◇フード・マイレージ資料室 通信 No.237
2022年3月3日(木)[和暦 如月朔日]配信
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◆ F.M.豆知識 穀物大国・ウクライナ、ロシア
◆ O.カレント ウクライナの農業と日本
◆ ほんのさわり アレクシエーヴィチほか『アレクシエーヴィチとの対話』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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ロシアによる武力侵攻から1週間、民間人にも被害が拡大しています。一刻も早く戦火が熄む(やむ)ことを祈りつつ、今号はウクライナを特集します。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録下さった皆様に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−穀物大国・ウクライナ、ロシア−

2021年に日本は513万トンの小麦を輸入していますが、ウクライナ、ロシアからの輸入はありません。また、とうもろこし(飼料用)についても、輸入量1,524万トンのうちウクライナからの輸入量は400トン(0.00%)、ロシアからは7,600トン(0.05%)とごくわずかです。
なお、いずれの品目もアメリカからの輸入が大きな割合を占めています(リンク先の図237の左側の2本の棒グラフ参照)。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2022/03/237_Ukraine.pdf
このことからは、今回のロシアによるウクライナ侵攻が日本の穀物輸入に直接影響する恐れはないとも考えられます。
一方、図の右の2本の棒グラフは、世界の輸出量全体に占める各国のシェアを示したものです。
これによると、小麦についてはウクライナ12%、ロシア17%と、両国で実に世界の輸出量全体の約3割を占めています。また、とうもろこしについては、ロシアのシェアは2%程度ですが、ウクライナは17%と大きなシェアを有しています。
このように、世界の穀物市場においてウクライナ及びロシアは大きな地位を占めていることから、今回の武力侵攻は世界の穀物需給に大きなリスク要因となっており、シカゴにおける穀物の先物相場は大きな変動を伴いながら高騰しています。
日本は両国からの輸入はないとはいえ、国際市場の混乱は、日本の安定的な穀物輸入の確保に大きな悪影響を及ぼすことが懸念されます。
[資料]
財務省「貿易統計」
https://www.customs.go.jp/toukei/info/tsdl.htm
USDA(アメリカ農務省)“Grain: World Markets and Trade”(February 2022)
https://apps.fas.usda.gov/psdonline/circulars/grain.pdf
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−ウクライナの農業と日本−

ウクライナの人口は4,159万人と日本の約3分の1であるのに対して、60.4万平方キロメートルと日本の約1.6倍の国土面積を有しており、しかもその約7割が農用地です(日本は約1割)。
気候が温暖なこともあり、ウクライナは古くから「ヨーロッパの穀倉」「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれるほど農業の盛んな国です。主要農産物は小麦、とうもろこし、ばれいしょ、ひまわりの種、てん菜などで、二色からなるウクライナの国旗は青い空と黄金の麦畑を表しているともされています。
なお、国内総生産(GDP) に占める農林水産業のシェアは約10%と、日本の1%と比べて大きなものとなっています。
2021年における日本のウクライナからの輸入額は798億円ですが、その半分以上をたばこが占めています。ウクライナにはJT(日本たばこ産業)の工場があり日本向けの製品等を生産していますが、現在は操業が停止されているようです。
ちなみに2012〜14年頃には、日本は毎年100万トン近いとうもろこしをウクライナから輸入していました。しかし現在は「豆知識」欄で見た通りほとんど輸入はなく、ウクライナ産とうもろこしの輸出先はほとんどが中国にシフトします。近年、中国は穀物輸入を急増させており、世界最大のとうもろこし輸入国となっています。
[参考]
外務省「ウクライナ(Ukraine)基礎データ」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ukraine/data.html#section1
農林水産省「ウクライナの農林水産業概況」
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/pdf/europe/ukraine_gaikyou.pdf
財務省「貿易統計」
https://www.customs.go.jp/toukei/info/tsdl.htm
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ、鎌倉英也、徐京植、沼野恭子『アレクシエーヴィチとの対話−「小さき人々」の声を求めて』(2021.6、岩波書店)−
https://www.iwanami.co.jp/book/b583375.html

アレクシエーヴィチは1948年、ウクライナ人の母、ベラルーシ人の父のもとで西ウクライナで生まれ、幼い頃は祖母に育てられたそうです。両親とともにベラルーシに移住して大学を卒業後、ジャーナリストとして活躍。
『戦争は女の顔をしていない』『アフガン帰還兵の証言』『チェルノブイリの祈り』など、対ドイツ戦の従軍女性兵士、アフガニスタンからの帰還兵と家族、放射能汚染地で暮らす人々などの声(凄絶な内容です。)を綿密にすくい上げた作品を公表してきました。
かつての共産主義体制、あるいは現在のプーチンやルカシェンコ政権には一貫して批判的で、著作が発禁扱いとされたり、政治的な裁判の被告とされたこともありました。現在はドイツに亡命中です。
本書は、2015年にジャーナリズムの分野で初のノーベル文学賞を受賞した時の受賞講演のほか、NHK番組ディレクターによる同行取材記、作家との対談等によって構成されています。
受賞講演のタイトルは「負け戦(いくさ)」。
旧ソ連時代に逮捕され強制労働に従事させられた詩人の言葉を引用しつつ、「人類を本当に変革しようという、大いなる負け戦」を自らも再現しようとしていると決意を語ります。
「私が関心を持ってきたのは『小さな人』。小さな人が小さな物語を語ることが、大きな物語に触れることにもなる」
「ソ連崩壊後に訪れたせっかくのチャンスに、私たちは『強い国』を選んでしまった。再び力の時代となり、ロシア人、ウクライナ人など兄弟が闘っている。私はウクライナもベラルーシもロシアも愛おしい。しかし今、愛について語るのはなかなか難しい」と語っています。
2016年に彼女が原発事故後の福島を訪れ、被災地の方々と交流した様子も描かれています。
そしてチェルノブイリ原発は、現在、作業員の人質とともにロシア軍に占拠されていると報じられています。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 谷崎潤一郎『陰影礼讃』(奥沢ブッククラブ第76回)[2/17]
https://food-mileage.jp/2022/02/17/blog-364/
○ 美名子さんの「自分らしい暮らし+小さな農業」(第8回 食と農の市民談話会)[2/21]
https://food-mileage.jp/2022/02/21/blog-365/
○ CS市民講座「福島『復興』の現在地」[2/24]
https://food-mileage.jp/2022/02/24/blog-366/
▼ 筆者が進行を務める「食と農の市民談話会」の予定です(参加又は動画視聴500円)。
主催はNPO市民科学研究室。オンラインです。
(詳細、問合せ等↓)
https://www.shiminkagaku.org/agrifoodmeeting02_202201/
○ 第9回 3月15日(火)19:00〜21:00
「漁協で働くということ」(仮題)
話題提供:森 歩(あゆみ)さん(兵庫・香美町、但馬漁業協同組合(JF但馬)勤務)
(参考)https://www.jftajima.com/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ 研究会「持続可能な地域社会づくりへ−地縁組織と協同労働」
日時:3月12日(土)13:30〜17:00
講師:名和田是彦さん、蔦谷栄一さん、芦田三雄さん
場所:オンライン
主催:(一社)協同総合研究所
(詳細、問合せ等↓)
https://jicr.roukyou.gr.jp/202202282067/
○ タネとヒト 生物文化多様性の視点から
日時:3月20日(日)13:30〜15:30
講師:宇根豊さん、田村典江さん、西川芳昭さん
場所:オンライン
主催:たねと食とひと@フォーラム
(詳細、問合せ等↓)
https://nongmseed.jp/archives/5286
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「ウクライナのロシア兵も、花粉症には苦しんでるみたいね」
「えっ、そうなの?」
「ティッシュ(撤収)が必要とされていますから」
ネタにするとは不謹慎な、との批判があるかもしれませんが、武力行使に反対する私なりの意思表明のつもりです。
コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.238は3月17日(木)[和暦 如月十五日]に配信予定です。
より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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