◇フード・マイレージ資料室 通信 No.278◇
2023年10月29日(日)[和暦 長月十五日]
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◆ F.M.豆知識 コンビニ経営の大きな負担となっている食品廃棄
◆ O.カレント JEI エシカル基準
◆ ほんのさわり 自然栽培協会監修『農業と食の選択が未来を変える』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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この夏の猛暑と水不足は、食べ物にも大きな影響を与えています。米については「白未熟粒」が増加している地域があり(食味や品質に大きな差はありません)、野菜は秋になっても高騰を続けており、数年続くサンマの不漁も温暖化の影響があるとされています。一方、世界では戦火が広がり、食料や資源についての不安が広がっています。
今号は、前号で取り上げた食品ロスのつながりで、エシカルフードについて考えてみました。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−コンビニ経営の大きな負担となっている食品廃棄−
前号で紹介したとおり、企業や家庭は大量の食品ロスを発生させています(2021年で523万トン)。食べものを捨てることがエシカル(倫理的)でないことは自明ですが、同時に、大量の食品ロスは経済(経営)面でも大きな負担となっています。
リンク先のグラフは、2020年に公正取引委員会が実施した大手コンビニエンスストアチェーンの全ての加盟店を対象としたアンケート調査結果から作成したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/10/278_conveni.pdf
直近の会計年度におけるコンビニの1店舗当たりの収支状況をみると、売上高1億8,600万円に対して売上原価は1億2,887万円、うち営業費は2,299万円となっています。
この営業費の内訳(円グラフ)をみると、従業員給与が1,500万円と全体の65%を占めており最も多くなっていますが、次いで多いのが廃棄ロス(468万円)で20%を占めています。
代表的なデイリー商品であるおにぎりと弁当についてみると、おにぎりは1店舗1日当たり198.6個を仕入れ、うち18.9個が廃棄されており、廃棄金額は2.3千円(原価ベース)となっています。また、弁当については39個の仕入れに対して5.2個が廃棄(金額は2.2千円)されています。
廃棄物の発生抑制は、次の「オーシャンカレント」欄で紹介するエシカル基準においても重要な項目となっています。家庭を含め、それぞれの主体が食品ロスの削減に取り組むことが、エシカルな社会づくりに向けての重要な課題となっています。
(資料)
公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」(2020年9月)から筆者作成。
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/sep/200902_1.html
(この報告書は、前号「ほんのさわり」欄で紹介した食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さんの別のご著作で知りました。貴重な情報を有難うございました。)
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−JEI エシカル基準−
これは、先日のご講演(霞が関ばたけ)のなかで、山本謙治さん(農畜産物流通コンサルタント)が紹介されていたものです。
「エシカル」(倫理、良心)をキーワードに地球の環境と社会との調和を目指して、2017年に設立された日本エシカル推進協議会(JIE)は、2年間の各分野の専門家による検討やパブリックコメントを経て、2021年、日本初のエシカル基準を策定し公表しました。
この基準は、商品やサービス、あるいはブランドや企業のエシカル度を客観的に示すためのモノサシで、8つの分野(大項目)についてそれぞれ4〜7つの課題(中項目)が設けられており、全体で43の項目から構成されています。
8つの大項目(かっこ内は中項目の数)は、自然環境の保護(7)、人権の尊重(5)、消費者の尊重(4)、動物の福祉・権利の保護(6)、情報開示(5)、地域社会への配慮・貢献(5)、適正な経営(7)、サプライヤーやステークホルダーと積極的な協働(4)となっています。
なお、このうち大項目「自然環境の保護」の5番目に「廃棄物の発生抑制」の中項目があります。
この基準からも明らかなとおり、「エシカル」とは非常に幅広い分野に渡っています。特に人権面など日本はまだまだ対応が不十分な項目もあります。欧米に比べて「周回遅れ」(山本謙治さん)となっている日本のエシカル消費の普及の一助となることが期待されます。
参考:
(一社)日本エシカル推進協議会プレスリリース(2021年10月)
https://www.jeijc.org/ethical-standard/20211013-1/
JEIエシカル基準
https://www.jeijc.org/wp-content/uploads/2021/10/jei_ethical_standard_ver1.pdf
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−(一社)自然栽培協会 監修『農業と食の選択が未来を変える』(2023.7、玄文社)−
https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=05_90593799/
本書は、医療、食、農業、環境等の幅広い分野の専門家の共著により、自然栽培に関連して、社会の現状や目指すべき目標について整理したものです。
自然栽培とは、自然の循環を模範とし、持続可能な社会を実現するための多様性を尊重する農法ことで、食生活など様々な問題についても、自らが自然と共にあるという本来の姿を意識し、できることから実践するだけで、シンプルで明るい解決策につながると主張しています。
特に強く印象に残ったのが、アル・ケッチァーノ(山形・鶴岡市)オーナーシェフの奥田政行さんの言葉です。
奥田シェフによると、人間に限らず、地球に生きるものは大地に根を張って育ったものを食べるのが基本であり、命の終わりには土や水に還るのが自然な循環のサイクルとのこと。つまり、自然に寄り添う形で育った命を、正しく料理し、感謝していただくことが、人間の再生に、さらには地方の再生、地球の再生へとつながるというのです。
オーシャン・カレント欄で見たとおり「エシカル」とは多くの分野にまたがる複雑な概念です。
しかし、奥田シェフの言葉に接して、究極のエシカルフードとはシンプルに「地球とつながる食材」ということかも知れないという気がしてきました。地球とつながっている食材であれば、自然や地域の環境への負荷も小さいでしょうし、放牧という飼養形態は動物福祉の面でも優れていると思われます。
一方で、現在、脱炭素の観点からもてはやされているプラントベース(植物性)の代替肉や培養肉、あるいはゲノム編集食品等には「地球とのつながり」は希薄と感じざるを得ません。脱炭素はエシカルの重要な要素ですが、それが全てではないと思われます。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ エシカルフード−進む世界と遅れる日本(霞が関ばたけ195)[10/23]
https://food-mileage.jp/2023/10/23/blog-465/
▼ 筆者が主催するイベントです。
〇 食と農の市民談話会4-4
「私が巻き寿司に巻き込んでいるもの−八幡名子さんの思い」
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/10/tirasi3-42
食と農の間の距離を縮め、顔の見える関係づくりを目指す「食と農の市民談話会」実践・対話篇の第4回のゲストは、巻寿司大使の八幡名子さん。
地元の東京・八王子をはじめ全国の産地に足を運び、生産者との交流を続ける名子さんから、実践内容とそれを支えている「思い」についてお話を伺います。
後半は、名子さんが各地の生産者からお預かりしてきた食材を使った手作りの巻き寿司と、同様に産地や生産者・事業者にこだわる「箕と環」さんの特製料理を頂きながら、懇談を行います。
日時:11月8日(水)19:00〜21:30
場所:47都道府県レストラン 箕と環(東京・神田)
参加費:4000円(料理代+ワンドリンク、うち500円は避難民支援のために寄付)
【お陰様で満席となっています】
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/311215424947697
(参考:食と農の市民談話会について)
https://food-mileage.jp/2023/10/15/shimin_danwakai/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ 「Present Tree in みやぎ大崎」植樹ツアー
日時:11月4日(土)〜5日(日)
場所:宮城・大崎市
主催:認定NPO法人 環境リレーションズ研究所
(詳細、問合せ等↓)
https://presenttree.jp/get-involved/index.php#sec03
○ 福島県の農家を巡るツアー2023
日時:11月11日(土)〜12日(日)
場所:福島・新地町、相馬市、南相馬市等
主催:NPO 福島県有機農業ネットワーク
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/645825224204533/
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
昨年2月まで個人のFBに週3日投稿していた小咄は、ロシアによるウクライナ侵攻開始以来中断しており、加えてパレスチナ情勢も深刻化しています。こんな時代だからこそ「笑い」が大切との意見も頂いているのですが・・・。
過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.279は11月13日(月)[和暦 神無月朔日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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