【メルマガ】F.M.Letter No.284-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.284◇
  2024年1月25日(木)[和暦 師走十五日]
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◆ F.M.豆知識  栄養面、農業生産面における肉類の地位の変化
◆ O.カレント  お肉の情報館(東京・港区芝浦)
◆ ほんのさわり 山脇史子『芝浦屠場千夜一夜』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 能登半島地震の発生から25日が経過しました。昨日14時現在で233名が死亡、19名が安否不明。1万人以上の方が避難を強いられ、広範な地域で停電や断水も続いています。今は義援金をお送りすること位しかできません。
 今号は1週間遅れとなった「お肉」の特集。本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−栄養面、農業生産面における肉類の地位の変化−

【ポイント】
 肉類は、食料消費面、農業生産面でますます重要となっています。しかしながら、産地や生産者・事業者の方たちのことを想像することが難しいことが、根深い偏見や差別が払拭されない一因となっていると考えられます。

日本人の食生活は、1960年代に高度経済成長が始まって以来、大きく変化しました。これほど大きく食生活が変化した国は、世界にはありません。
 変化の主役は、米と畜産物・油脂です。米の消費量はピーク時の約4割へと大幅に減少した一方、畜産物と油脂は数倍に増加しました。生活の急激な「欧米化」です。今回は、このなかで肉類を取り上げます。
 リンク先の図284は、栄養摂取及び農業生産面における肉類の割合の変化を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/01/284_nikurui.pdf 

国民一人一日当たりの供給熱量は、1960年度には2290 kcalだったのが1990年度には2640 kcalへと増加し、2021年度には2265 kcalへと減少に転じています。この間、肉類は63 kcal→213 kcal→230 kcalと増加を続け、供給熱量全体に占める肉類の割合は1%→6%→8%と大きく上昇しています。
 同様に肉類の割合をみると、たんぱく質については4%→13%→14%と、脂質については6%→13%→16%と、いずれも大きく上昇しています。
 一方、農業生産面についても、産出額全体に占める肉類(肉用牛、豚、ブロイラー)の割合は5%→13.9%→20.7%と大きく上昇しています。
 このように、肉類は食料消費面、農業生産面で大きく地位を高めてきており、欠くことのできないものとなっています。
 ところが現在、消費者にとってお肉とは、綺麗にパックされてスーパーの棚に並んでいる商品の一つにすぎません。肉類は、産地や生産者・事業者の方たちのことを想像することが最も難しい食材と言えます。このことが、食肉産業に携わる方たちに対する根深い偏見や差別が、現在も払拭されないことの一因となっていると考えられます。
 私たちが大好きなお肉は、当然ながら、と畜・解体する人がいないと食べることはできないのです。

[資料]
 農林水産省「食料需給表」(令和3年度)、「生産農業所得統計」(令和3年)から筆者作成。
 https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/nougyou_sansyutu/

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−東京食肉市場・芝浦と場−

【ポイント】
 品川駅からほど近い東京食肉市場・芝浦と場に併設されている「お肉の情報館」には、食肉の歴史と人権についての展示もあります。多くの方に訪ねて頂きたい場所です。

写真は「お肉の情報館」HPより。

JR品川駅の港南口(東口)から徒歩5分ほどのところに、日本最大の取引規模を誇る東京都中央卸売市場食肉市場があります。このセンタービル6階にある「お肉の情報館」を訪ねたのは、昨年12月18日(月)のことでした。
 東京食肉市場・芝浦と場の歴史、と畜・解体作業の流れ、衛生検査や市場取引の仕組み等について、パネルや模型等により分かりやすく展示・説明されています。と畜・解体作業の様子はビデオで見ることもできます(なかなかショッキングな映像です)。

足が止まったのは、「食肉の歴史と人権」のコーナーです。
 食肉市場(と畜場)や、そこで働く人たちを誹謗・中傷するはがきや手紙が展示されていたのです。「残酷で人間のやる仕事じゃない」など、詳しく紹介できないほどの酷い言葉が綴られています。なかには子どもが書いたと思われるものもありました。
 ほとんどの日付は平成以降のもので、近年はインターネットへの誹謗・中傷の投稿も増えているそうです。現在も食肉処理に対する根強い差別や偏見が払拭されていない数々の証拠をみて、正直、これほど酷いものかと驚くとともに、大きな衝撃を受けました。
 なお、すぐ隣には市場を見学した小学生たちの感想文が掲示されていて、市場で働く人たちへの感謝の気持ちなどが綴られていることに救われる思いがしました。

美味しくお肉を頂きながら、牛や豚をと畜することを、残酷、可哀そう等と偏見を持っているような社会は、人権の面からも問い直される必要があることは言うまでありません。
 なお、お肉の情報館は平日の10〜18時開館、自由に見学できます。多くの方に訪ねて頂きたいと思います。

[参考]
 東京都中央卸売市場食肉市場 「お肉の情報館」案内
 https://www.shijou.metro.tokyo.lg.jp/syokuniku/rekisi-keihatu/rekisi-keihatu-03-01/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−山脇史子『芝浦屠場千夜一夜』(2013、青月社)−
 https://seigetsusha.co.jp/booklist/CWc5Ckok

【ポイント】
 最初は1週間だけのつもりだった体験取材が7年間も続いたのは、芝浦には類いまれな、抜け出せないほどの魅力があったから。ただ、本書は出版までに四半世紀という長い年月が必要でした。

東京出身のフリーランスのライターが、1991〜98年の間、東京・芝浦の食肉市場・と場に通って現場の方から仕事を習い、働いた時の体験記です。
 最初は1週間だけのつもりだった「野次馬」的な体験取材が、結局、断続的に7年間も続いたのは、芝浦には類いまれな、抜け出せないほどの魅力があったからだったそうです。
 自分の体の何倍もある大型の牛の解体に、ナイフ1本を握ってひとりで取り組む作業員の姿は「神話の中の光景を見ているよう」だったとのこと。自らも牛のカシラ(頭部)を運ぶたび、これまでなかったような清涼感が体に行き渡ってきたそうです。現場は「たくさん血は流れ、けっこう凄まじいけれど、なんだか静かで心落ち着く場所」だったようです。
 差別的な表現をした著名な出版社等を組合が激しく糾弾する「出版確認会」の様子も描かれています。

なお、本書は出版までに四半世紀という長い年月が必要でした。著者自身、多くの人に読んでもらうのがいいのか、悩みがあったようです。
 それでもやはり出版しようと決めた時、著者は解放運動の支部を訪ねて事前に了解を求めたそうです。「ここに書いてあることに差別はないけれど、差別される環境は今も残っている」と言われつつも、最後は「あんただって何年も芝浦の現場に通った当事者だ。当事者が書きたいというのを書くなとはいえない」と納得してもらったというエピソードが記されています。

[付記]
 年末年始以降、本書を含めて、肉食に関わる何冊かの本を読みました。拙ブログにまとめてありますので、ご関心のある方は覗いて頂けると幸いです。
  https://food-mileage.jp/2024/01/07/blog-481/
  https://food-mileage.jp/2024/01/23/blog-483/

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 「肉食の読書」続き[1/23]
 https://food-mileage.jp/2024/01/23/blog-483/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

〇 こどもマルシェ
 日時:2月3日(土)9:00〜12:00
 場所:埼玉・所沢市西所沢1
 主催:NPO こどもの木
 (詳細、問合せ等↓)
 https://tokorozawanote.net/11533/

○ ビッグイシュー日本20周年記念イベント
 「いまこそ語ろう、生きたい社会のポリティクス」
 日時:2月3日(土)14:00〜16:00
 場所:北沢タウンホール(東京・世田谷区北沢2)
 主催:(有)ビッグイシュー日本
 (詳細、問合せ等↓)
 https://thebigissuejapan20th.peatix.com/

○ オーガニック学校給食フォーラム
 「食材のコストと調達をクリアして持続可能なオーガニック給食を目指そう!」
 日時:2月12日(月)10:00〜
 場所:オンライン
 主催:オーガニック学校給食フォーラム実行委員会
 (詳細、問合せ等↓)
 https://organickyushokuforum3cost.peatix.com/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 今こそ停戦を。過去のアーカイブは以下に掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.285は2月10日(土)[和暦 睦月朔日]に配信予定です。和暦でも新しい年を迎えます。
 正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。もうすぐ手帖も、新しい年のもの(北斎手帖)に変わります。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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