【メルマガ】F.M.Letter No.221

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.221◇
 2021年7月10日(土)[和暦 水無月朔日]
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◆ F.M.豆知識  畜産物の自給率の推移
◆ O.カレント  肉食は地球環境を破壊するのか
◆ ほんのさわり いとうせいこう『福島モノローグ』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 今年も豪雨で静岡・熱海市を始めとして大きな被害が出ています。人災との指摘もありますが、気候変動が年々激しくなってきているのは間違いないようです。
 本メルマガは、時の流れを体感するため和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録下さっている皆様に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−畜産物の自給率の推移−

2018年度の畜産物の品目別自給率 (重量ベース) は、牛肉35%、豚肉49%、鶏肉64%、鶏卵96%、牛乳・乳製品59%等と比較的高くなっていますが、飼料自給率を考慮すると、それぞれ9%、6%、8%、12%、25%という非常に低い数値となります。
 これは日本の畜産が輸入飼料によって支えられているためで、飼料自給率(可消化養分ベース)は25%に留まっています。
 リンク先の図221は、畜産物等の自給率の推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2021/07/221_jikyu.pdf

飼料自給率を考慮した畜産物の自給率(棒グラフの緑色の部分)は、いずれの品目についても低下傾向で推移しています。
 日本の全体の総合食料自給率が、生産額ベースで66%となっているのに対して供給熱量 (カロリー) ベースでは38%という水準に留まっているのは、飼料の大部分を輸入(アメリカ産トウモロコシ等)に依存しているためなのです。
 なお、牛については牧草等で育つことから、豚や鶏のように輸入穀物に依存する必要はないのですが、現実に放牧されている(牧草など粗飼料主体で飼養されている)頭数の割合は、乳用牛 (酪農) 20%、肉用牛 (繁殖) 17%に留まっています。

輸入飼料については産地の気象条件のほか、輸送費や為替レート変動の影響を受けるとともに、新興国等の需要が増加していることもあって、飼料の安定供給のためには、国内生産の拡大 (放牧の推進、食品加工残さ等の未利用資源や飼料用米の利活用の拡大等) が課題となっています。

[資料]
農林水産省「食料需給表」
 https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/index.html
農林水産書生産局畜産部飼料課「公共牧場・放牧をめぐる情勢」
 https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/shiryo/houboku/attach/pdf/houboku-36.pdf

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−肉食は地球環境を破壊するのか−

令和3年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(p.81)

地球環境問題への意識が高まる中、できるだけ肉食は避けるべきとする議論があります。
 令和3年版環境白書(p.81)によると、世界の食料部門 (生産、加工、流通、消費等) における温室効果ガスの発生量は全体の21~37%を占め、さらに日本人の食事のカーボンフットプリントのなかで肉類及び乳製品は約1/3を占めているとのこと。
 食料部門、とりわけ畜産の環境負荷が大きいのは事実で、大豆ミートなど代替肉の開発や普及も期待されています。

一方で、豚肉生産における温室効果ガス排出量の内訳(ふん尿処理及び消費段階を除く)をみると、飼料の生産と輸送(輸入トウモロコシ等の生産、輸出国内及び日本への輸送等)が60%、飼養管理が34%、と畜・加工が6%という研究成果もあります。
 つまり、長距離輸送されてくる輸入穀物ではなく国産の飼料で飼養された食肉を選択することによって、相当程度、食肉消費に伴う温室効果ガスの排出量は削減されることとなるのです。
 さらに国内畜産(特に放牧)には、未利用の草資源を有効利用すると同時に、地域の環境や景観を保全するという役割もあります。

[資料]
 令和3年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書
 https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/
 菱沼竜男「LCA 手法を用いた豚肉生産システムに伴う温室効果ガス排出量の推計」『環境情報科学学術研究論文集29』(2015)
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ceispapers/ceis29/0/ceis29_159/_pdf

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−いとうせいこう『福島モノローグ』(2021.2、河出書房新社)
 https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309029498/

著者は1961年東京生まれ。編集者を経て、作家、映像、音楽、舞台など様々な分野で活躍している方。
 本書は、東日本大震災で被災し、その後も被災地で暮らし活動されている女性たちにインタビューしたノンフィクションです。「あとがき」によると、小説『想像ラジオ』(2013年、野間文芸新人賞)で震災の死者に成り代わって「語り過ぎた」ため、本書はインタビュワーの質問や意見などは全てカットした「モノローグ」となったとのこと。

 避難先から帰ってきたお母さんたち、災害FMを立ち上げた社協職員、地域の復興に取り組む村会議員や農業者の方達から、著者は「忘れたいこと」「忘れられないこと」を聴き出していきます。

冒頭の章で語っているのが、福島・大熊町の帰還困難区域内にあるもーもーガーデンで牛を飼っている谷さつきさん(文中に本名は登場しません)。
 震災後、東京でみたテレビニュースの、取り残された牛たちがバタバタと餓死している映像に衝撃を受けた谷さんは、単身、移住して牛たちの命を救う活動を始めらました。
 「私はとにかくただ牛を生かしたいコンビニ店員です。生かしたいんです。あんな(テレビ映像のような)ことにはもうしたくないんです」
 「震災と原発事故でいちばん困難な場所で、牛たちは頑張って生き抜き、草を食べてふるさとを守っている姿をみてもらいたい」「絶対ここからいいものを生み出したい」と語っておられます。
 なお、谷さんには後述の第2回 食と農の市民談話会で話題提供して頂く予定です。多くの方に、谷さんの声を直接聞いて頂きたいと思います。

(参考)
もーもーガーデン(福島・大熊町)
 https://moomowgarden.or.jp/
食と農の市民談話会
 https://www.shiminkagaku.org/agrifoodmeetings/

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 〇 湾岸のオリンピック会場を歩く[6/28]
 https://food-mileage.jp/2021/06/28/blog-323/

〇 2021年は後半へ。[7/5]
 https://food-mileage.jp/2021/07/05/blog-324/

〇 東村山〜所沢 ぶらり史跡散歩[7/8]
 https://food-mileage.jp/2021/07/08/blog-325/

▼ 筆者が進行役を務める食農市民談話会(全6回)の第2回です。参加者募集中です。
○ 第2回 食と農の市民談話会
 日時:7月13日(火)19:00 〜21:00
 話題提供:谷さつきさん(もーもーガーデン、福島・大熊町)
 場所:オンライン
 主催:NPO 市民科学研究室
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.shiminkagaku.org/agrifoodmeetings/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 奥沢ブッククラブ第69回 レイ・ブラッドベリ『華氏451度』
 日時:7月12日(月)19:00〜21:00
 場所:オンライン
 主催:奥沢ブッククラブ
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/392881485746575

○ 津田敏秀さん学習会「水俣病に学ぶ 甲状腺がんの因果関係」
 日時:7月17日(土)14:00 〜17:00
 場所:オンライン
 主催:放射線被ばくを学習する会
 (詳細、問合せ等↓)
 http://anti-hibaku.cocolog-nifty.com/blog/2021/06/post-1447b4.html

○ 給食から考える社会の未来図
 日時:7月22日(木)19:30 〜21:00
 場所:オンライン
 主催:アースデイ東京
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/859870661602097/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「キュウリやナスを持って、走るつもりだったんだけどね」
「本当ですか」
「聖火(青果)ランナーですから」

 東京では公道での聖火リレーも島しょ部を除いて中止。緊急事態宣言が再々々発出されるなか、2週間後には開幕です。
 コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.222(怪傑ゾロ目!)は7月24日(土)[和暦 水朔日十五日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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