【メルマガ】F.M.Letter No.153

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.153◇
 2018年10月9日(火)[和暦 長月朔日]発行
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◆ F.M.豆知識  農業体験における指導者の重要性
◆ O.カレント  清水農園・清水茂さん
◆ ほんのさわり 国木田独歩『武蔵野』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 カレンダーは10月に、和暦は長月(夜長月)に入りました。
 二十四節気は寒露。露は寒気で凍りそうになり、雁が飛来し、菊の花が咲き、コオロギが鳴き始める時候です。
 約120年前のこの時期、国木田独歩は武蔵野を歩きました。今号は、その武蔵野に関連する内容です。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。

-農業体験における指導者の重要性-

農林漁業に関する体験活動は、食に対する感謝の念を深める等の効果があります。
 2016年度食育白書によると、本人または家族が農林漁業体験を経験した者の割合は30.6%で、「自然の恩恵や生産者への感謝を感じられるようになった」等の効果があったことが明らかとなっています。

また、体験の際に生産者等(農林漁業に携わる者)から直接、指導を受けた人は83.0%となっています。
 リンク先の図107は、農林漁業体験の効果(体験したことによる変化等)について、生産者等による指導の有無別に表したものです。
  http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2018/10/107_sidou.pdf

これによると、「自然の恩恵や生産者への感謝を感じられるようになった」「地元産や国産の食材を積極的に選ぶようになった」等において、生産者等の指導があった場合の方が大きな効果があり、一方、「変化はなかった」とする者は、生産者等の指導がなかった場合の方が大きくなっています。
 このように、農業体験が効果的に実施されるためには、身近なところに農地があり、生産者の方がおられることが重要であることが伺えるのです。

[出典等]農林水産省「平成28(2016)年度 食育白書」
 http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/wpaper/attach/pdf/h28_index-8.pdf

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。

-清水農園・清水茂さん(東京・武蔵野市)-

桜橋というバス停の近く、玉川上水の流れのほとりに国木田独歩『武蔵野』の文学碑があります。もっとも独歩が描いた風景の面影はなく、現在はほとんどが市街地になっています。
 徒歩で10分ほど進むと、住宅やこども園に囲まれた20アールほどの畑が見えてきます。市街地の中では防災等の観点からも貴重なオープンスペースでもあります。
 ここが清水茂さんの農場・清水農園です。

去る9月16日(日)に訪ねた時には、子どもを含む10数人の方たちの姿がありました。こだわりのたくわん作りをされているグループの方たちで、この日は清水さんの指導の下、たくわん用の大根の種まきをされていたのです。
 中心になっておられる方は、以前、近隣の幼稚園に通い、在園時は清水農園で農業体験もしていたという子どものお母さんで、活動は今年で9年目になるそうです。
 畑では多くの種類の野菜等が栽培されており、希望する近所の人は格安の値段で分けてもらうこともできるそうです。

代々続く農家を清水さんが継がれたのは1986年のこと。
 有機農法に取り組み、2014年 からは子ども達のための「はたけの幼稚園」、子育てママさん達のための「武蔵境3番線ホーム」等の活動をされています。
 清水さんにとっての有機農法とは「命で命をつなぐこと」。作物を育てるのは微生物であり、微生物が生きやすい環境を維持することが人の役割であるという信念をお持ちです。
 また、産業としての農業は生産性を重視するものの、もともと「農」は生命原理に基づくもので、コミュニティや田園風景の保全等とも結びついており、そこに都市農業の意義があるとも主張されています。

実は清水さんは絵描きでもあります。芸術家としてのセンスも活かしながら、後継者の方(お嬢さん)とともに、ますます活躍されることを期待したいと思います。

[参考:拙ブログより]
 清水農園(東京・武蔵野市)訪問記
  http://food-mileage.jp/2018/09/20/blog-140/
 銀座農業コミュニティ塾 第5回勉強会(清水さんの講演)
  http://food-mileage.jp/2018/09/17/blog-138/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。

-国木田独歩『武蔵野』(1949/5、新潮文庫)-
 https://www.shinchosha.co.jp/book/103501/

国木田独歩(1871~1908)は千葉・銚子に生れ、山口、広島で少年時代を過ごした後に上京。新聞記者を経て詩人・小説家になりましたが、自然主義文学の先駆者と位置づけられています。

独歩の代表作である『武蔵野』は明治31(1898)年に刊行されました。

当時、渋谷に住んでいた独歩は、画や歌に描かれるほどの武蔵野の現状を自分の目で確かめるため、ある年の秋の初め、汽車を境で降り、そこから歩いて桜橋に向かいました(現在、文学碑のある場所です)。

橋のたもとにある「茶屋の婆さん」に尋ねられて「遊びに来た」と答えると、「桜は春咲くこと知らねえだね。東京の人はのんきだ」と言われたというエピソードも書かれています。

独歩は「今の武蔵野は昔と違って林である」としつつも、「現在の武蔵野の美(詩趣)は昔に劣らない」とし、その美しい情景をみずみずしい文体で描写しています。
 例えば「南風が雨雲を払い、日光雲間を漏れるとき林影一時に煌めく」(9月7日)、「天晴れ、風清く、露冷やかなり」(11月19日)、「夜更け雪しきりに降る。ああ武蔵野沈黙す」 (1月13日)等々。

しかし独歩が感じ入ったのは、単なる自然の美しさではありません。人間の生活圏と自然が入り交じる田園地帯あるいは里山としての武蔵野なのです。
 有名な「武蔵野に散歩する人は、道に迷うことを苦にしてはならない」というフレーズは、足の向く方へ行けば必ず満足させられるもの(農家、小さな野菜市、料理屋、納豆屋、行き来する大八車、遠くから聞こえる汽笛など)があることを表現したものであり、「林と野とがかくもよく入り乱れて、生活と自然とがこのように密接している処がどこにあるか」と感嘆しているのです。

独歩が賞賛した武蔵野の光景は、今はほとんどみることはできません。
 市街地に残る農地が、わずかに当時の武蔵野の面影を今に伝えてくれているようです。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ みかん農家のお手伝い(愛媛・宇和島市吉田町)[9/27]
 http://food-mileage.jp/2018/09/27/blog-142/

○ FoodQ・Session 7 「食×社会課題」[9/29]
 http://food-mileage.jp/2018/09/29/blog-143/

○「幸せな豚」と「幸せな暮らしと怠ける権利」[10/5]
 http://food-mileage.jp/2018/10/05/blog-144/

○「復興と巡礼(@ゲンロンカフェ)[10/6]
 http://food-mileage.jp/2018/10/06/blog-145/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 稲刈り&枝豆収穫 in 横田農場
 日時:10月13日(土)9:30 東武東上線小川駅集合
 場所:埼玉・小川町
 主催:(有)USP研究所
 (詳細、お問合せ先等↓)
 http://uspeace.jp/user_data/event.php#taikenkai

○ 第27回 西原ふるさと祭り
 日時:10月14日(日)10:00~15:00
 場所:山梨・上野原市西原(さいはら)地区
 主催:西原ふるさと祭り実行委員会
 (詳細、お問合せ先等↓)
 http://www.hakken-uenohara.jp/entry.html?id=113302

○ ふくしま再生の会・定期総会と報告会
 日時:10月21日(日)14:00~18:00
 場所:東京大・農学部1号館(文京区弥生)
 主催:ふくしま再生の会
 (詳細、お問合せ先等↓)
 http://www.fukushima-saisei.jp/
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*今号のコツコツ小咄
「耳をすませてごらん。土の中から綺麗な歌声が聞こえるから」
「あっ、本当だ。誰が歌っているの?」
「微生(美声)物」

 なお、コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
  http://food-mileage.jp/category/iki/* 次号 No.154は10月23日(火)[和暦 長月十五日]の配信予定です。
 より役立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
  https://archives.mag2.com/0001579997/(←購読(無料)登録はこちらから)
 発行者:中田哲也
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