◇フード・マイレージ資料室 通信 No.214◇
2021年3月27日(土)[和暦 如月十五日]
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◆ F.M.豆知識 上昇する世界の食料価格
◆ O.カレント 農林水産省「みどりの食料戦略システム」中間とりまとめ
◆ ほんのさわり 鈴木 透『食の実験場アメリカ』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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東日本大震災・原発事故から丸10年が過ぎ、25日には福島から聖火リレーもスタートしました。一方でコロナ禍はリバウンドが警戒されています。
本メルマガは、時の流れを体感するため和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録下さった皆様に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−上昇する世界の食料価格−

コロナ禍により経済活動が停滞する中で、最近、世界の食料価格が値上がりしています。
リンク先の図214は、FAO(国連食糧農業機関)が公表している食料価格指数(食肉、酪農品、穀物、植物油、砂糖の価格指数の平均)の推移を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2021/03/214_FAO.pdf
食料価格は、その生産が気象条件に左右されること、価格弾性値が小さいこと等から、工業製品等に比べて変動しやすいという特徴があります。特に2007年頃からは世界的な異常気象に加え、投機資金の流入もあって大きく上昇しました。
その後は比較的落ち着いていましたが、2020年頃から再び上昇基調が顕著となっているのです。
2021年2月の食料価格指数は116と9か月連続で上昇し、2014年7月以来、6年7か月ぶりの高い水準となりました。特に穀物は125.7と上昇が顕著です。
これは、中国で飼料用トウモロコシや大豆に対する需要が高まる一方で、タイなど生産国の天候不順により供給不足の懸念が出ているためで、日本国内でも食用油や砂糖、配合飼料価格の値上げにつながっています。
食料供給(及びその生産資材)の大きな部分を輸入に依存している日本にとって、その安定供給は不可欠ですが、気候危機やスエズ運河での座礁事故等を含めて、脆弱性が高まっています。
[資料]
FAO “Food Price Index”
http://www.fao.org/worldfoodsituation/foodpricesindex/en/
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−農林水産省「みどりの食料戦略」中間とりまとめ−

農林水産省は「みどりの食料システム戦略」中間取りまとめ案を公表しています(5月までに策定予定)。
策定の背景には、世界的に気候危機、新型コロナ禍に直面し、国内的には生産基盤の脆弱化が進むなか、EUが“Farm to Fork”戦略を公表する等の動きを踏まえて、日本としても持続可能な食料供給システムの構築が急務となっていることがあります。
具体的には、2050年までに化学農薬使用量を50%低減、化学肥料使用量を30%低減、有機農業の取組面積を25%(100万ha)まで拡大する等の意数値目標を掲げ、生産力向上と持続性の両立をイノベーションにより実現するとしています。
これら意欲的な数値目標については多くの関係者から驚きと歓迎の意向が示されていますが、一方、有機農業関係者からは、「いわゆるスマート技術ではなく、安定した作物生産と生態系の保全を両立させるボトムアップ型の技術の開発・普及が必要である」等の提言が行われています。
さらに多くの関係者との意見交換等を続けつつ、実現性のある戦略の策定がなされるよう注視していきたいと思います。
(参考)
農林水産省「みどりの食料システム戦略〜食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現〜」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/team1.html
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−鈴木 透『食の実験場アメリカ−ファーストフード帝国のゆくえ』(2019/4、中公新書)−
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2019/04/102540.html

著者は1964年東京生れの慶應義塾大学法学部教授。アメリカ文化研究、現代アメリカ論を専攻する著者が注目したのが、アメリカの食でした。
アメリカの食と言えば、ハンバーガーやシリアル、コーラなど、あまり豊かではないイメージを抱いていたのですが、本書はそのような偏見を正してくれます。アメリカでは、産業社会の中でファーストフードという画一化、効率化の圧力を受けつつも、独自のローカルフードを創造してきたというのです。
その一例がクレオール料理。植民地時代からの西洋、非西洋の混血文化が、ガンボーやジャンバラヤを生み出しました。先住インディアンや東洋の食文化(SUSHIなど)も取り入れられました。
イギリスからの独立は、例えば輸入砂糖を原料とするラム酒から国産トウモロコシを原料とするバーボンへのシフトが進むなど、食習慣にも大きな変化をもたらしました。
また、進展する産業社会の能率至上主義(時間と労力の節約)の論理に応えるものとしてファーストフードが発展する中で、ヒッピー達を中心に身近な食べ物を基点とすること(ローカル志向)で、健康・環境を重視する新しいライフスタイルを模索してきた様子も描かれます。
そして現在(執筆当時)、トランプ政権下でアメリカ第一主義と分断が拡大するなか、多様性を体現してきたアメリカの食文化こそが、打開の糸口になるとしているのです。
著者は、最後に次のように訴えています。
「もっと食べ物を大切にしようではないか。見知らぬ人々をつなぐ食べ物を大切にすることは、恐らく人にやさしくすることなのだ。それは世の中を変える力になる」
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 奥沢ブッククラブ『モモ』[3/13]
https://food-mileage.jp/2021/03/13/blog-306/
〇 Present Tree 復興10周年バスツアー(1/2)[3/15]
https://food-mileage.jp/2021/03/15/blog-307/
〇 Present Tree 復興10周年バスツアー(2/2)[3/16]
https://food-mileage.jp/2021/03/16/blog-308/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ 「いただきます2」&「UTAUTA」W上映会&島村菜津さん・オオタ監督トーク
日時:2021年4月3日(土)13:15〜17:00
場所:八王子学園都市センター(東京・八王子市)
主催:ゆっくり農縁(東京・あきるの市)
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/246954443766916
○ 第5回「原発と人権」全国研究・市民交流集会 in ふくしま
日時:2021年4月3日(土)13:00〜17:30
場所:オンライン
主催:原発と人権 全国研究・市民交流集会 in ふくしま
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/140003351317847/
○ 高月美樹先生「和暦と陰陽の対話」
日時:2021年4月17日(土)10:00〜12:00
場所:オンライン
主催:日本CI協会
(詳細、問合せ等↓)
https://coubic.com/lima-cooking/575933
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「ここから再び、スポーツの花が咲き誇っていくんです」
「百花(サッカー)繚乱ですね」
原発事故の収束拠点として利用されていた福島・Jヴィレッジは緑のピッチもよみがえり、25日(木)には聖火リレーがスタートしました。
コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.215は4月12(月)[和暦 弥生朔日]に配信予定です。
より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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バックナンバー
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ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」
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