【メルマガ】F.M.Letter No.259 -pray for peace.

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 https://www.mag2.com/m/0001579997.html

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.259◇
 2023年1月22日(金)[和暦 睦月朔日]
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◆ F.M.豆知識  「物価の優等生」と規模拡大
◆ O.カレント  過去最大規模の鳥インフルエンザ発生
◆ ほんのさわり 後藤静彦『ヒヨコに賭ける熱き思い』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 時候は大寒。和暦でも新年を迎えました。改めて本年もどうぞよろしくお願いします。どうぞ世界ぜんたいが平穏な年になりますよう。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、本年も和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録して下さっている皆様に配信させて頂きます。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−「物価の優等生」と規模拡大−

飼料価格の高騰等を背景に、「物価の優等生」とされる鶏卵の価格が上昇しています。リンク先の折れ線グラフは、消費者物価指数(1970年=100)の推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/01/259_keiran.pdf

消費者物価指数(総合)は長期的に上昇基調で推移しましたが、2000年代に入ってからはほぼ横ばいとなっています(1970年比3.2倍)。食料全体もほぼ同様の動きとなっていますが、近年は総合を上回って推移しています(同3.5倍)。
 一方、鶏卵価格は長期的にほとんど上昇しておらず、まさに「物価の優等生」であったことが見て取れます。

棒グラフは、農家(経営体)1戸当たりの飼養羽数の推移を示したものです。1970年においては70羽程度(300羽未満の生産者を含む。)だったのが、2021年には約7万5千羽(1000羽以上の生産者のみ)と、実に1000倍以上の規模拡大が実現しています。
 このように採卵養鶏は、日本の農業の中で最も構造改革が進展 (規模拡大が実現) した「優等生」で、その結果、鶏卵価格も相対的に抑えられてきたのです。

これは、生産者の努力はもとより、稲作等に比べて土地の制約が少ないこと、生産コストの約半分を占める飼料を安価な輸入穀物にほぼ全面的に依存することで実現できたものです。
 しかしながら、気候変動による世界的な不作や感染症の拡大、ロシアのウクライナ侵攻等により、飼料等のコストは大きく上昇しています。また、フード・マイレージの観点からは、飼料穀物の大量・長距離輸送は地球環境に大きな負荷を与えており、持続可能とは言えません。さらには、アニマルウェルフェア(動物福祉)など、日本ではこれまであまり配慮されてこなかったコスト上昇要因が顕在化してくることも予想されます。

ところで先日の夕方、 NHKテレビ(首都圏ローカル番組)のトップニュースは鶏卵価格の上昇でしたが、続いて放映されたのは卵を減らしても美味しいレシピの紹介でした。消費者が節約したいと思うのは当然のことながら、以上述べたような様々な状況をみると、消費者も鶏卵の値上げ(コスト上昇)の一部を担う心づもりと行動が必要と考えます。

データの出典:
 総務省統計局「消費者物価指数」(2020年基準長期時系列データ)、農林水産省統計部「畜産統計調査」(長期累年統計)から作成。
 https://www.stat.go.jp/data/cpi/1.html
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tikusan/index.html#l

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−過去最大規模の鳥インフルエンザ発生−

画像は農林水産省HP「鳥インフルエンザに関する情報」より。

今シーズンは、過去最速の2022年10月28日 (金) に国内1例目が確認されて以来、本日午前中(1月22日 (日)) の時点で25道県64事例の発生が確認され、殺処分対象も1,180万羽と初めて1千万羽を超えました。これは事例数、殺処分対象羽数とも過去最大の規模です。
 また、野鳥での発生も継続しており、全国的に環境中のウイルス濃度が非常に高まっていると考えられています。
 このため、引き続き、地域一体となった発生予防とまん延防止のための防疫体制の徹底が必要となっており、農林水産省、都道府県でも発生県における緊急消毒等を実施しています。

被害が大きくなっていることの背景の一つに、養鶏農場の規模が拡大していることがあります。今回発生が見られた事例のなかには、飼養羽数50万羽以上の農場が6事例 (うち100万羽以上は3事例)が含まれています。
 規模の大小によって発生リスクが異なるわけではなく、数十羽規模の「庭先養鶏」でも発生が確認されています。また、ケージ飼い、平飼いという飼養形態にかかわらず発生がみられます。しかし、農場の大規模化により、発生した場合に被害が甚大なものとなるリスクは高まっているといえます。
 なお、鶏肉や鶏卵等を食べることで、ヒトが鳥インフルエンザウイルスに感染する可能性はないとされています。

[参考]
 鳥インフルエンザに関する情報(農林水産省HP)
 https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−後藤静彦『ヒヨコに賭ける熱き思い』(1996年1月、日本教文社)−
 https://www.kyobunsha.co.jp/product/9784531062799/book.html

著者は1930年岐阜市生。(株)後藤孵卵場社長、日本養鶏農業協同組合連合会(日鶏連)会長等を務められたのち、1999年に没。
 本書は、著者の父親である後藤靜一(しずいち)氏を主人公とする、日本における養鶏業の黎明期からの「半世紀にわたるドラマ」です。

静一氏は1902年、岐阜県の山間部にある旧根尾村(現本巣市)の裕福とは言えない家に生まれ、高等小学校を中退して大阪の薬問屋に奉公に出ました。その時に肺結核を病みましたが、鶏卵の食事療法で快復した経験から、郷里に戻って養鶏を始めることを決意します。
 先輩を訪ねて時には住み込みで教えを請い、同志との研究会を開催するうち、やがて鶏卵の販売と孵化事業を行う会社の責任者を任されることに。その後、戦時中の1947年に独立して現在に至る後藤孵卵場を創業。品種改良を進め、産卵性、抗病性に優れたヒナを供給する事業を始めます。

ところが、1945年には空襲で孵卵場や住宅の全てを失います。静一氏は焼け跡にバラックを建て、「疎開」させていた孵卵器1台で事業を再開。また、戦中戦後は食料事情が悪く、自分たちの食べるものを節約してまで鶏の飼料を確保したというエピソードも紹介されています。

1955年には子息の静彦氏(著者)がアメリカ留学から帰国。集団遺伝学を応用してさらに品種改良に取り組み、経営も安定してきたところに、1962年、突然、ヒナの貿易が自由化され、怒涛のような「青い目のヒナ」の攻勢が始まりました。
 マスコミ等では国産鶏は絶滅するとさえ言われ、後藤孵卵場も売り上げが大幅に減少するなか、メイン銀行から取引を停止されるという苦境に立たされます。しかし静一氏は、アメリカの大企業からの合弁会社設立の申し出を拒否します。日本の風土に合った在来種を守り、さらに品種改良を進めることで、日本養鶏の自主独立の地歩を確保することを目指したのです。
 また、外国産雛が大量に輸入されるようになったことで、今までなかったニューカッスル病等が国内に侵入し、同時にワクチン使用が常態化した状況も描かれています。

 鶏卵価格が長期にわたって安定してきた背景には、関係者の方々の並々ならない努力があったのです。
 ちなみに著者は本書の中で「物価の優等生と言われるのは有難いのですが、優等生というのはなかなか儲からないのです」との本音も吐露されています。

現在、採卵鶏における国産鶏のシェアは6%程度に過ぎません(家畜改良センター岡崎牧場)。一方で、国際的な紛争や家畜伝染病により輸入が減少・途絶するリスクが高まっているなか、食料の安全保障の観点からも国産鶏の重要性が高まっています。

(注:人名の「静」の字は正確には旧字体です。)

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 体験落ち葉掃きと多福寺見学(埼玉・三芳町)[1/10]
 https://food-mileage.jp/2023/01/10/blog-413/

○ 「農」を知るドキュメンタリ映画 2題[1/16]
 https://food-mileage.jp/2023/01/16/blog-414/

○ 原発回帰がもたらす10の問題(CCNE)[1/17]
 https://food-mileage.jp/2023/01/17/blog-415/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 「311子ども甲状腺がん裁判」集会(第4回口頭弁論期日)
 日時:1月25日(水)12:00〜13:30
 場所:日比谷コンベンションホール(東京・日比谷図書文化館)
 主催:311甲状腺がん子ども支援ネットワーク
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.311support.net/post/%E7%AC%AC%EF%BC%94%E5%9B%9E%E5%8F%A3%E9%A0%AD%E5%BC%81%E8%AB%96%E6%9C%9F%E6%97%A5%E3%81%AE%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B

○ テレビドキュメンタリ「三つめの庄内〜余計者たちの夢の国〜」
 日時:1月28日(土)16:00〜17:00(日本テレビ系列20局同時放送)
(詳細)
 https://www.ybc.co.jp/tvprogram/mittumenoshonai/

○ 麦踏み体験(湘南小麦・畑ツアー2023年)
 日時:2月5日(日)、26日(日)11:30〜15:30
 場所:伊勢原市大田公民館(神奈川・伊勢原市下谷)
 主催:麦踏み塾
(詳細、問合せ等↓)
 http://www.mugifumi.com/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 未だウクライナの戦火はやまず、再開できない状態が続いています(pray for peace.)。
 過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.260は2月5日(日)[和暦 睦月十五日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』(今回から2023年版)を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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