【メルマガ】F.M.Letter No.265 -pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.265◇
 2023年4月20日(木)[和暦 弥生朔日]
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◆ F.M.豆知識  木材供給量と自給率、苗木生産量の推移
◆ O.カレント  西野文貴先生(林学博士)
◆ ほんのさわり 桐村里紗『腸と森の「土」を育てる』 (2021/8、光文社新書)
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 和暦では弥生に入りました。草木が勢いを増して生い茂る「いやおい」の月です。二十四節気では穀雨(雨降って百穀を潤す)。今号は森にフォーカスしてみました。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。明日の夜は「清明の満月」を望むことができるでしょうか。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−木材供給量と自給率、苗木生産量の推移−

リンク先の上の棒グラフは、日本における木材の供給構造の長期的推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/04/265_naegi.pdf

国産材の供給量は、1960年代以降、長期的に減少傾向で推移してきましたが、2002年の1,692万立米を底として増加傾向に転じています。これは、森林資源の充実、合板原料としてのスギ等の国産材利用の増加、木質バイオマス発電施設での燃料材利用の増加等によるものです。
 一方、輸入材の供給量については、1960年代以降、丸太を中心に急増し、高い水準で推移してきましたが、1996年の9,045万立米をピークに減少に転じています。これは、中国の輸入増、ロシアの丸太の輸出規制等が背景にあります。なお、2020年は新型コロナウィルス感染拡大による混乱もあり、前年に比べ15%減少しました。

これらの動向を受けて、木材自給率(折れ線グラフ)は2000年頃まで低下傾向で推移していましたが、2002年の18.8%を底に上昇に転じ、2021年は41.1%となっています。

一方で、国内における造林用の苗木の生産量の推移(下の棒グラフ)をみると、1960年代の16億本から近年は6千万本程度と、4%程度の水準にまで大きく減少しています。
 「ウッドショック」という言葉に表されるように、これまでのような輸入の継続が困難となっている中、国産材の安定的に供給できる体制の構築が重要となっています。

データの出典:
 農林水産省「木材需給表」、林野庁「国営・民営別山行苗木生産量の推移」から筆者作成。
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/mokuzai_zyukyu/
 https://www.rinya.maff.go.jp/j/kanbatu/syubyou/syubyou.html

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−西野文貴先生(林学博士)−

Present Tree in くまもと山都(2023.4/8-9)にて

西野文貴先生は1987年大分県生まれ。実家が苗木生産を営んでいたため、幼い頃から植物に親しみ、東京農業大学大学院では林学を専攻されました(林学博士)。
 東日本大震災の復興支援を含め、各地における植生調査や植樹プロジェクトに携わり、ヨルダン、インドなど海外でも森づくりのプランニング等を手がけておられます。
 また、環境教育にも注力されており、FMラジオのレギュラー番組を始め、テレビ、ラジオにも多数出演されています。

2023年5月8〜9日に開催された「Present Tree in くまもと山都」(熊本・山都町)では、前年に引き続き、西野先生のご指導を頂きました。
 見上げるような巨木から足元の草花まで、様々な植物の名前や興味深い生態について、分かりやすく説明して下さいます。博識なのは当然のことながら、時にはユーモアを交えつつ、特に関東地方では珍しい植物を紹介して下さるなど、サービス精神も旺盛です。

西野先生によると、日本の自然は豊かで、本来であれば放置していても森に戻るそうですが、近年は鹿の食害が深刻化しており、植樹活動がより重要になってきているとのこと。
 どのような樹種を植えるかも重要で、西野先生は、その地に残されている「鎮守の森」を参考に「森のレシピ」を作成されるそうです。なお、東日本大震災の時も鎮守の森の多くは津波被害から免れたそうで、鎮守の森の植生は防災面からも重要な役割を果たしているとのことです。
 この日は、そのレシピに沿って30種類以上の広葉樹の苗を植えました。
 「今日の活動は、単に苗木を植えるだけではない。心に残る豊かな里山を皆さんとともに作っていきたい」等と、熱意を込めて語られる西野先生の姿が印象的でした。

(参考)
 株式会社グリーンエルム
 http://www.greenelm.co.jp/
 「Present Tree in くまもと山都 2日目」の模様(拙ブログ)
 https://food-mileage.jp/2023/04/13/blog-432/
 
◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−桐村里紗『腸と森の「土」を育てる−微生物が健康にする人と環境』 (2021/8、光文社新書)−
 https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334045562

著者は1980年岡山県生まれの内科医・認定産業医。
 臨床現場では生活習慣病から終末期医療まで幅広い診療経験を積まれると同時に、「ヘルスケア」の再定義など情報発信等に努めておられます。
 著者によると、自分一人で健康になろうとする「ヘルスケア」は、エゴイズムに他ならないとのこと。なぜなら人と環境は一体だから。人と地球は別々の存在ではなく相互依存関係にあるという考えを基礎に、生態系を維持し、人を含めた地球全体の健康を実現すること(プラネタリーヘルス)が必要であると、著者は訴えます。
 そのアプローチとして本書が提案しているのが、根を下ろす「土」の回復です。

森を観察することは、人と微生物が共に形成する生命システムを理解することにつながるとのこと。足元には苔やキノコが生え、落ち葉を払ってみるとミミズやヤスデなどの小さな生物たち、さらに目には見えない多くの微生物たちがいます。ふかふかの土は、彼らが有機物を分解することで形成されたものなのです。
 また、森は、土の中の菌糸と植物の根が作るネットワークによって、あたかも一つの生命体のように情報交換や栄養の受け渡しを行っているという「マザーツリー」の概念も紹介されています。

一方、人の体内にも、腸内細菌等の働きによる同じメカニズム(「腸脳相関」)があるそうです。
 森にとっても人にとっても大事なのは「土」であり、土を作る微生物との共生が求められています。そして「土」の回復のための核心には、日々の「食」という最も身近な営みがあるとしています。
 その地域の文化や伝統、土に根差した食を選択し、食べものを大切にすることで、人と土(自分の腸の中と、地球・環境)を接続しなおし、人を生命の網(web of life)の一部へと回帰させることの重要性を訴えているのです。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 2023年の“Present Tree in くまもと山都”(1日目)[4/11]
 https://food-mileage.jp/2023/04/11/blog-431/

○ 同(2日目)[4/13]
 https://food-mileage.jp/2023/04/13/blog-432/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 農あるまちづくり講座in世田谷 第4回
 日時:5月28日(火)19:00〜
 場所:JA世田谷目黒ファーマーズセンター(東京・世田谷区桜新町2)
 主催:都市農業研究会
 (参考↓)
 https://www.jacom.or.jp/noukyo/news/2023/03/230309-65243.php

○ オーガニックコットンの種まきに、福島に行こう!
 日時:4月29日(日)7:15 東京駅集合、19時頃 同到着・解散
 場所:天空の里山(福島・いわき市四倉町上柳生)
 主催:(有)リボーン
 (詳細、問合せ等↓)
 https://reborn-japan.com/domestic/14328

○ 2023年 堰の浚い
 日時:5月4日(木)8:00 現地集合、夕方終了
 場所:元木上堰(福島・喜多方市山都)
 主催:元木・早稲谷 堰と里山を守る会
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/738790244430905

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 ロシアによるウクライナ武力侵略の開始以来のお休みも、長くなってしまいました。
 過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.266は5月4日(木)[和暦 弥生十五日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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