【メルマガ】F.M.Letter No.224

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.224◇
 2021年8月22日(日)[和暦 文月十五日]
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◆ F.M.豆知識  2021年8月の豪雨について
◆ O.カレント  IPCC(第I作業部会)第6次評価報告書
◆ ほんのさわり 宇沢弘文『人間の経済』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 2021年8月の雨は激しいだけではなく、長く続くということでも記録的でした。今号では気候と地球環境について考えてみました。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録下さった皆様に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−2021年8月の豪雨について−

今回の豪雨については、追って専門家により総合的な評価と要因分析等が行われると思いますが、ここでは8月20日までに気象庁が公表しているデータにより、その特徴を探ってみました。

 リンク先の図224は、今回、特に被害が大きかった佐賀市及び広島市について、2000年代に入って以降の年間降水量(計)と1日当たりの最大降水量の推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2021/08/224_gouu.pdf

これによると、両地点とも、降水量が傾向的に増加しているという状況は必ずしも明らかではありません。
 しかし、2021年に入ってからの降水量については、8月(20日まで)の降水量が佐賀市では55%、広島市では36%を占めており、雨が20日間に集中して降ったことが分かります。
 一方、1日当たりの最大降水量(折れ線グラフ)については、これら2地点においては、近年、上昇傾向にあるように読み取れます。

また、降水量の変動が大きくなっていることは、気象庁の長期観測でも明らかとされています。
 https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn_r.html

なお、今般公表されたIPCC報告書では、極端現象の頻発の背景には人為要因による地球温暖化があると分析しています(オーシャン・カレント欄参照)。

[資料]
 気象庁ホームページ(過去の気象データ検索)
 https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−IPCC(第I作業部会)第6次評価報告書−

環境省「政策決定者向け要約(SPM)の概要」より(http://www.env.go.jp/press/109850/116628.pdf)

去る8月9日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書のうち第1作業部会の報告(自然科学的根拠)が公表されました。
 8年ぶりとなった今回の報告書の内容は、これまでの方向性と大きく変わらないものの、その方向性がより確実なものとなったと分析しています。

例えば今回は、20世紀後半以降の温暖化の主な原因は人間活動(人為起源)にあることを「疑う余地がない」と言い切っています。
 2001年報告(第3次)では「高い」、2007年(第4次)では「非常に高い」、2013年(第5次)では「極めて高い」とされていたのが、今回は確率論的な不確実性の表現でなくなっているのです。

また、最近の気候の変化の規模は、何世紀も何千年もの間、例のなかったものであるとし、世界各地で極端現象(熱波、大雨、干ばつ等)を招いているとしています。

ところで地球温暖化については現在も「懐疑論」が絶えませんが、国立環境研・江守正多先生は「IPCC報告書は包括性、厳密性、公開性の面で『半端ない』信頼性の高いもの」であるとし、「やるべきことは変わらないが、さらに強い決意で取り組んでいく必要がある」としています。

[資料]
 環境省報道発表資料「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第I作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について」(2021.8/9)
 http://www.env.go.jp/press/109850.html

国立環境研究所動画チャンネル「【速報版】IPCC執筆者が独自解説!気候変動 国連最新レポート」
 https://www.youtube.com/watch?v=dLgGSI0G2SA
 (これは石川・金沢市のNさんが情報提供して下さったものです。分かりやすい解説動画を有難うございました。)

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−宇沢弘文『人間の経済』(2017.4、新潮新書) −
 https://www.shinchosha.co.jp/book/610713/

著者は1928年鳥取生、2014没。
 本書は、著者晩年のインタビューや講演録をもとに編集部が取りまとめ刊行したもので、宇沢本人による詳細な校正作業は行われていないとのこと。「語り」だけに、宇沢の思いがより率直に表現されているように思われます。

例えば「人間は心があって初めて存在する。心があるからこそ社会が動いていく」「大切なものは決してお金に換えてはならない」「市場原理主義は、もともと学問的にも経済学的にもまったく無内容で支離滅裂。人間の心やそれぞれの境涯への配慮もない」。

「地球環境はすべての生物にとって共通の大切な財産」「排出権取引ほど反社会的で非倫理的なものはない」等々。

特に「農の営み」について、宇沢がこれほど高く評価していたことには驚きさえ覚えました。
 すなわち、「農の営みは食料生産だけではなく文化の基礎を作り出してきており、その意味で農村自体が一つの重要な社会的共通資本である」とし、「農村に定住して農の営みに従事することが生き方としてもっとも望ましい」としています。

一方で「市場的な効率性(工業の原理)を重視する政策の結果、現在の日本農業は最大の危機にある」として、「農村を犠牲にしてきたことが国としてのバランスを大きく欠く状況をもたらしている」とも語っています。

さらには「地球温暖化問題を考える上でも中心となるのは農業。太陽エネルギーや大気中の二酸化炭素を利用して生産する農業は、自然と共生する産業であるところが工業とは決定的に違う」と評価しているのです。

昨今、地球環境への加害者とみなされることも多い農業ですが、経済学の大家は、農業・農村の本質(あるべき姿)を見抜いていたのです。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 都市と農村の心地よい関係を(第3回 食農市民談話会)[8/14]
 https://food-mileage.jp/2021/08/14/blog-328/

○ 小田 実さんと原爆、市民運動[8/16]
 https://food-mileage.jp/2021/08/16/blog-329/

▼ 筆者が企画・進行役を務める食農市民談話会(全6回)の第4回です。参加者募集中です。
 ○ 第4回 食と農の市民談話会
 日時:9月7日(火)19:00 〜21:00
 話題提供:大和田順子さん(同志社大学教授)
 『市民協働による関係人口づくりを通じた持続可能な社会づくり』(仮題)
 場所:オンライン
 主催:NPO 市民科学研究室
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.shiminkagaku.org/agrifoodmeetings/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ オンライン座談会「日本の食料自給」
 日時:8月24日(火)19:30〜21:00
 場所:オンライン
 主催:(一社) 縮小社会研究会
 (詳細、問合せ等↓)
 http://shukusho.org/data/net-seminar/matsuhisa(2021.8.24).pdf

○ 堰と棚田を軸にした関係人口の作り方
 日時:8月26日(木)19:30〜20:30
 話題提供:浅見彰宏さん
 場所:オンライン
 主催:福島県有機農業ネットワーク
 (詳細、問合せ等↓)
 https://peatix.com/event/2501021

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「資本主義って、入門したての新弟子みたいなものね」
「えっ、どういうこと?」
「師匠(市場)には逆らえませんから」

コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

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次号No.225は9月7日(火)[和暦 葉月朔日]に配信予定です。カレンダーは早くも9月ですね。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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