【メルマガ】F.M.Letter No.216

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.216◇
 2021年4月26日(月)[和暦 弥生十五日]
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◆ F.M.豆知識  カロリーベース食料自給率の推移
◆ O.カレント  巻き寿司やさん(東京・八王子市)
◆ ほんのさわり 平賀 緑『植物油の政治経済学』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 4都府県を対象に3度目の緊急事態宣言が発出されました。今年のGWは不便で不穏な日々が続きそうです。
 本メルマガは、時の流れを体感するため和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録下さった皆様に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−カロリーベース食料自給率の推移−

日本のカロリーベース食料自給率が諸外国に比べて低いことは、よく知られていますが、過去から低かったわけではありません。
 リンク先の図216は、カロリーベースの総合食料自給率について、1965年と2019年の数値の推移を、品目別に示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2021/04/216_jikyuritu2.pdf

図の緑色が国産(自給)分、橙色が輸入分を示しています。また、黄色は輸入飼料によって国内で生産された畜産の分で、これは計算上、輸入に算入されます。
 四角形の面積に占める緑色の面積の割合が、自給率に相当します。

1965年度の自給率は73%あったのが、2019年には38%へと大きく低下しています。一見して緑が縮小し、橙(及び黄)が拡大していることが分かります。
 品目別にみると、緑が最も大きく縮小しているのが米です。かつて総供給熱量の半分近くを占めていた米は100%自給しており、現在もミニマムアクセス米を除いてほぼ自給しているものの、供給割合(消費量)が半減したため緑が大きく縮小しました(前号で紹介したとおり、米消費は現在も減少のペースを早めています)。
 米の消費減少を補うように大きく増加したのが、畜産物と油脂類です。畜産物は国内でも大きな部分が輸入飼料により生産されており、油脂類の原料(大豆、菜種等)もほとんど輸入に依存しています。このため、これら2品目の需要の急増(橙、黄の増大)が、全体の食料自給率の低下につながっているのです。

これは食生活の洋風化を反映したものとされていますが、この「通説」については平賀緑先生が興味深い検証をされています(「ほんのさわり」欄参照)。

また、前号でも述べたとおり人口減少が予測されているなか、自給率維持だけではなく国土保全等にも重要な役割を果たしている米(水田農業)の消費減少に歯止めをかける必要もあります。

[資料]
 農林水産省「食料需給表」
 https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−巻き寿司やさん(東京・八王子市)−
 https://www.yahatameikomaki.com/

本メルマガNo.160でも紹介させて頂いた八幡名子さん(やはた・めいこさん、映像作家、巻き寿司大使、飾り巻き寿司1級インストラクター)が、本年1月、月1日のテイクアウト専門の巻き寿司店をオープンされました。
 その名も、巻き寿司やさん。

 これまでも「食べる通信」や「ポケットマルシェ」を通じて出会った全国の農家や漁師さん、あるいは地元の伝統野菜の生産者の方たちの食材を伝える活動を続けてこられた名子さんが、ついにその拠点を構えられたのです。

名子さんの思いは、新しく立ち上げられた「巻き寿司やさん」のホームページに、次のように記されています。
 「私たちの食べるものを日々作って下さっている農家さん漁師さんに感謝しながら、大切に巻き込みたいと思います。召し上がって頂いた皆様には、生産者さんが日々注いだ愛情が届きますように」

なお、次回は5月16日(日)12〜15時。「八王子の伝統野菜・川口エンドウ物語の巻」とのこと。売り切れ終了ですので、早めの来店または予約がおススメです。

ご飯に国産野菜などを巻き込んだ巻き寿司は、栄養バランスがいいだけではなく、食料自給率向上の切り札になるかもしれません。

(参考)
 【オーシャン・カレント】八幡名子さん(本メルマガNo.160より)
 https://food-mileage.jp/2019/01/27/oc-160/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

 −平賀 緑『植物油の政治経済学』−
 http://www.showado-kyoto.jp/book/b432689.html

著者は1971年、広島県出身。
 香港留学、新聞社や金融機関勤務を経て、京都・丹波で「田舎暮らし」を実践しながら市民運動を企画・運営。その後に大学院に入り、ロンドン市立大学修士(食料栄養政策)、京都大学博士(経済学)を取得され、現在は京都橘大学准教授を務められているというユニークな経歴をお持ちの方。
 
 本書は植物油に焦点を当て、「フードレジーム論」という日本ではあまり馴染みのない視点から分析することで、国境を超える資本主義と農業、食料との複合的な関係を明らかにしています。

「豆知識」欄で説明したとおり、食生活の洋風化により海外原料に依存している油脂類の消費が急増し、結果として自給率低下につながったというのが「通説」ですが、実は、油脂の原料依存体制は戦前にすでに構築されていたものだそうです。
 政商とも呼ばれた財閥は、近代国家建設という国策支援・保護の下、中国東北部で大量に大豆を加工し、肥料原料としての大豆かすを日本に移出するための大規模工場建設を進めました。

そして戦後も、いったん構築された海外原料に依存するという生産構造は継続され、今度はアメリカ産を中心とする大豆を輸入して国内で搾油するという体制が確立したのです。
 さらに食品企業とそのグループは、油脂の需要拡大のため、インスタントラーメン等の新製品開発や販売促進に取り組んだ様子も明らかにされています。著者はこの過程を「資本による食の包摂」と呼んでいます。

現在、資本主義については様々な議論が行われていますが、身近な食の分野から資本主義の本質に迫っている本書は、私の目に貼りついていた多くのウロコを剥がし落としてくれました。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 〇 都会(消費者)と地方(生産者)をつなぐ新しいカタチ[4/20]
 https://food-mileage.jp/2021/04/20/blog-311/

〇 渋沢平九郎の峠道[4/24]
 https://food-mileage.jp/2021/04/24/blog-312/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 地域圏フードシステムの構築をめざして(第2回公開研究会)
 日時:2021年4月26日(月)16:00〜18:00
 場所:オンライン
 主催:「農業と経済」特集企画委員会等
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.aesjapan.or.jp/koubo/145935

○ 上念 司 講演会「経済で読み解く地方の力」
 日時:2021年5月1日(土)14:30〜16:00
 場所:会場(燕三条地場産業振興センター)又はオンライン
 主催:つばさ税理士法人
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.tsubasa-ac.jp/info

○ 本木上堰オンライン交流会
 日時:2021年5月5日(水・祝)18:30〜21:00
 場所:オンライン
 主催:本木・早稲谷 堰と里山を守る会(福島・喜多方市)
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/1646591672196639/

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* 米令寺忽々のコツコツ小咄。
「何て美味しい天ぷらじゃあ〜りませんか。もし都会で食べられるなら、いくらでもお金を払うわ」
「そうですか」
「山菜(散財)だけに」

埼玉・顔振峠の平九郎茶屋で、美味しい山菜の天ぷらを頂きました。4月18日にはチャーリー浜さんが死去。
 コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.217は5月12日(水)[和暦 卯月朔日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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