【メルマガ】F.M.Letter No.252 – pray for peace.

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 https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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◇フード・マイレージ資料室 通信 No.252◇
 2022年10月10日(月)[和暦 長月十五日]
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◆ F.M.豆知識  低所得層で大きい物価上昇の影響
◆ O.カレント  米の価格は上昇に転じるのか
◆ ほんのさわり 中藤 玲『安いニッポン』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 真夏日があったり一転して12月並みの低温になったりと、気候変動の大きさを肌で感じる10月です。今号は「値上げの秋」に価格について考えてみました。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録して下さっている皆様に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−低所得層で大きい物価上昇の影響−

パンデミック、ウクライナ情勢、円安により様々な商品の価格が上昇しており、家計を直撃しています。これら値上げの影響は所得階層によって異なることを示したものが、リンク先のグラフです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2022/10/252_kakei.pdf

縦軸は、総務省が9月20日に発表した2022年8月の消費者物価指数の対前年同月比です。総合では3.0%(注:生鮮食品を除くと2.7%)上昇しており、特に光熱・水道は15.6%、食料は4.7%と特に大きく上昇しています。

横軸は、10月7日に総務省が発表した8月の家計消費支出について、各費目についての低所得層(年間収入五分位階級の第一階級)の特化係数です。例えば、支出総額に占める食料消費の割合(エンゲル係数)は低所得層では31.9%で、平均(27.5%)に対する比率は1.16となります。
 これが特化係数で、右に位置する費目ほど、低所得層における消費のシェアが相対的に大きい(必需財的な性格が強い)ことを示しています。

このグラフからは、食料や光熱費など必需品的な性格の強い費目ほど価格が上昇していることが見て取れます。つまり、幅広い値上げの影響は、低所得層により大きな影響を及ぼしているのです。
 なお、食料のなかでも国内で自給できている米については5.7%下落しており、ここでも特異性が際立っています。

なお、このグラフは8月の状況ですが、10月以降は「値上げの秋」と言われるように、さらに多くの食料品等の値上げが行われています。これらが低所得層の家計をさらに圧迫し、格差の拡大につながりかねないことが懸念されています。

データの出典:総務省「家計調査」「消費者物価指数」(2022年8月分)
 https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/index.html
 https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−米の価格は上昇に転じるのか−

出典:農林水産省「相対取引価格の推移」
 https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/kikaku/attach/pdf/220916-2.pdf

米については、JA全農(全国農業協同組合連合会)等の出荷業者と卸売業者等との間で、年間を通じて相対(あいたい)取引が行われており、その価格は米の取引価格の代表的な指標となっています。

農林水産省のプレスリリースによると、2022年8月分の相対取引価格(21年産、速報)は、1俵(60キログラム)あたり全銘柄平均で1万2,714円と、近年では珍しく、前月に比べてわずかながら(121円、1%)上昇しました。
 しかし、これは前年同月(20年産)に比べると8%下落しており、21年産の平均値(昨年の出回り期から10月まで)では20年産に比べて12%(1,694円)と大きく低下しています。
 ほとんどの食品が輸入原材料価格の上昇等により値上がりしているなか、ほぼ国産のみで供給されている米の価格は下落傾向が続いてきたのです。

今年の新米(22年産米)については、JAグループが農家が農家に支払う集荷価格(概算金)は、東日本を中心に3年ぶりに前年を上回っています。これは、肥料や燃料費など生産者のコスト上昇分を補てんする意味合いがある一方で、長期的に減少傾向にある米の消費をさらに鈍らせる懸念も指摘されています。

所得・賃金が低迷するなかで、消費者の低価格志向はより強いものとなっていますが、日本の安定的な食料供給(安全保障)のあり方も念頭に起きつつ商品を選択すること(いわゆる「エシカル消費」の一部)が、私たち消費者には求められていると考えます。

(参考)
 農林水産省プレスリリース「令和3年産米の相対取引価格・数量について(令和4年8月)」(2022年9月16日)
 https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/kikaku/220916.html

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−中藤 玲『安いニッポン−「価格」が示す停滞』(2021年3月、日経BP新書)−
 https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/2021/9784532264536/

著者は1987生まれ。愛媛新聞社を経て現在は日本経済新聞社編集局企業報道部に勤務し、2019年12月に3回にわたって連載された「安いニッポン」シリーズを担当しました。本書は、大きな反響を呼んだこの連載をもとに書き下ろされたものです。

海外旅行先で高い価格に驚いた著者は、各国の様々な「価格」を取材・調査し、日本と比較してみました。
 その結果、例えばディズニーランドの入園料(2021年2月中旬時点)は、日本は8,200円であるのに対して、アメリカ・フロリダでは1万4,500円、パリは1万8,000円と、日本の1.8〜2.2倍であることが明らかとなりました。
 また、ダイソー(百円均一ショップ)の商品価格は、日本の100円に対して、アメリカ・中国160円、台湾180円、タイ210円、オーストラリア220円等と、1.6〜2.2倍の水準でした。

この背景には、日本の長期にわたるデフレがあります。
 確かに「安さ」は、生活者にとっては「生活しやすい」メリットではあるものの、生産者(企業)にとっては収益が得られていないことを示しています。その結果、賃金は上がらず、勤労者の所得は上昇せず、消費が停滞するという悪循環に陥っているのです。
 これは日本独特の状況のようで、ダイソーへの取材によると、進出先の全ての国では人件費(賃金)が上昇し、所得も向上している結果、購買力が上がっているため、日本の2倍の値段であっても売れているというのです。

また、消費者アンケートによると、多くは生産者への還元を思うと適正価格が望ましいと思いつつ、自らの所得水準を考えると値上げは困るという本音も示されています。
 この状況のままでは、生産者にとっては、コストや価値に見合った収益が確保できないこととなり、さらには、日本全体の対外的な購買力は失われ、高い賃金を求める人材の海外流出も続くことも危惧されます。
 賃金と所得を増大させ、「成長と分配の好循環」を真に実現するためのマクロ財政政策等が、ますます重要となっているのではないでしょうか。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 2022年 秋の彼岸[10/1]
 https://food-mileage.jp/2022/10/01/blog-396/

○ 2022年 稲刈り(新潟・上越市大賀)[10/4]
 https://food-mileage.jp/2022/10/04/blog-397/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ CCNE連続オンライントーク「原発ゼロ社会への道」2022
  第5回 岸田政権が号令をかけた「次世代原発」の幻想
 日時:10月11日(火)17:00〜18:00
 場所:オンライン
 主催:原子力市民委員会(CCNE)
 (詳細、問合せ等↓)
 http://www.ccnejapan.com/?p=13154

○ 今夜もご機嫌@銀座で農業
 日時:10月20日(木)18:30〜
 場所:中央区立環境情報センター(東京・京橋)
 主催:Slow Food Ginza
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/553218473224846/

○ オンライン被ばく学習会「集団幻覚・双葉町の詐害」
 日時:10月24日(月)19:00〜22:00
 場所:オンライン
 講演:井戸川克隆さん(元福島・双葉町長)
 主催:放射線被ばくを学習する会
 (詳細、問合せ等↓)
 http://www.labornetjp.org/EventItem/1665021094332staff01

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* 米令寺忽々のコツコツ小咄。
 ウクライナでの戦火がやむまでお休み中です(pray for peace.)。
 過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに写真入りで掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 今号からタイトルに「pray for peace.」と記すこととしました。祈るしかないのでしょうか。

* 次号No.253は10月25日(火)[和暦 神無月朔日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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