◇フード・マイレージ資料室 通信 No.256◇
2022年12月8日(木)[和暦 霜月十五日]
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◆ F.M.豆知識 減少し荒廃が進む農地
◆ O.カレント 秋津ちろりん村(東京・東村山市)
◆ ほんのさわり 鈴木宣弘『世界で最初に飢えるのは日本』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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ベスト8は4年後に持ち越されましたが、強豪相手に連続して逆転勝ちした若き代表の姿に心励まされた大会でした。その熱狂の陰で、ウクライナは厳しい冬を迎えています。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録して下さっている皆様に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−減少し荒廃が進む農地−
世界的に食料危機が叫ばれ、国内でも食料安全保障(食料の安定供給)の議論が盛んになっています。しかし、最大のリスクは国内にあるということで、前号では、国内農業の担い手が急速に高齢化しつつ大きく減少していることを紹介しました。
今回は、「人」と並んで食料生産の最も重要な基盤である「土地」についてです。
リンク先のグラフは、農地面積と、荒廃農地の割合の推移を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2022/12/256_nouti.pdf
これによると、1956年には601万haあった農地面積(ピークは1956年の607ha)は、経済の高度成長や人口増加が進むなかで、工場用地、商業用地、住宅地等への転用が進んだこと等から一貫して減少してきました直近の2022年においては433haと、ピーク時に比べると約3割減少しています。
さらには、農地面積に対する荒廃農地(注)の割合が2008年の11.3%から2020年には11.9%へと上昇しており、特に、森林化しているなど再生が困難なほど荒廃した農地の割合は5.4%から8.1%へと大きく上昇しています。
工場用地や住宅地に転用されるなど、いわば限られた資源が有効利用されているのであればまだしも、近年は何ら有効利用されず、ただ荒廃しただけの農地が増加しているのです。
農地には、食料生産だけではなく様々な多面的な機能がありますが、その機能も今や急速に失われつつある現状にあります。
注:
よく似た統計用語として「耕作放棄地」(農林業センサス)がありますが、これは「農作物が1年以上作付けされず、数年の内に作付けする予定が無い」という主観的な定義によるものであるのに対して、「荒廃農地」は客観的な定義に基づいていることが異なります(現在は政策上は一般に「荒廃農地」が用いられています)。
データの出典:
農林水産省「耕地及び作付面積統計」、同 農村振興局「荒廃農地の現状と対策」(2021年12月)から作成。
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/menseki/
https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/attach/pdf/index-20.pdf
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−「秋津ちろりん村」(東京・東村山市)−
https://www.city.higashimurayama.tokyo.jp/shisetsu/koen/tirorin1/index.html
農地には様々な多面的な機能がありますが、特に都市部においては、子ども達を含め、農との触れ合いを通じて、食べものや一次産業に対する理解を増進する場としての役割が、より重要となっています。
東京・東村山市にある「農とみどりの体験パーク・秋津ちろりん村」は、1994年4月、東村山市により一般に開放された公園として開設されました(現在は指定管理者制度により民間事業者が管理)。
市街地に囲まれた農の風景を保全しつつ、市民が土と触れ合いながら自然の大切さを体験的に学び、市民生活の向上に寄与することを目的として、約6,100平方メートルの半分が体験農園として整備されています(残りの半分は広場や管理棟)。
去る11月26日(土)には「ミニ収穫祭」が開催されました。
時おり細かな雨がぱらつくなか、近所の家族連れ等が、ちろりん村ボランティアの方々が丹精込めて作った野菜の収穫を楽しんでいました。懸命に大根を引っ張る子どもの笑顔が印象的でした。
子どもの頃に土や農に触れることは、食べものや一次産業の大切さを理解するための貴重な機会となると思われます。
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−鈴木宣弘『世界で最初に飢えるのは日本−食の安全保障をどう守るか』(2022年11月、講談社+α新書)−
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000369740
かねて日本の食と農をめぐる危機を告発し続けてきた著者(東京大学大学院教授)が、ロシアによるウクライナ侵攻など最新の情勢を踏まえ改めて世界的な危機の現状を整理した上で、日本人が飢餓を回避するためのヒントを探った書です。
帯にある「日本人の6割が餓死する」との刺激的なフレーズは、アメリカの大学の研究者らによる研究成果−核戦争が勃発した場合、食料生産の減少と物流停止によって世界全体で2.55億人が餓死し、うち7200万人が日本に集中するというもの−から引用されています。
2020年度の日本のカロリーベースの食料自給率は37%(注:21年度は38%)ですが、種や肥料の海外依存度を考慮すると10%にも届かないとの著者の試算も紹介されています。
ウクライナ戦争に加えて、中国の「爆買い」、コロナショック、異常気象など、世界の食料生産・流通をめぐる危機はさらに深刻化しています。しかし日本の農政は、諸外国のように食料増産に取り組むどころか、逆に米や牛乳、砂糖の減産要請をしているのは「あきれるばかり」で、これこそが最大のリスクと断じています。
生産コストの高騰等により大手畜産会社が倒産するなど、農村現場の疲弊が急速に進むなか、農家への損失補てん、政府買い上げによる困窮世帯への支援、学校給食の公共調達等の政策的対応が不可欠としています。
しかし、著者は政治や農業者の取組みだけで十分とはしていません。
「消費者の行動が世の中を変える原動力になる」「小さな選択を積み重ねることが、日本の食と農と命を守ることにつながる」と訴えています。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 命を大切にするレンダリング産業(@銀座で農業)[11/28]
https://food-mileage.jp/2022/11/28/blog-405/
○ CSまちデザイン20周年[11/29]
https://food-mileage.jp/2022/11/29/blog-406/
○ 読書会ざんまい[12/5]
https://food-mileage.jp/2022/12/05/blog-407/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ 奥沢ブッククラブ第85回−モーパッサン『脂肪の塊』
日時:12月11日(日)15:00〜17:00
場所:奥沢交和会館
主催:奥沢ブッククラブ(東京・世田谷区奥沢2)
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/3290187954554538
○ ウェビナー「ウクライナからの避難民は難民ではないのか?」
日時:12月12日(月)18:30〜20:30
場所:オンライン
主催:ヒューマンライツ・ナウ 関西グループ
(詳細、問合せ等↓)
https://hrnevent20221212.peatix.com/view
○ 福島の原発『廃炉』とALPS処理水・漁業復興
講師:林 薫平さん(福島大学准教授)
日時:12月19日(月)14:00〜16:00
場所:オンライン又は会場(東京・経堂)
主催:CSまちデザイン
(詳細、問合せ等↓)
https://cs-machi.com/shimokouza5/
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
ウクライナの戦火がやむまでお休み中です(pray for peace.)。そろそろ再開したいな。
過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに写真入りで掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.257は12月23日(金)[和暦 師走朔日]、2022年最後の配信となる予定です。
より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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バックナンバー
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ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」
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