◇フード・マイレージ資料室 通信 No.258◇
2023年1月6日(金)[和暦 師走十五日]
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◆ F.M.豆知識 国民経済における農林水産業の地位
◆ O.カレント 食料・農業・農村基本法の見直し
◆ ほんのさわり 菅野芳秀『七転八倒百姓記』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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お陰様で、個人的には平穏な2023年を迎えました。
しかし宮沢賢治の「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」との言葉に胸が詰まります。
本メルマガは、時の流れを体感するため、本年も和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録して下さっている皆様に配信させて頂きます。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−国民経済における農林水産業の地位−
経済発展に伴い、国民経済における第一次産業(農林水産業)のシェアが低下し、第二次産業(製造業)、さらには第三次産業(サービス業)のシェアが上昇することは、世界的・歴史的にも明らかな現象です(「ペティ・クラークの法則」)。
リンク先の青い折れ線グラフは、日本の国内総生産(GDP)に占める農林水産業の割合の推移を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/01/258_GDP2.pdf
これによると、1970年代前半において5〜6%のシェアを有していた農林水産業は、経済発展(サービス化の進行等)に伴って大きく低下し、90年代前半には2%を割り込み、近年はほぼ1%の水準で横ばいとなっています。
このことをもって、かつては1.5%の一次産業のために日本経済全体を犠牲としてはならないと発言した外務大臣(当時)さえいました。
右端の棒グラフは、2020年のGDPに占める農林水産業のシェアについて、他の先進国と比較したものです。
これによると、比較的高いフランス(1.6%)、豪州(2.3%)、韓国(1.8%)でも1〜2%の水準であり、アメリカ(0.8%)、イギリス(0.6%)、ドイツ(0.7%)では日本より低くなっています。
しかし、これらの国においてGDPに占めるシェアが低いことを理由に農林水産業を軽視する議論は聞いたことはありません。農林水産業は、貨幣価値では評価できない多面的な役割(国土、環境、地域社会の保全など)を担っていることが、国民全体の共通認識となっているものと思われます。果たして日本ではどうでしょうか。
なお、余談ながら(日本に限った話ではありませんが)、防衛予算の対GDP比2%という数字は相当の額であることを実感せざるを得ません。
[データの出典]
内閣府「国民経済計算」、農林水産省「令和4年度農林水産業ひと口メモ(p.2)」から作成。
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/files_kakuhou.html
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/hitokuchi_memo/index.html
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−食料・農業・農村基本法の見直し−
現在、国の審議会(食料・農業・農村政策審議会 基本法検証部会)において、食料・農業・農村基本法の検証作業が行われています。
1999年に制定された基本法では、食料の安定供給のためには国内農業生産の増大を基本とすること、農業・農村の多面的機能や自然循環機能を重視することが必要であること等、現在も変わらない重要な理念が掲げられています。
しかし制定から20年が経過し、国内においては農業の担い手の減少・高齢化や荒廃農地の増加が進む一方、グローバルな食料危機や気候変動が顕在化するなど、大きな変化が生じています。また、5年ごとに定めらてきた食料自給率の目標は一度も達成されたことはありません。
このような状況を踏まえ、昨年9月の岸田総理からの指示を受け、法改正を見据えた新たな政策の展開方向について、本年6月をめどに取りまとめられる予定となっています。
日本の農政は理念が定まっておらず、場当たり的である等の批判を受けることが多々あります。
また、食料・農業・農村にかかわる様々な課題解決に向けては、農業者だけでなく、事業者、消費者を含めた幅広い市民の理解と努力、コンセンサスの形成が不可欠です。
以下のページには、これまでの農政の理念や実施状況についての膨大な資料が掲載されています。ぜひ、関心のある項目だけでも目を通して頂ければ幸いです。
[参考]
食料・農業・農村政策審議会 基本法検証部会
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kensho/index.html
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−菅野芳秀『七転八倒百姓記』(2021年10月、現代書館)−
https://gendaishokanshop.stores.jp/items/616423afc120961806736463
著者は1949年、山形・長井市生まれの、身長191cm、体重100kgという偉丈夫です。
三里塚、沖縄という「国家への謀反の現場を転戦」(大野和興氏の解説)したのち、26歳の時に帰郷して「逃げたいと思っていた」家業の農業を継ぎました。
就農早々に直面したのが米の生産調整の問題。
国(農政)に対する抗議の意思を示すためにただ一人、市役所に乗り込んで減反拒否を宣言したものの、紆余曲折を経て撤回。著者はこの「敗北」で、運動は理念だけで続くものではなく利益(継続性)の視点が必要であること(理と利の調和)、グレーゾーン(あいまいにすること)の積極的意味を学んだとしています。
「運動のダイナミズム」のポイントを体得した著者は、その後、東京の生協との産直交流、農薬の空中散布廃止、「百姓国際交流会」の開催等、困難と思われたことを次々と実現していきます。
その集大成の一つが、1990年頃から構想された「レインボープラン」です。住民が主体的に分別収集した生ゴミを堆肥化し、それで生産した農作物を住民が消費するという「農業を基礎とする循環型社会づくり」の取組みです。
著者は取組みを進めるに当たり、仲良しグループを作ることはしない、余分なモノサシで人を排除しないこと等を心掛け、市民の側が「大きな動き」をつくった結果、行政も動きやすくなったとしています。これにより、住民にとっては単なる風景以上のものではなかった農地が、台所とつながったのです。
これら多くの成果を上げてこられた著者ですが、現在の日本の農業や地域の状況には強い危機感を抱いています。日本の農政については、相変わらず大規模化・効率化優先で、小農や家族農業は潰され、人々が共に暮らしていた村は崩壊の淵にあると強烈に批判します。
しかし著者は嘆いているだけではありません。簡単な答えなど見つかるはずはないとしつつ、考えられる方策の一つとして「地域自給圏」の形成を提案しています。しかも理念だけにとどまらず、実際に幅広い生活者(消費者、生産者)、政治家や行政も巻き込んで(一社)置賜自給圏推進機構を立ち上げ、具体的な活動を推進しておられるのです。
著者は「時代の大きな流れは我々の勝利を約束してくれている」と、信じて疑いません。
警鐘であると同時に、希望の書となっています。
[参考]
置賜(おきたま)自給圏推進機構
https://www.okitama-jikyuken.com/
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 全国の市民に考えてほしいこと(廃炉・ALPS処理水・漁業復興)[12/25]
https://food-mileage.jp/2022/12/25/blog-410/
○ 山下さんを偲ぶ会(佐藤弘さんによる改良版)[12/28]
https://food-mileage.jp/2022/12/28/blog-411/
○ 2023年もどうぞよろしくお願いします。[1/4]
https://food-mileage.jp/2023/01/04/blog-412/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ ドキュメンタリー映画「百姓の百の声」上映会+トークショー
講師:柴田昌平さん(映画監督)
日時:1月11日(水)10:00〜13:00
場所:オンライン又は会場(東京・経堂)
主催:CSまちデザイン
(詳細、問合せ等↓)
https://cs-machi.com/shimokouza6/
○ ロータスシネマ vol.39「川口由一の自然農というしあわせ with 辻信一」
日時:2023年1月13日(金)19:00〜20:40
場所:常円寺(東京・西新宿7)
主催:NPO法人ロータスプロジェクト
(詳細、問合せ等↓)
https://lotus-project.jp/lotuscinema-39/
○ 今夜はご機嫌@銀座で農業
日時:2023年1月17日(火)18:30〜21:00
場所:中央区環境情報センター(東京・京橋3)
主催:Slow Food Ginza
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/521438706708935/
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
2023年に入りましたが未だウクライナの戦火はやまず、再開できません(pray for peace.)。
過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.259は1月22日(日)[和暦 睦月朔日]に配信予定、和暦でも新しい年を迎えます。
より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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