【メルマガ】F.M.Letter No.323-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.323◇
  2025年8月23日(土)[和暦 文月朔日]
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◆ F.M.豆知識  格差が解消した福島・浜通り産米の価格
◆ O.カレント  上昇に転じた福島県等の食品の購入をためらう人の割合
◆ ほんのさわり 高木仁三郎『プルトニウムの未来』
◆ 情報ひろば  第3回「食と農の未来フォーラム」(8月26日)のご案内
         ブログ更新、イベント情報等
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 暦の上では二十四節気の処暑を迎えました。暑さも和らぐとされる季節ですが残暑はまだ続きそうです。今号は原子力事故と「風評」を取り上げます。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/

-格差が解消した福島・浜通り産米の価格-

【ポイント】
 近年の米価格の高騰は、結果として福島・浜通り産米に対するいわゆる「風評被害」の解消につながりました。

2011年3月の東京電力福島第一原発のシビアアクシデント(過酷事故・炉心損傷)は、立地する福島・浜通り地帯に深刻な被害をもたらしました。特に放射能に汚染された地域では、いわゆる「風評被害」もあり、一時はもう農業はできないのではといった絶望さえ広がりました。
 リンク先の図323は、米の全国平均価格と、福島県の地域別の米の価格の推移を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/08/323_hamadori.pdf

これによると、事故が起こった2011年産以降、23年産米までは、浜通り産の米価格は全国平均を下回って推移していました。特に2013~15年産については全国平均を2割近く下回りました(中通り産も同様の傾向がみられました)。
 米の価格は品質や銘柄など様々な要素によって決まりますが、この頃の浜通り産の米については、いわゆる「風評被害」により不当に低く評価(ディスカウント)されていたことが伺えます。

 しかしながら、2024年産以降、米価格が全体として上昇するなかで、浜通り産の米の価格は全国平均を上回って推移するようになりました。今回の米の価格上昇は、結果として、浜通り産の米に対するいわゆる「風評被害」を解消したと言えるかも知れません。

[データの出典]
農林水産省「米の相対取引価格・数量、契約・販売状況、民間在庫の推移等」から作成。
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/aitaikakaku.html
 注:相対取引価格とは、JA全農などの出荷団体(事業者)と卸売業者の間で取引されている価格である。

◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/

-上昇に転じた福島県等の食品の購入をためらう人の割合-

【ポイント】
 放射性物質を理由に福島県等の食品の購入をためらう人の割合は、これまで低下傾向で推移してきたものの、直近(2025年調査)では上昇に転じています。

消費者庁「風評に関する消費者意識の実態調査(第18回)」より。

本(2025)年3月に公表された消費者庁「風評に関する消費者意識の実態調査(第18回)」 によると、放射性物質を理由に購入をためらう産地として「福島県」及び「被災地を中心とした東北」と回答した人の割合は、2013年2月調査ではそれぞれ19.4%、14.9%となっていたのが、その後は低下傾向で推移し、2024年2月にはそれぞれ4.9%、3.4%にまで低下していました。
 ところが2025年1月の調査では、それぞれ6.2%、5.2%へと上昇に転じているのです。性別にみると男性より女性の方が、年齢階層別にみると30歳代、40歳代が、「ためらう」人の割合が相対的に高くなっています。

これらの要因等については消費者庁のレポートでは分析されていませんが、東電福島第1原子力発電所のアルプス処理水の海洋放出のニュースが多く報道されたことが背景にあるのかも知れません。処理水の安全性については国際原子力機関(IAEA)による「お墨付き」を得ているとされていますが、学術分野等では論争が続いています。通常運転されている原発の冷却水と、過酷事故を起こした原子炉や7燃料デブリを冷却し処理した水とは、含まれている核種が異なるとも言われています。
 とすれば、「買うことをためらう」行動を、必ずしも「風評」(科学的根拠の不確かな噂、流言)とは言い切れない面もあるのではないでしょうか。

[出典]
消費者庁「風評に関する消費者意識の実態調査(第18回)について」(2025年3月6日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/041338/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/

-高木仁三郎『プルトニウムの未来-2041年からのメッセージ』 (1994年12月、岩波新書)
https://www.iwanami.co.jp/book/b268184.html

【ポイント】
 原発や核兵器、人工知能について考えるための多くの示唆が含まれている「フィクション」(近未来小説)です。

著者は1938年群馬県生まれの物理学者(核化学)、民間企業、大学教員を経て原子力資料情報室の代表等を務めた在野の市民科学者。2000年に63歳で死去。遺言により遺産をもとに設立された高木仁三郎市民科学基金(高木基金)は、市民科学者の育成のための事業を行っています。

本書がフィクション(近未来小説)仕立てとした理由を、著者はプルトニウムの問題を多くの人に考えてもらうためとしています。ちなみにそれまで(現在までも?)、岩波新書でフィクションが出版されることはなかったとのこと。
 フィクションとはいえ、序章はプルトニウムの現状についての解説にあてられており、となっ1章以降にも多くの脚注が付されています。
 プルトニウムは長崎原爆の材料となった核兵器物質であり、体内に入ると遺伝子を損傷するなど毒性の強い物質でもあります。コスト面も含めて欧米各国がプルトニウム利用から撤退するなか、ただ日本のみが高速増殖炉の建設と核燃料サイクルの確立を推進している状況が説明されていますが、このことは本書出版から30年後の現在も基本的には全く変わっていないことに驚きます。

そしてフィクション部分。
 事故による昏睡状態から目覚めた核科学者は、47年をタイムスリップして現在は2041年であることを知ります。プルトニウムの誕生から100年目に当たるこの年、日本では高速増殖炉と再処理工場、MOX(プルトニウムとウランの混合燃料)工場を一体化し、丸ごと密閉して運用する公園「プルトピア」が稼働しています。廃棄物の処理を含めて管理は全て人工知能のコンピュータに委ねられています。日本はアジアで「プルトニウム共栄圏」を建設しようとしていたのです。

ところが深刻な事態が発生します。太陽に打ち込むために発射した高濃度廃棄物を搭載したロケットが、軌道を変えて地球に向かっているというのです。地球に墜落する確率は計算上は100億分の1以下ですが、コンピュータ開発者は人工生命の自殺願望によるものではないかとつぶやきます。
 主人公は再び昏睡状態に陥り、消えかかる意識の底で閃光を感じたところで、物語は唐突に閉じられます。結末は読者の想像力に委ねられているのです。

 原発や核兵器、人工知能について考えるための多くの示唆が含まれている「フィクション」です。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼第3回「食と農の未来フォーラム」の開催について(8月26日(火))
 食と農を取り巻く深刻な問題の多くは「食と農の間の距離」が離れてしまっていることに起因しています。
 都会の一般市民(消費者)の皆さんを主な対象として、食と農の現場の課題を身近に感じ、自主的な行動変容につなげて頂くことを期待して開催する本フォーラム、去る7月23日には大友 治さん(本木・早稲谷 堰と里山を守る会、福島・喜多方市山都)をゲストにお迎えして第2回を開催しました。
(第2回フォーラムの概要)
https://food-mileage.jp/2025/07/27/blog-592/

第3回は、鈴木純子さん(ふくしまオーガニックコットンプロジェクト、いわき市)をゲストにお迎えして、「原発被災地でオーガニックコットンを育てること」(仮題)をテーマにオンライン開催する予定です。
 以下からお申し込みください。多くの方のご参加をお待ちしています。
https://peatix.com/event/4526131/
 なお、Peatixを使用されない方は別途対応させて頂きますので、希望される方は本メールヘの返信で連絡ください。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 2025年夏の草刈り/田んぼの草取り(新潟・上越市大賀)[8/13]
https://food-mileage.jp/2025/08/13/blog-594/

〇 インドにゆかりのあった一日[8/20]
https://food-mileage.jp/2025/08/20/blog-595/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

〇 ギャラリー展「戦後80年─戦争とハンセン病」
 日時:7月19日(土)~8月31日(日)
 場所:国立ハンセン病資料館1階ギャラリー(東京・東村山市)
 主催:国立ハンセン病資料館、しょうけい館(戦傷病者史料館)
(詳細、問合せ等↓)
https://www.nhdm.jp/events/list/9273/

〇 2025年の和歌山県の梅のひょう被害と、そして梅ボーイズの活動について
 日時:8月29日(金)19:00~20:30
 場所:オンライン
 主催:食生活ジャーナリストの会
 (詳細、問合せ等↓)
https://jfj-event-20250829.peatix.com/

〇 農あるまちづくり講座フォローアップ講座(講座終了者向け)
 日時:9月9日(火)18:30~19:30
 場所:ワーカーズコープ東京統括本部(東京・池袋)、オンライン
 主催:農あるまちづくり講座事務局
(修了者向けの講座ですが、ご関心のある方は本メールヘの返信で連絡下さい)

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* 米令寺忽々のコツコツ小咄
「絶対に忘れちゃいけないと思って、9条のところに目印を貼ったよ」
「付箋(不戦)の誓いですね」

 個人のフェイスブックで週3日お披露目中。過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.324は、9月6日(土)[和暦 文月十五日]に配信予定です。
 正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつも有難うございます。
https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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