニウムの誕生から100年目に当たるこの年、日本では高速増殖炉と再処理工場、MOX(プルトニウムとウランの混合燃料)工場を一体化し、丸ごと密閉して運用する公園「プルトピア」が稼働しています。廃棄物の処理を含めて管理は全て人工知能のコンピュータに委ねられています。日本はアジアで「プルトニウム共栄圏」を建設しようとしていたのです。
ところが深刻な事態が発生します。太陽に打ち込むために発射した高濃度廃棄物を搭載したロケットが、軌道を変えて地球に向かっているというのです。地球に墜落する確率は計算上は100億分の1以下ですが、コンピュータ開発者は人工生命の自殺願望によるものではないかとつぶやきます。
主人公は再び昏睡状態に陥り、消えかかる意識の底で閃光を感じたところで、物語は唐突に閉じられます。結末は読者の想像力に委ねられているのです。
原発や核兵器、人工知能について考えるための多くの示唆が含まれている「フィクション」です。
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.323、2025年8月23日(土)[和暦 文月朔日]
https://food-mileage.jp/2025/09/02/letter-323/
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