◇フード・マイレージ資料室 通信 No.322◇
2025年8月8日(金)[和暦 閏水無月十五日]
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◆ F.M.豆知識 米の収穫量の比較(1940年代と2020年代)
◆ O.カレント 増産に舵を切る米政策
◆ ほんのさわり 袖井林二郎『マッカーサーの二千日』
◆ 情報ひろば 第3回「食と農の未来フォーラム」(8月26日)のご案内
ブログ更新、イベント情報等
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「八月や六日九日十五日」
今年も鎮魂と平和を祈念する8月を迎えました。しかし世界では戦火が絶えず、超大国指導者によるあからさまな核威嚇や、原爆投下を正当化する発言まで。サーロー節子さんの言葉「諦めるな」を胸に刻みたいと思います。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
-米の収穫量の比較(1940年代と2020年代)-
【ポイント】
現在の日本の米の収穫量は、深刻な飢餓に直面していた1940年代に比べて、総量で85%、一人当たりでは約半分へと減少しています。

戦中戦後の一時期、日本は深刻な飢餓に直面しました。都会の駅に集まった戦災孤児(「駅の子」)のように、毎日のように失われていく命があったのです。
それでは、当時の米の収穫量は比べてどの程度だったのでしょうか。リンク先の図322は、米の収穫量(総量及び一人当たり)について、1940年代と2020年代を比較したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/08/322_kome.pdf
これによると、1940年代(1940~48年)の米の収穫量(総量)は平均で871万トン、人口1人当たりでは117kgとなっています。一方、2020年代(2020~24年)の平均では総量742万トン、1人当たり59kgと、それぞれ1940年代に比べて85%、51%へと減少しているのです(ちなみにこの間、人口は1.7倍に増加)。
1940年代前半は、戦中期で出征等により労働力が不足するなかでも800万トン以上の収穫量がありました。しかしながら終戦の年である1945年には枕崎台風の影響もあって一気に600万トン弱にまで落ち込み、翌1946年は、復員もあって深刻な飢餓状態に陥ったのです。いわゆる「食糧メーデー」も行われました。
このグラフから、いくつかの教訓を読み取ることができます。
一つは、現在の米の収穫量自体が(特に一人当たりでは)戦中・戦後の混乱期を大きく下回っていることです。現在、米の収穫量(消費量)が少なくても飢餓が存在しないのは、食生活が大きく変化し、カロリーの大きな部分を畜産物や油脂から摂取しているためです。しかしながら、その生産に必要な飼料や油糧種子の大部分は輸入に依存しています。
さらに、米の収穫量は気象条件に大きく左右されることから、常に供給が大きく減少するリスクを抱えていることも分かります。
これらのことを踏まえると、食料安全保障の観点からも、国内における米の供給基盤を維持・強化していくことの重要性が改めて確認できます。
[データの出典]
農林水産省「作物統計」(作況調査、長期累年)、国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2025年版)」から作成。
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_kome/index.html
https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2025.asp?fname=T01-03.htm
◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
-増産に舵を切る米政策-
【ポイント】
政府は米の増産に舵を切りましたが、そのための具体策は、大規模化・法人化、スマート化の推進など従来の施策と大きく変わらないようです。

本年6月4日、首相官邸に設置された「米の安定供給等実現関係閣僚会議」(議長は内閣総理大臣、副議長は内閣官房長官及び農林水産大臣、ほかに財務大臣等4閣僚で構成)は、8月5日(火)16時過ぎから第3回会議を開催しました。
ここでは小泉農相から、需要量については家計の動向やインバウンド観光客の影響が把握できていなかったこと、供給量については精米ベースの観点がなかったこと、備蓄米の放出のタイミングや方法などが適切でなかったこと等の「失政」の報告がありました。
そして石破首相からは、今後、米については増産に舵(かじ)を切ること、耕作放棄地の拡大を食い止め農地を次世代につないでいくこと、輸出の抜本的拡大に全力を傾けること等の政策の方向性が示されました。また、環境に配慮した取組を支援する新たな仕組みの創設にも言及されました。
一方、具体的な政策手段として掲げられている「農業経営の大規模化・法人化やスマート化の推進」は、従来の施策を踏襲したものです。農家も製造業や商店と同様、営利を目的とする民間の私企業である以上、公的な資金(税金を財源とする補助金等)を投入する正当性を担保するために、生産性の向上が要件とされてきたのです。
しかし現在、農業の現場で「農じまい」が広がりつつあるなか、地域資源である農地を維持し、国内の食料供給力を確保していくためには、従来の(主に財政面から)理屈だけで対応することは適切でない面もあると、個人的には考えます。
もっとも、農家を公務員化するといった一部政党の主張は荒唐無稽ですが。
[参考]
首相官邸「米の安定供給等実現関係閣僚会議」
https://www.kantei.go.jp/jp/103/actions/202508/05kome_anteikyoukyuu.html
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
-袖井林二郎『マッカーサーの二千日』(1976.9、中公文庫)-
【ポイント】
戦後の深刻な食糧問題の様子と対応策が、占領者(「温情あふれる指導者」)の立場から描かれています。

著者は1932年宮城県生まれの政治学者で占領期研究の第一人者。丸木夫妻の「原爆の図」を米国で展示紹介する活動もされていましたが、本(2025)年2月、92歳で死去されました。
本書は、連合国軍総司令部(GHQ)の最高司令官・マッカーサーの人物像や政策を、本人の回想録や書簡、アメリカや日本の関係者の証言など膨大な記録から丹念に検証したもので、大宅壮一ノンフィクション賞等を受賞しています。
マッカーサーは1945年8月に厚木基地に降り立ち、51年4月に離日するまでの約5年8か月の間、名実ともに日本の支配者として君臨しました。その間、新憲法の制定、東京裁判、朝鮮戦争等を経験する中で、彼は、現在まで続く戦後日本の「鋳型」を作り上げたのです。
戦後の食糧問題の深刻さも、本書から伺うことができます。
マッカーサーが初めて天皇と会見したのは1945年9月27日。その時、天皇からは「自分はどうなってもいいが、国民を食わせてやってくれ」という言葉が発せられたとのこと。マッカーサーは、その全ての責任を引き受けようとする勇気ある態度に深く感動したと、回想記に記しています。
しかし、マッカーサーが着任した翌年の1946年は、戦災に加えて40年に一度という前年の大凶作により、日本の食糧事情は危機的な状況に追い込まれました。「一千万人餓死説」さえささやかれていたのです。5月19日には皇居前に25万人が集結し「飯米獲得人民大会(食糧メーデー)」が行われました。飢餓が、人々を行動に駆り立てる大きなエネルギーとなる様子が描かれています。
翌日の夜、訪ねてきて窮状を訴える吉田茂首相に、マッカーサーは「自分が最高司令官である間は、日本人は一人も餓死させない」と約束し、輸入小麦の放出を許可します。街中で白いパンが配給されるようになると、人々は興奮して列を作り、「マッカーサー将軍が下さったんだ」と泣き出した老人や病人もいたそうです。
戦後のアメリカの食糧援助については、国内の在庫のはけ口とすると同時に、日本人の食生活を洋風化するための国家的な戦略だったとする言説が広く流布されていますが、やや一面的なとらえ方かも知れません。
1951年4月、朝鮮戦争をめぐる方針等でトルーマン大統領と対立したマッカーサーが解任されると、日本国民は「温情あふれる指導者」が突然奪われたという思いにとらわれたようです。朝日新聞は社説に「日本国民の最も残念に思うところ」と書き、集参両院は感謝決議を行いました。離日の日、羽田空港に向かう沿道には20数万人が見送り、バンザイの声が湧きあがったそうです。
しかしその興奮もやがて日本人は忘却し、「永久国賓」や記念館建設の構想も立ち消えになりました。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼第3回「食と農の未来フォーラム」の開催について(8月26日(火))
食と農を取り巻く深刻な問題の多くは「食と農の間の距離」が離れてしまっていることに起因しています。都会の一般市民(消費者)の皆さんを主な対象として、食と農の現場の課題を身近に感じ、自主的な行動変容につなげて頂くことを期待して開催する本フォーラム、去る7月23日には大友 治さん(本木・早稲谷 堰と里山を守る会、福島・喜多方市山都)をゲストにお迎えして、第2回を開催しました。
(概要)
https://food-mileage.jp/2025/07/27/blog-592/
第3回は、鈴木純子さん(ふくしまオーガニックコットンプロジェクト、いわき市)をゲストにお迎えし、「原発被災地でオーガニックコットンを育てること」(仮題)をテーマにオンライン開催する予定です。
(参考)ふく・わた FBページ
https://www.facebook.com/fukushimaorganic
以下からお申し込みください。多くの方のご参加をお待ちしています。
なお、Peatixを使用されない方は別途対応させて頂きます。希望される方は本メールヘの返信で連絡ください。
https://peatix.com/event/4526131/
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 稲作が生産しているものとは(第2回 食と農の未来フォーラム)[7/27]
https://food-mileage.jp/2025/07/27/blog-592/
〇 Z世代農家の方たちに勇気づけられました(第215回 霞ヶ関ばたけ)[8/4]
https://food-mileage.jp/2025/08/04/blog-593/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
〇 ハンセン病問題を知る企画2025夏-多磨全生園をゼロから学ぼう!
日時:7月29日(火)~8月10日(日)9:30~18:00
場所:東村山市中央公民館(東京・東村山市野口町1)
主催:ハンセン病問題を知る企画実行委員会
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/3580877708875676
〇 第117回ブッククラブ『星の王子さま』
日時:8月11日(月)19:00~21:00
場所:オンライン
主催:奥沢ブッククラブ
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1413161619915951
〇 今夜はご機嫌@銀座で農業 8月
日時:8月18日(月)18:30~20:00
場所:中央区立環境情報センター(東京・京橋)
主催:今夜はご機嫌@銀座で農業
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1494271858404320
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* 米令寺忽々のコツコツ小咄
「冬の湯豆腐は、木綿に限るね」
「じゃあ、冷ややっこは?」
「夏は来ぬ(絹)」
個人のフェイスブックで週3日お披露目中。過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.323は8月23日(土)[和暦 文月朔日]に配信予定です。暦の上では処暑(暑さがおさまる頃)ですが・・・
正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつも有難うございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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