-川内有緒『ロッコク・キッチン』 (2025.11、講談社) -
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000418492
【ポイント】
国道6号線沿いに帰還、移住してきた人々への綿密なインタビューによって明らかとなったのは、原発事故被災地のモザイク模様です。

著者は1972年東京生まれ。国際協力分野での勤務を経て現在はフリーのノンフィクション作家。
東京電力・福島第一原発事故から14年。大量の放射性物質に汚染され食の問題で揺れ続けてきた福島・浜通り地方に暮らす人々は、今、何を食べ、どう生きているのか。著者は、それを知るために国道六号線(ロッコク)をたどります。
ぱらぱらとページをめくると美味しそうな料理の写真が多数掲載されており、あたかも旅グルメ本のような体裁です(書店でも料理本のコーナーに置かれていました)。しかし巻頭に置かれた避難指示区域を示す地図は、現在も広い地域が帰還困難とされている現実を示しています。
著者がロッコク沿いで出会ったのは、10年以上の避難から故郷に帰還した方が再開した飲食店(ナポリタン、カツサンド)、インドからの留学生(チャイ)、個人で開設した伝承館のオーナー(餃子)、統合・再開された学校の給食、避難中に夫を看取った中国出身の女性(中華丼)、賑やかな若い移住者の女性たち(ビスク鍋)、東京から移住して復興に取り組んでいる東京電力の元幹部(ざくざく野菜鍋)等々。
著者は取材を通じて「人間とは料理をする生き物。人と人とをつなぎ、人間の暮らしの中心にあるものは食べること」であると実感します。
しかし、著者は執筆中にジレンマを感じていたそうです。
「ポジティブなストーリーを描くことは、今この瞬間にも存在する大きな苦しみや悲しみを見えなくしてしまうのではないか。何を書いても現実とは離れてしまう」と悩みながらも、「私には、ひとつひとつの大切な断片のモザイクを記録することしかできない」と覚悟します。何度か引用されている石牟礼道子の「悶えてなりとも加勢せんば」という言葉が印象的です。
伝承館のオーナーの「ここには100人いたら100人の経験や現実がある」「(東京など)遠くにいる人をいかに引き付けて種を蒔くかが、僕らの仕事」との言葉も紹介されています。実はロッコクは東京・日本橋に通じているのですが、「果たして彼女・彼らの祈りは東京に届くだろうか」と、著者はつぶやきます。
「ロッコク・キッチン」は並行して映画も製作されており、2月中旬に公開される予定とのこと。映像で観られるのも楽しみです。
[参考]
『ロッコク・キッチン』公式サイト
https://www.rokkokukitchen.com/
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.333、2026年1月19日(月)[和暦 師走朔日]
https://food-mileage.jp/2026/02/01/letter-333/
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