2023年10月も後半。朝夕は秋らしく肌寒い日も増えてきましたが、日中は夏日になることもも。
自宅近くに一画を借りている市民農園では、ナスはまだまだ穫れています。白菜など冬野菜は順調に生育、福島・いわきで頂いてきたコットンも大豊作です。
10月21日(土)の朝は東京・丸の内へ。
日差しが眩しいほどの秋晴れ。9時前という早い時間ながら、大手門の前には多くの外国人観光客の姿。
この日9時から 3×3 Lab Future で開催されたのは「第195回霞ヶ関ばたけ in 丸の内」。ほぼ毎月開催されていますが、私は久しぶりの参加です。
この日のテーマは「エシカルフード 進む世界と遅れる日本〜消費者の意識をどう変えるか〜」。
始まる前に、講師の山本謙治さん((株)グッドテーブルズ、農畜産物流通コンサルタント。ブログはこちら)にご挨拶させて頂きました。セミナー資料で無断でご著書『エシカルフード』を引用させて頂いていることをご報告、厚かましくもご著書にサインまで頂きました。
定刻の9時にスタート。
週末朝という時間帯ですが、オンラインも含めて約30名ほどが参加しています。
主催者の松尾真奈さんからの「霞が関ばたけは、食や一次産業について共に学び対話を重ねることで、暖かいコミュニティと美味しい未来を作っていく取組み」等の開会挨拶に続き、テーブルごとに自己紹介。
民間企業、NPO、大学関係、マスコミ、行政など分野も世代も様々です。
9時50分頃から始まった山本さんのお話は、以下のような、多くの示唆に富む(ある意味ショッキングな)内容でした。
(以下、文責はすべて中田にあります。また、以下はご本人の挨拶を受けて「やまけんさん」と記載させて頂いています)。
「学生時代には学食の野菜の美味しさに感動して、自転車で7時間かけて千葉の有機農家を訪ねたことも。大学時代はキャンパス内で野菜を栽培。生産者が価格をコントロールできていない実態を知り、農家の方たちが幸せな気持ちで農業をやっていけるような社会を創りたいと思った」
「大手スーパーの『顔の見える野菜』企画の立ち上げに関わった後に独立し、産地をサポートするためのコンサルタントや、ジャーナリストとして情報発信をしている」
「短角牛のオーナーにもなっている。消費者には、牛が(スーパーでトレーにのせられた)牛肉になるまでの過程が見えていない。産地との距離が離れてしまっている。日本国内の牛肉生産は、輸入穀物で育てられ、サシが入って高く売れる黒毛和牛が大部分。一方、放牧中心の短角牛は循環型でエシカルな生産方式と考えてきた」
「ところが先日、ヨーロッパで世界最大規模のオーガニック展示会をみて衝撃を受けた。植物性の代替肉の展示が多く、世界は脱畜産の方向に大きく動いていることを知った。
SDGsは、何となくほんわかしているように思えるが、実は世界のビジネス競争をするためのルールになっている。このままでは日本は取り残されると、大きな危機感を抱いた」
「エシカルとは、倫理に配慮した消費スタイル。世界各国それぞれ特有の倫理、道徳観を持っているが、現在は欧米(特にヨーロッパ)主導になっている。
先行している欧米のルールを踏まえたうえで、モンスーン地帯である日本・アジアのエシカルについて考えることが必要。地域への配慮といった項目も入るのではないか。
しかし現在、日本人の多くは欧米のルールさえ知らない。グローバルなルールの下で戦っていかざるを得ない」
「欧米のエシカルの対象は、環境、人、動物。
オーガニックは安全性ではなく循環(環境)が目的。日本では特に人権に対する意識が極めて低い」
「イギリスでは、30年ほど前から企業や商品を評価(ランキング)するガイドブックが作られている。これには300以上の評価基準があり、数値化されている」
「トキやコウノトリのお米など、これぞエシカルフードと言える事例は日本にもある。
しかし、全体としては世界から周回遅れ」
「この背景には、消費者のなかに日本の食はすぐれているといった根拠のない思い込みがある。本来、生産者と消費者は同格のはずなのに、買う方が偉いかのような消費者中心主義がはびこっている。また、安ければいいというデフレマインドが定着しており、いいものであっても、それに対してお金を支払おうという意識が乏しい」
「そもそも、商品やサービスにエシカルが『見える化』されていない。
ある米国人ジャーナリストは『日本のレストランは美味しいだけで終わっている』と指摘している。欧米のレストランでは、食材の産地や生産者にこだわることで、社会問題を料理で解決しようという意識がある。料理番組でも、例えば数が減っているクロマグロではなくビンチョウを使うといった説明がなされる。日本にこんな料理番組はない。
欧米ではビジネスや商品にエシカルがビルトインされているが、日本はまだまだ」
「SDGsネイティブとも言える若い世帯に期待したい。そのためには若い人たちの可処分所得が高まることも必要。
「『見える化』によりインセンティブを与えていくことも重要。ポイントカードを活用した取り組みも進めている。また、イギリスの例を参考にしつつ日本独自のエシカルフード基準を作成しつつあるが、現状では、日本では基準をクリアできる企業や商品はほとんどない。
さらに、エシカルウォッシュ(エシカルに配慮しているという見せかけ)にも気を付けることも必要」
10時40分頃からは、まずテーブルごとに感想等のシェア。
「近隣にエシカルを選択できる店舗や企業がない」「生協を利用することで産地や食材に関心を持てるようになった」「『見える化』だけでは『自分ごと化』するのには足りないのでは」等の意見や感想。「Myエコものさし」という取組みを紹介して下さった方も。
続いて全体での質疑応答・意見交換。
ココナッツ油を使った代替チーズを製造しているメーカーの方からは、売れなければ棚に置いてもらえない、理解のある企業が少ないとの発言。
やまけんさんからは「自分も代替チーズは色々試しているが、日本はスーパーチェーンの数が多く、バイヤーの意識次第というところがある」との回答。
専門紙の記者の方からは「日本の畜産の現状はアニマルウェルフェアからは程遠い現状。どうすれば消費者に価格転嫁を受け入れてもらえるか」との質問。
やまけんさんは「英国などではキャンペーン文化があり、個人が問題提起することが社会を変えていっている。日本の消費者は無知すぎる。知らないから意識も変わらず、声も上げない。メディアや口コミでエシカルの大切さを広げていく努力を続けていくことが必要」
さらに「イギリスでも『常にエシカル』な消費者は5~10%に過ぎず、大多数の60~75%は『時々エシカル』。この層が少しずつでもエシカルに軸足を動かしていけば、社会にも市場にも大きなインパクトとなる。エシカルを支えるのは普通の人」とも。
「自分ごと」するためにはどうすればいいかとの質問には、
「まずは知ること。さらには、生産の現場に関与しているという実感を持てる人を増やしていく。個人的な共感や心が動かされるようなアプローチが必要だが、簡単な答えはない」との回答。
出された質問に一つひとつ真摯に答えて下さいました。
盛んな意見交換で、予定を30分ほど超過し11時30分頃に終了。
その後も、やまけんさんの前には、直接お話ししたいという人たちの列。参加者同士で名刺交換や意見交換する人たちも。オンラインではなく、リアルの会ならではの醍醐味です。
個人的には、やまけんさんのご著書で「時々エシカル」が力になることを学んだ時には、日本にも希望があると心励まされたのですが、思っていたよりも現状は深刻なことを教えられた貴重な勉強会でした。やまけんさん、主催者・参加者の皆さま、有難うございました。
引き続き色々と学び、できるところから自分なりに実践につなげていきたいと思います。
(なお、この日の午後は有楽町で「わだつみ展」を見学。学徒出陣の壮行会から80年目に当たる日でした。)
さて、やまけんさんの足下にも及ばないささやかな実践ですが、来る11月8日(水)、食と農の市民談話会4-4「私が巻き寿司に巻き込んでいるもの」を開催します。
全国の産地に足を運び、生産者との交流を続ける巻寿司大使の八幡名子さん(東京・八王子市)からお話を伺い、手作りの巻き寿司など特製料理を頂きながら懇談を行います。
菅野農園(山形・長井市)から取り寄せたお米(つや姫)も使わせて頂く予定です。
ご関心のある方のご参加をお待ちしています。
事前申し込みが必要です。詳しくはFBのイベントページ、チラシをご覧ください。