◇フード・マイレージ資料室 通信 No.210◇
2021年1月27日(水)[和暦 師走十五日]
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◆ F.M.豆知識 日本の国際競争力の推移
◆ O.カレント 2020年の貿易収支
◆ ほんのさわり 水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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間もなく立春。東京都の新規感染者数は減少しつつあるものの、全国的の1日当たり死者数は高い水準で推移しているなど、依然として厳しい状況が続いています。今号は、コロナ禍も大きな影響を及ぼしている貿易の動向について取り上げました。
本メルマガは、時の流れを体感するため和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録下さった皆様に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−日本の国際競争力の推移−
本年1月8日(土)付けの日本経済新聞「大機小機」欄。
「貿易立国の日本にとって世界貿易の自由化は最重要課題である。しかし、その大きな障害が、自国農業の生産性の低さと対外競争力の弱さだ」
久々の日経らしい切れ味鋭い(?)コラムに触発されて、日本の国際競争力について調べてみました。
国際競争力を測る簡単で代表的な指標として、以下の数式で計算できるものがあります(ここでは仮に「国際競争力指指数」と呼びます)。
国際競争力指数=(輸出額−輸入額)/(輸出額+輸入額)
数値は-1(完全な輸入財)から1(完全な輸出財)の間の値をとり、大きいほど国際競争力があると判断されます。
リンク先の図210は、日本の国際競争力指数(全体及び食料品)の推移を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2021/01/210_boekishushi.pdf
日本全体(全産業)の国際競争力指数は1990年初頭には0.2前後と高い国際競争力を示していましたが、変動を伴いながら低下傾向で推移しており、2010年代初頭には0を下回り(つまり貿易収支が赤字となり)、最近も0前後の水準となっています。
これに対して食料品については、一貫して大幅な輸入超過で推移しているものの、2000年代に入ってからは、なだらかながら上昇傾向を示しています。
つまり、日本の産業全体が国際競争力を喪失しつつあるなかで、食料品については徐々に国際競争力を高めている状況が伺えます。
経済学によると、国際競争力を決定するのは比較生産費です。例えば(単純化していえば)日本の農業の国際競争力は、アメリカの農業との比較だけではなく、日本国内の製造業と比較した生産費によっても規定されます。
つまり、日本の農業の国際競争力が高まるということは、日本の製造業の国際競争力低下につながるというのが経済理論です。経済のプロである「大機小機」氏はご存じでしょうが。
[データの出典]財務省「貿易統計」
https://www.customs.go.jp/toukei/info/index.htm
[参考文献]
齋藤之美、齋藤勝宏「国際競争力指標とその推計について」(季刊『創価経済論 集』Vol.XL,No.1・2・3・4)
https://core.ac.uk/download/pdf/230391596.pdf
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−2020年の貿易収支−
1月21日(木)に財務省が発表した2020年の貿易統計(速報)によると、全体の輸出額は68.4兆円、輸入額は67.7兆円と、前年に比べそれぞれ11.1%、13.8%と大幅に減少しました。いずれも2年連続の減少です。
輸出については、米国向けを中心とした自動車等が大きく減少し、リーマン・ショックの2009年の33.1%以来の減少幅となっています。一方、輸入については海外に依存している原油の価格が下落したことが大きな理由です。
なお、貿易収支(輸出額−輸入額)は3年ぶりの黒字(7千億円)となっています。
新型コロナウイルスの感染拡大により世界全体の経済活動が低迷し、日本の貿易収支にも大きな影響を及ぼしています。貿易立国という日本の「国是」は見直されるべき時代を迎えているのかも知れません。
(参考)
財務省「令和2年分貿易統計(速報)の概要」
https://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/gaiyo2020.pdf
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書、2014/3)−
https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0732-a/
著者は1953年愛知県生まれ。証券会社のエコノミスト、内閣官房内閣審議官等を経て2017年から法政大学法学部教授。
実業と政策にまたがる幅広い実務経験を有する著者は、「資本主義の死期が近づいている」と主張します。
その根拠として用いているのが「交易条件」です。
これは輸入物価指数を輸出物価指数で割った比率で、輸出品一単位で輸入品を何単位買えるかを表しており、交易条件が上昇(改善)すれば国際競争力が高まったとみることができます。
戦後日本の交易条件は1970年頃までは改善傾向にありましたが、2度のオイルショックで大幅に悪化し、一時改善したものの、2000年代に入ってからはさらに悪化を続けています(p.23にグラフも掲載されています)。
この背景には、新興国の近代化により資源価格が高騰しているという事情があるとのこと。つまり、日本に限らず、安い資源を「買い叩いて」作った工業製品を輸出することで成長するというモデルは、もはや成り立たないというのです。
著者は、景気優先の成長主義から脱するべきであるとし、そのためには国内で安いエネルギーを自給することが必要としています。本書には明示的な言及はありませんが、同様に大きな部分を海外に依存している食料についても、同様の事情にあるものと思われます。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 緊急事態宣言の下で[1/18]
https://food-mileage.jp/2021/01/18/blog-297/
〇 菌のチカラ[1/19]
https://food-mileage.jp/2021/01/19/blog-298/
〇 ブッククラブ、ICRP、宇沢先生のご著作など[1/23]
https://food-mileage.jp/2021/01/23/blog-299/
▼ 以下の市民研入門講座を担当することになりました。
大江正章さんのご遺稿『有機農業のチカラ』を自分なりに紹介させて頂き、食べものや農業のこれからについて意見交換できればと思っています。
ご関心のある方は以下のリンク先からお申し込み下さい(参加費無料)。
○ 市民科学入門講座 第10回
「コロナ時代を生きる知恵−大江正章さん『有機農業のチカラ』から学ぶ」
日時:2月1日(月)19:00〜20:00
場所:オンライン
主催:NPO市民科学研究室
(詳細、申込み等↓)
https://www.shiminkagaku.org/csijwebinar_introduction/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ 奥沢ブッククラブ第64回 ジョージ・オーウェル『1984年』
日時:2月8日(月)19:00〜21:00
場所:オンライン
主催:奥沢ブッククラブ
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/401565921123563
○ 福島の「今」を知ろう〜飯舘村を中心に〜
講師:石井秀樹さん(福島大学農学群 准教授)
日時:2月13日(土)14:00〜16:00
場所:オンライン
主催:NPO法人コミュニティスクール・まちデザイン
(詳細、問合せ等↓)
http://cs-machi.com/?p=5315
○ 地域から生み出す自然との共生・草の根のデモクラシー
〜ヨーロッパにおけるミュニシパリズムの経験から学ぶ〜
講師:伊藤公雄さん(京都産業大学教授)
日時:2月14日(日)13:00〜14:30
場所:オンライン
主催:縮小社会研究会
(詳細、問合せ等↓)
http://shukusho.org/data/50announcement.pdf
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「苦しんでいる人がいたら、あとさき考えずに駆け付けちゃうのよ」
「お金にもならないのに」
「無償(無性)の行為だからね」
阪神淡路大震災から26年。
多くの貴い犠牲を出した震災は、日本にボランティア活動が定着するきっかけともなりました。
コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.211は2月12日(金)[和暦 睦月朔日]に配信予定です。
より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
和暦の新年に向けて2021年版を注文させて頂きました。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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