【メルマガ】F.M.Letter No.253 -pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.253◇
  2022年10月25日(火)[和暦 神無月朔日]
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◆ F.M.豆知識  家計における米の消費額の地位
◆ O.カレント  「プレミアム消費」は増加するか
◆ ほんのさわり ハンセン『スマホ脳』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 早くも冬が本格化したような寒い日々が続きます。どうぞご自愛ください。今号では、米を中心に、家計消費の現状と動向について取り上げました。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録して下さっている皆様に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−家計における米の消費額の地位−

先日、公表された9月の米の相対取引価格(2022年産)は3年ぶりに上昇に転じました(前年同月比5%、前年産平均比9%)。
 また、21日に発表された9月の消費者物価指数は前年同月比で3.0%(生鮮食品を除く。)と31年ぶりの上昇率となりましたが、企業物価指数(企業間の取引価格)は同月に9.7%上昇していることに比べると、米や食品に限らず、多くの品目において、コスト上昇分の価格への転嫁は十分なものとはなっていないようです。

前号で紹介したように、日本の物価が上がらない原因は、デフレの長期化で賃金が上がらず、その結果、消費も増えないという悪循環に陥っているためです。
 それでは、現代の日本の消費者の家計において、米の価格上昇を受け入れる余地は全くないのでしょうか。
 リンク先のグラフは、本年8月の品目別の家計消費支出額を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2022/10/253_kakei.pdf

これによると、同月の米に対する全国平均の消費額は1,531円となっています。
 これは食料への支出額の1.8%であり、例えば同じ主食でも、パンに対しては米の1.7倍、麺類に対しては1.2倍支出しています。同様に、調理食品や外食に対する支出額は、それぞれ米の8.2倍、9倍となっています。

さらに、米に対する支出額を家計の消費支出全体のなかでみると、わすが0.5%に過ぎません。
 もちろん光熱費、医療、教育など多くの必要な支出もありますが、例えば携帯電話通信料には米の6.7倍の金額を支出しています。同様にゲーム代等に2.2倍、化粧品代に1.7倍、ペット関連費には1.1倍といった状況です。

むろん、何が必要な支出かについては個人の事情や嗜好により異なります。
 しかしこれらの支出を見ると、現在の家計は、とても米の数パーセントの価格上昇を吸収し切れないという状況には、あるわけではないとも考えられるのです。

データの出典:総務省「家計調査」(二人以上の世帯、2022年8月)
 https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/index.html

参考:
 農林水産省「令和4年産米の相対取引価格・数量について(令和4年9月)」(2022.10/18付けプレスリリース)
 https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/kikaku/221018.html
 総務省「消費者物価指数(2022年9月分)」(2022年10月21日公表)
 https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf
 日本銀行「企業物価指数(2022年9月速報)」
 https://www.boj.or.jp/statistics/pi/cgpi_release/cgpi2209.pdf

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−「プレミアム消費」は増加するか−

(株)野村総合研究所「生活者1万人アンケート」(2021年8月)より。

(株)野村総合研究所(本社:東京・千代田区)は、2021年8月、生活価値観や消費実態についての「生活者1万人アンケート」を実施しました。なお、本アンケートは1997年以降3年毎に実施しており、今回が9回目となります。

その結果によると、日本人は景気先行きを悲観する一方でウィズコロナの新しい生活様式に一定の充実感を見出していること、ワークライフバランスへの意識の高まり、インターネットショッピングの利用者の増加等が明らかにされています。

また、本調査では、回答傾向から生活者の消費スタイルを「利便性消費」「安さ納得消費」「プレミアム消費」「徹底探索消費」の4つに分類しています(リンク先の図253-2参照)。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2022/10/253_2_NRI.pdf

このなかで注目されるのは、「プレミアム消費」(自分が気に入った付加価値には対価を払う。高くてもよい)の割合が前回(2018年)の22%から24%に上昇しており、2000年の13%と比べると10ポイント以上と大きく上昇していることです。
 ちなみに「安さ納得消費」(製品にこだわりはなく、安ければいい)は、同期間に40%から24%へと低下しています。
 野村総研は「自粛生活やテレワークで時間的余裕が生まれ、制限ある生活のなかでも楽しみを生み出す『こだわり志向』になったことが伺える」と分析しています。

徳野貞夫先生(熊本大学名誉教授)の分析では、農の価値への理解が深くお金もかける「積極型」消費者の割合は全体の5.5%、山本謙治さんによるとイギリスても「いつもエシカル」な消費者は5〜10%程度(『エシカルフード』(2022.3))と、いずれも少数派にとどまっています。
 コロナ禍等によりライフスタイルが変化するなかで、例えば有機農法などこだわりの生産方式による生産された「プレミアム」な米や農産物についても、少々高くても買ってもいいと考える消費者が増えてくる可能性に、期待したいと思います。

(出典)
 野村総合研究所「生活者1万人アンケート(9回目)にみる日本人の価値観・消費行動の変化 −コロナ禍で、日本の生活者はどう変化したか−」(2022.1)
 https://www.nri.com/jp/journal/2022/0114

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(2020年11月、新潮新書)−
 https://www.shinchosha.co.jp/book/610882/

1974年生まれのスウェーデンの精神科医が、スマホなどデジタル技術に過度に依存することの危険性に警鐘を鳴らした世界的なベストセラーです。

スマホ依存がもたらしている様々な弊害について、本書では実に多くの実験結果や研究成果が引用・紹介されています。
 例えば、スマホやパソコンの前で過ごす時間が長いほど気分が落ち込む。フェイスブックに時間を使う人ほど(他人と比較する等により)自信を失い幸福感が減る。
 いつでも検索できるから自分で覚えようとしないこと(「グーグル効果」)が、記憶力や集中力などの脳の機能を低下させている。スマホがポケットに入っているだけで集中力が阻害される。
 スマホがディナーのテーブルに置かれているだけで、相手との会話に集中できず楽しめない。
 幼児や子どもにスマホやタブレットを使わせることは、ペンと紙を使って書くという運動能力と、書く時にいったん情報処理するという脳の働きに悪影響を及ぼす。
 教室からスマホを追放したことで成績がアップした。等々。

一方で著者は、スマホ依存は人間の特質から自然でもあるとしています。かつて人類の祖先は、危険や飢餓を避けるために常に周囲を確認し、情報を収集するという生き残り戦略を取っていました。
 現代のスマホやSNSは、広告収入といったお金のために、その脳のメカニズムを見事にハッキング(大事かも、ちょっと見てみるだけ)するように開発されているというのです。
 ちなみに、IT業界のトップの一人は「自分の子どもには14歳になるまでスマホは持たせなかった」というエピソードも紹介されています。

さて、そうであるなら、スマホにかけるお金と時間を減らして、その分でこだわりの農産物を買ったり、援農や農業体験に出かけたりしませんか(これは自戒を込めて)。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ ぶらり歴史散歩〜立河原合戦跡(東京・立川市)[10/20]
 https://food-mileage.jp/2022/10/20/blog-398/

○ 日本の循環型農業の源流(今夜はご機嫌@銀座で農業)[10/23]
 https://food-mileage.jp/2022/10/23/blog-399/

▼ 筆者が登壇させて頂くイベント
○ CSまちデザイン20周年記念講座
 日時:2022年11月26日(土)14:00〜15:30
 タイトル:「今、改めて食について考える
       −フード・マイレージから見えてくるもの−」
 場所:会場(東京・世田谷区宮坂3、生活クラブ館2F)
     またはオンライン(期間限定で動画視聴できます。)
 定員:会場、オンラインともに30名
 受講料:1,500円
 (詳細、申し込み等)
 https://cs-machi.com/shimokouza1/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 小農学会オンラインセミナー
 日時:10月28日(金)19:00〜21:00
 場所:オンライン
 講演:安井一臣さん(棚田学会)
 主催:小農学会
 (問合せ等↓)
 https://shounou-gakkai.com/Contact.php

○ 川崎平右衛門フェスタ
 日時:11月3日(木・祝)13:00〜16:30
 場所:武蔵野芸能劇場小ホール(JR三鷹駅北口2分)
 主催:川崎平右衛門顕彰会
 (詳細、問合せ等↓)
 https://koganei-kanko.jp/event/9941/

○ 世界と日本の食料安全保障を考える
  〜世界で進む食料需給の構造変化と日本の食料安全保障〜
 日時:11月9日(水)12:00〜14:00
 場所:オンライン
 主催:(株)農林中金総合研究所
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.nochuri.co.jp/topics/event/forum20221109.html

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 早や8か月。ウクライナでの戦火がやむまでお休み中です(pray for peace.)。
 過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに写真入りで掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.254は11月8日(火)[和暦 神無月十五日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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