【オーシャン・カレント】石井一也先生(香川大)

石井一也先生は1964年東京・足立区生まれ。
 京都大学大学院経済学研究科博士後期課程を修了し、スタンフォード大学経済学部客員研究員等を経て、現在は香川大学法学部教授(博士(経済学))。

脱成長ミーティング公開研究会

 経済学を専門とされる石井先生の主な研究対象は、マハートマ・ガンディー(1869~ 1948)です。ガンディーは、非暴力・不服従運動を通じて旧宗主国・イギリスからの独立を指導した「インド独立の父」で、経済学者ではありません。
 しかし石井先生は、ガンディーの経済思想の中に、これからの人類の指針となり得る重要なヒントがあると考えておられます。

 ガンディーは、当時のイギリス工業を中心とした世界経済の再編成を激しく批判しました。機械は大きな罪であるとしてインドの工業化に反対し、チャルカー(手紡ぎ車)運動を推進します。
 これは、綿布の製造工程の全てを手作業化することによって労働機会を分配し、貧者救済を目指したものです。先生の試算によると、機械製造に比べて生産性は劣る一方、63倍の雇用を生み出すこととなるそうです。

 また、ガンディーは、アダム・スミス以来の経済学の基礎となっている「人間の利己心」は、そもそも克服されるべきとしているそうです。
 ガンディー思想を支える「自立共生(コンヴィヴィアリティ)」とは生産性とは正反対の価値で、自立的でありながら他者を尊重し助け合う倫理とのこと。
 さらに、一国が他国を支配することを許すような経済学は「非道徳」であるともしているそうです。

 石井先生は、もはやアマルティ・センらが主張するような全世界的な人間開発と経済成長による繁栄は、地球の資源と環境の制約の前に事実上実現不可能であるとし、ガンディーの思想にあるように、生態系の枠内において、資源節約的な技術により簡素な社会を目指すことが必要ではないかと問題提起されています。
 そして、人類が生き残るためには「人間の身の丈の経済」へと大きく旋回する以外にないと主張されているのです。

 去る1月5日(日)に開催された脱成長ミーティング公開研究会において、先生は報告の最後に、一番伝えたいというガンディーの次の言葉を紹介して下さいました。
 「地球は全ての人々の必要を満たすのに十分なものを提供するが、全ての人の貪欲を 満たすほどのものは提供しない」

[参考]
 石井一也『身の丈の経済論-ガンディー思想とその系譜』(2014.3、法政大学出版会)
 http://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-60335-8.html

 第20回 脱成長ミーティング公開研究会(2020.1/5)
 https://food-mileage.jp/2020/01/10/blog-247/ 

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-No.182
 2020年1月9日(木)[和暦 師走十五日]
 (過去の記事はこちらに掲載)
 http://food-mileage.jp/category/pr/