【ブログ】「限界を迎える限界集落-消えつつある自給自足の農と里山暮らし」(第7回 食と農の未来フォーラム)

2026年3月31日(土)午前10時から、第7回 食と農の未来フォーラムをオンライン開催しました。テーマは「限界を迎える限界集落-消えつつある自給自足の農と里山暮らし」。ゲストは冨澤太郎さんです。

 2013年、26歳の時に山梨・上野原市西原(さいはら)地区に移住・就農した太郎さんのお話を伺い、中山間地域の農村のリアルな現状を都市の消費者を始め多くの方に知って頂きたいと思って企画した会です。
 60名近くという多くの方から、うち約半数は当日は都合がつかないもののアーカイブを視聴したいと、申し込みを頂きました。中山間地域の現状に関心を持って下さっている方が多いことに、主催者としては心強く思った次第です。

冒頭、私からは「食と農の未来フォーラム」の趣旨や開催経緯等について説明。
 次回(2月17日(月))のゲストをお願いしている釘島浩子さんからは、テーマである『武士の娘』等について説明して頂きました。

 さらに予備知識的に「限界集落」や「中山間地域」の定義等と、これら地域では人口の減少と高齢化が顕著であること、農地も大きく減少していること等について説明しました(説明資料はこちら)。
 ちなみに「限界集落」という用語は現在は政策や統計ではあまり使われておらず、太郎さんからこのタイトルでと提示された時は、正直、違和感を覚えたのですが・・・。

画像は当日の中田からの説明資料より(全体版はこちら)。

続いて、冨澤太郎さんからのお話です。
 「限界を迎える『限界集落』」と題するスライドを映写しながら説明して下さいました(なお、以下の文責は中田にあります)。

右の画像は当日の冨澤太郎さんの説明資料より(全体版はこちら)。以下、2枚も同様。

「山梨・上野原市西原は東京にも近い。主産業は農林業だが、現在は専業はほとんどいない。ピーク時に2400人いた人口は現在は428と大きく減少。人口だけ見れば自給自足を行える適正規模に戻っただけとの見方もあるが、50代以下の世代があまりにも少なく、10年後はどうなるのかと危惧している。小中学校や保育所もなくなった」

 「もともと食に興味があり、この地区に通ううちに自給自足的な暮らしの様子に魅了されて2013年に移住。その頃は畑にも多くの人がいて賑やかだった。地元の方に農業を教わったが、最初はクワも満足に使えず悔しい思いをした」

 「地域で何百年も根付いている循環型の自給自足の暮らしを実践中。農業は正直、異常気象や獣害もあって楽ではない。屋号の『やまはた農園』には、山の中で農業をする、山のこと(林業など)もするという意味を込めている。
 現在は家族4人(妻と5歳、3歳の子ども)と猫、ニワトリと、古い民家で暮らしている」

「限界集落とは、人口の50%以上が65歳で、社会的共同生活を維持することが限界に近づきつつある集落とのこと。外部の人が勝手に使う嫌な言葉と思っていたが、昨今、実際に限界が見え隠れするようになっている」

 「10年前の西原はすごく元気で、活気にあふれていた。しかしコロナ禍をきっかけに神楽など様々な地域行事も無くなり、祭りの提灯も物置に仕舞われたまま。水道や消防団の維持も困難になり、葬式も簡略化している。草刈りもままならない休耕地が増え、獣害が増加している。畑をやめようという人がどんどん増えている」

 「雑穀など在来種の雑穀の種も失われつつある。水車も壊れ、食文化や農耕文化の継承が困難になりつつある。目の前に畑があるのに、これで食べていくことができないのが現実」

 私(中田)も、10年ほど前から年に数回、西原を訪ねていますが、お話のような急激な変化(限界化)が起こっているとは実感できておらず、正直、ショッキングな内容でした。

質疑応答・意見交換では、まず徳野貞雄先生(熊本大学名誉教授、農村社会学)が発言。
 「限界集落とは、当該地域内の人口や高齢化率だけに着目した問題のある概念で実態を反映していない。限界と言われる集落の多くでも住民は車を所有しており、みんな元気。他出しても近隣にいる家族などとの関係に着目すべき」等の持論を述べられました。
 長年にわたる実態調査の実績を踏まえた発言で、私も熊本在勤・在住中には徳野先生の調査に同行させて頂いた経験があります。私自身の「限界集落」という概念への違和感も、この徳野先生の持論を伺っていたためです。)

 太郎さんからは「この5年くらいの急激な変化を見ていると、限界という言葉を使いたくなるほどの危機感がある。一方、関係人口の実態については調べてみたい」等の発言。

太郎さんと旧知(久しぶり)の男性からの、子どもたちの保育園や移住者の状況等についての質問に対しては、太郎さんからは
 「子どもについては、毎日、市街地に勤務している妻と私が保育園に送り迎えしている。車で30~40分、ガソリン代もかかり、自給的な暮らしを目指している中で矛盾感はある。なお、小学校に上がればスクールバスがある」
 「市が空き家調査やあっせんを行っていることもあり、ちょっとした移住ラッシュもあった。ただ、それぞれ忙しくて、集まったり何か一緒にやったりする機会は少ない。また、自分としては移住者としてくくることには抵抗があり、地元の人とフラットに気軽に付き合っていくことが大事と考えている」

日本・世界の棚田をめぐり、能登の復興にもかかわっている男性からは、高齢者の主な収入についての質問。高齢でも元気な人は勤めに出ており、農林業を主たる収入減にしている人はほとんどいないのでは、との回答でした。

関係人口が話題に出たこともあり、関連で「しごと塾さいはら」についてスタッフの女性から説明がありました(説明資料はこちら)。
 首都圏等から西原に月1回ほど通い、太郎さん達から農作業や蕎麦打ち、竹かご作りなど「西原地区に残る手仕事」を教わるという取組みで、15年続いているとのこと。自分の暮らしを自分でつくる「生きている実感」、様々な「関わり」の中で暮らす安心感が得られるそうです。

太郎さんからは、
 「自分の経営は野菜等で忙しく、小麦まで作って製粉することはできない。しごと塾さいはらの活動のおかげで、在来種の小麦を作ることができている。みんなが来てくれて自給自足等の価値観を再確認できるのが醍醐味だと感じている」等の補足(エール)がありました

画像は当日の説明資料より(全体版はこちら)。

引き続き、質疑応答と意見交換。
 鹿児島で半農半Xを実践されている方からは、しごと塾の活動に共感したとの言葉。
 チャットに、伝統的生活文化や食の文化の再発見が重要ではないかとコメントを残して下さった大学の先生も。

 農林水産省の若い女性職員の方からは、移住を決断した動機についての質問。太郎さんからは、
 「もともと山が好きだったが、移住を決めたきっかけは2011年の東日本大震災。当たり前にあるようなインフラが1日で崩れてしまうのを目のあたりにし、都市の暮らしの弱さを痛感した。
 しかし農の現場には、自分が食べるものは自分で作っており、食べきれないほどの米や味噌が備蓄されているというその力強さがある。自分も自然に向き合い、農にかかわる生活をしたいと強く思った。今も自分の食べるものは自分で作るという行為は、自分にとって当たり前のことになっている。
 だから、食べられるか否かはともかくとして、畑をやめてはいけないと思っている」

終了予定の定刻の12時を回り、最後に太郎さんから「一緒に畑に出てみたら楽しいと思うと思うので、ぜひ西原に来てください」との発言があり、フォーラムは閉会、録画も終了です。
 その後、時間のある方には太郎さんも含めて残って頂き、恒例の30分ほどの延長戦。自由な懇談です。

 鎮守の森、古い社殿の多くは中山間地にあることを紹介して下さった方。売るために農作物を作るのではなく「おすそ分けの文化」が大切との意見を述べられた方。リアルに現場を知っている人が文化等を伝承していくことの大切さを語られた方も。
 農村地域や農業には共同でできる作業がたくさんあると思っていたが、孤立している人が多いといった話には驚いた。都市部でも農村部でも、人が気軽に集まることのできる「場」づくりが必要では、と感想を述べて下さった方も。
 しごと塾に長く参加されている男性からは「心地よい」から参加しているとの発言。
 一方、しごと塾にいては、もう少し一般の方もアクセスしやすいように情報発信してはどうか、とのアドバイスも。

12時30分過ぎに延長戦も終了。今回も多くの方に参加、申し込みを頂き有難うございました(参加費とは別に、限界集落で頑張る太郎さんへのカンパを下さった方もおられます)。
 冨澤太郎さん、しごと塾の皆さん、皆様に感謝申し上げます。

さて、以下は次回(第8回)食と農の未来フォーラムのご案内です。


日時:2026年2月17日(火)19時~21時
開催方式等:オンライン(zoomを利用)、参加費1000円。
テーマ:「日本人ファースト」って?『武士の娘』から考える」(仮題)

 「日本人ファースト」といった言葉に象徴されるような、外国人を排斥し多様性を否定するような言葉が声高に叫ばれています。日本人移民が強制収容された第2次世界大戦前のアメリカにおいて、旧長岡藩家老の娘・杉本鉞子(えつこ)が英語で著した『武士の娘』はベストセラーとなり、日米関係の修復にも貢献しました。
 今回は、異文化研究家の釘島浩子さんをゲストにお迎えし、これからの誰もが生きやすい社会のあり方について考えます。
 以下からお申し込み下さい。
https://peatix.com/event/4761668/

[参考]杉本鉞子『武士の娘』(ちくま文庫)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480027825/


(ご参考)
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