【メルマガ】F.M.Letter No.276-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.276◇
 2023年9月29日(金)[和暦 葉月十五日]
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◆ F.M.豆知識  規模別にみた農産物の出荷先
◆ O.カレント  鈴木 亨さん(東京・八王子市)
◆ ほんのさわり 梅原 彰『農業は生き方です』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 さすがに朝夜は涼しくなりましたが、昼間はまだ暑い日が続きますね。今夜は仲秋の名月(別名 芋名月)です。
 先日放映されたNHK「日本人は農なき国を望むのか」でも紹介されていましたが、故・山下惣一さんの持論は、日本農業の最大の強みは消費者が近くにいることでした。「生産者、消費者という関係ではなく、共に地域に生きる生活者」同士の連携を訴えておられたのです。今号では、生産者による直接販売など「消費者が近くにいること」について考えてみました。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−規模別にみた農産物の出荷先−

日本農業の最大の強みは、故・山下惣一さんによると「消費者が近くにいること」とのこと。その通りだと思います。
 生産者からみて消費者と連携するための一つの方法が、生産物の消費者への直接販売です。リンク先の棒グラフは、売上1位の農産物について、その出荷先別の経営体の割合を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/09/276_chokuhan.pdf

左端の棒グラフが全体(平均)です。
 2020年における売上1位の農産物の出荷先は、農協が64.3%と最も多く、消費者への直接販売は9.0%に留まっています。
 グラフは販売金額別にも表示してありますが、1億円以上の大規模経営体を除いて、どの規模でも農協が最大の出荷先であることに変わりはありません。
 一方、上の折れ線グラフは、売上1位の農産物の出荷先が「消費者への直接販売」であるとする経営体の割合です。
 これをみると、販売額50万円未満の層では12.2%、50〜100万円の層では9.3%と平均より高く、規模が拡大するにつれてその割合は低下しています(1億円以上の規模では上昇に転じており、大規模直売所やインターネット販売に力を入れている状況が伺えます)。つまり、小規模経営体(「小農」)ほど、消費者に直接販売している経営体が多いのです。

農協などの出荷団体や卸売市場、スーパー等に出荷するためには、規格を満たす一定量の農産物を継続的に供給する必要があり、これは大規模経営体が得意とする分野です。一方、小農では、少量多品種生産を行い地元の直売所等で対面で販売することで、地域の消費者と「顔の見える関係」で直接つながる可能性が高いことも示していると考えられるのです。

データの出所:資料:農林水産省「2020年農林業センサス」第3巻
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/census/afc/2020/030628.html

(参考)
 NHK「日本人は農なき国を望むのか〜農民作家・山下惣一の生涯〜」
 https://www.nhk.jp/p/ts/M71N156RVY/
(9/30(土) 午前6:53までNHK+で無料配信されています。NHKでも農業関連の番組は少なくなりました。もしご覧になられたらご感想などNHKにお寄せいただければ幸いです。)

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−鈴木 亨さん(東京・八王子市)−

消費者が近くにいることは日本農業の最大の強みである一方で、特に大都市近郊における日本農業の歴史は、都市化との闘争・せめぎあいの歴史でもありました。

鈴木 亨(とおる)さんは1954年のお生まれ。「牧場のおっさん」と自称されています。
 1960年代、多摩丘陵に日本最大規模のニュータウンを開発する構想が明らかになったとき、八王子市堀之内地区(旧 由木村)で酪農を営んでいた鈴木さんの父親達は反対運動に立ち上がりました。そして「国策」として開発を推進する東京都や公団との長く困難な交渉を経て、ついに自分たちの暮らす地区を計画区域から除外することに成功したのです。
 その後も、鈴木さんは違法残土対策や里山保全活動等の活動を続けて来られました。
 これらの長い年月をかけた粘り強い取組みの結果、大規模住宅団地に隣接しながら、この地区には現在も豊かな農地や里山、自然が残されています。

鈴木さんの活動は、非常に多彩な分野に及んでいます。
 1980年代には通所訓練施設を開設し、「農福連携」の先駆けともいえる取組みを始められました(2005年には「社会福祉法人 由木かたくりの会」を設立)。
 また、(株)FIOの設立など、新規就農者の受け入れ・支援を積極的に行ってこられるとともに、堆肥舎の屋上にはソーラーパネルを設置し、(一社)八王子協同エネルギーの最初の市民発電施設として現在も稼働しています。

ここで重要なことは、鈴木さんは、移住してきた新住民を敵視するようなことは決してなかったことです。農家と都市住民が交流を通じて共生することにより、農のある豊かな地域の実現を目指してこられたのです。
 大病をされて酪農は廃業された鈴木さんですが、現在も積極的に情報発信や交流活動を続けておられます。
 とてもこの短い文章では、巨人・鈴木さんを紹介し切れません。ぜひ、鈴木さんのブログやフェイスブックをご覧いただければと思います。

(参考)
 ブログ「多摩丘陵の牧場のおっさんの環境福祉」
 https://ossan2.tamaliver.jp/
 鈴木 亨さん フェイスブック
 https://www.facebook.com/ossan.suzuki

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−梅原 彰 編著『農業は生き方です−ちば発 楽農主義宣言』(2017.2、さざなみ会)−
 http://www.shinjuku-shobo.co.jp/new5-15/html/mybooks/466_agri.html

著者は1950年生まれ、千葉県で農業改良普及事業に30有余年関わってこられました。定年退職後の2013年には、仲間たちと会員制の農業ミニコミ誌「漣(さざなみ)」を発行し、約3年半にわたって続けてこられました。本書は、そのミニコミ誌で紹介された様々な農業者等(後継者、新規参入者、さらには原発被災地からの避難者の方など)の声を採録・整理したものです。

本書では、大都市圏に近いという千葉県の地理的特性もあり、消費者との連携の事例が多く紹介されています。
 例えばチーズケーキやビワ加工品の製造・販売、駅ナカへの直売所の出店、観光農園、酪農教育ファームなど食育への取組みなど。女性が活き活きと活躍されている様子も描かれています。

特に印象に残ったのは、2010年、木更津市で異業種から新規参入し農場(株式会社)を設立したT氏の話。
 経営コンサルタントとしての経験と人脈を活かして、都心の有名料理店や高級百貨店との取引を実現させ、大きな催事やマルシェにも招待されるなどの積極的な経営展開は、メディアにもしばしば取り上げられたそうです。しかし、そのような「半ばミーハー的な発想」だけでは農場は立ち行かなかったそうで、経営方針を基本的に転換することとし、地元の消費者こそを重視することとしたそうです。
 T氏は「都会の富裕層等は『食』に対する知識や情報は豊富に持っているかも知れないが、感度や行動力は、地方の消費者の方が高い。地元の一人ひとりのお母さん達としっかりと向き合って、口コミでじわじわ広がっていく評価の方が、何倍も何十倍も価値がある」と語っておられます。

ちなみに本書の帯には、加藤登紀子さんの「歌う仕事も農業と同じ。自分の力の限り、心の中に歌を注ぎ、育て、繋がっていく!『生き方としての農業』を共有しましょう」との推薦文も掲載されています。
 生産者はもとより、食や農に関心のある消費者の方にも読んで頂きたい本です。私はいつか機会があれば、本書をガイドブックがわりに千葉の観光農園や直売所を回ってみたいと思っています。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 雑穀収穫と『種子をつなぐ人』上映会(山梨・西原)[9/11]
 https://food-mileage.jp/2023/09/11/blog-459/

○ ぶらり歴史(と自然)散歩−奄美の戦跡など[前半、後半][9/16,18]
 https://food-mileage.jp/2023/09/16/blog-460/
 https://food-mileage.jp/2023/09/18/blog-461/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○ 夢育て農園 人を育てる畑コース 受講生募集説明会
 日時:10月4日(水)20:30〜22:00
 場所:オンライン
 主催:NPO法人 ユメソダテ
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/1744001562783460

○ 農業の衰退はSDGsにも影響?課題を学び、体験しよう
 日時:10月10日(火)18:30〜16:00
 場所:大手門タワー(東京・千代田区大手町1)及びオンライン
 主催:大丸有SDGs ACT5
 (詳細、問合せ等↓。会場は残り僅かのようです。)
 https://2023act2-23.peatix.com/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 ロシアのウクライナ武力侵攻が始まってから中断したままです。
 先日、6月21日に東京・衆議院議員会館で開催された「今こそ停戦を」シンポジウムの動画をネットで視聴しました。会場からは即時停戦論はロシアを利するだけとの強い反論がある一方。無辜の市民や兵士の命が失われている今、何も行動しない日本人は卑怯ではないかとする意見(伊勢崎賢治氏)もありました。
 コツコツ小咄の過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.277は10月15日(日)[和暦 長月朔日]に配信予定です。
 正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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