◇フード・マイレージ資料室 通信 No.287◇
2024年3月10日(日)[和暦 如月朔日]
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◆ F.M.豆知識 横ばいで推移している自給率の意味
◆ O.カレント 食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案
◆ ほんのさわり 蔦谷栄一『生産消費者が農をひらく』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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明日で東日本大震災から13年。現在も約300平方kmの帰還困難区域が残り、2万6千人が避難を続けています。東電・福島第一原発の廃炉のスケジュールも遅れています。世の中はめまぐるしく動いていますが忘れてはならないことがあります。
今号は、現在、国会で審議されている食料・農業・農村基本法の改正案の関連です。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−横ばいで推移している自給率の意味−
【ポイント】
近年、カロリーベースの食料自給率はほぼ横ばいで推移しているのは、人口の高齢化や減少によって供給熱量が減少しているためであり、国内農業生産の縮小は続いています。
食料・農業・農村基本法の眼目の一つは、基本計画の中で食料自給率の目標を定めることです。2020年に閣議決定された現行の基本計画の中では、2030年度の食料自給率の目標としてカロリーベースで45%、生産額ベースで75%とされています。カロリーベース自給率(以下、単に「自給率」と呼びます。)は1960年度には79%ありましたが、食生活の大きな変化等を反映して2000年度には40%へと大きく低下し。その後はほぼ横ばいで推移しています。
リンク先の図287は、2000年代に入ってからの自給率と、供給熱量(合計と国産・輸入の内訳)の推移を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/03/287_jikyu.pdf
一番上の橙色の折れ線が自給率です。
2000年度は40%だった自給率は2022年度には38%と2ポイント低下していますが、1960年度から2000年度にかけて39ポイント低下したのに比べると、ほぼ横ばいです。あたかも国内農業が「踏ん張っている」ために食料自給率の低下に歯止めがかかっているようにもみえます。
一方、下の赤い折れ線グラフは供給熱量の推移です。
2000年度を100とすると2022年度には86と14%減少しており、その内訳をみると輸入は12%減に留まっているのに対して、国産は19%減少しています。
つまり、2000年代に入ってから自給率が大きく低下していないのは、国内農業が「踏ん張っている」わけではなく、人口の高齢化や減少の中で、国内農業が縮小するのとほぼ同じペースで供給熱量自体が減少しているためなのです。
今回の基本法改正の柱は食料安全保障の確保です。しかし日本の食料安全保障上の最大のリスクは、地球的な気候変動や海外での戦争ではなく、国内農業の縮小(担い手の減少・高齢化、荒廃農地の増加等)であるといえます。
[データの出典]
農林水産省「食料需給表」から作成。
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案−
【ポイント】
「農政の憲法」とも呼ばれる食料・農業・農村基本法の改正案が、現在、国会において審議されています。
1999年、それまでの農業基本法に代わって食料・農業・農村基本法(以下、「基本法」と呼びます。)が制定されました。食料自給率の目標を含む食料・農業・農村基本計画を5年ごとに策定することを規定しているなど、「農政の憲法」と呼ばれることもあります。
その基本法が、気候危機や戦争による世界の食料需給の変動等を受けて改正されることとなりました。
改正法案の基本理念は、食料の安全保障の確保(現行は「食料の安定供給の確保」)、環境と調和のとれた食料システムの確立(新設)、農業の持続的発展(大規模経営以外の多様な農業者の重要性に新たに言及)、農村の振興(地域コミュニティの重視)から構成されています。
改正法案は2月27日に閣議決定されて国会に提出されており、今後、審議が本格化します。
もとより今回の改正は広く国民全員に関わってくるものです。実効ある内容となるよう、法制定後の基本計画の策定過程を含めて、一人ひとりが関心を持ち、パブリックコメント等を通じて意見を表明していくことが求められます。
[参考]
農林水産省ホームページ「食料・農業・農村基本法」
https://www.maff.go.jp/j//basiclaw/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−蔦谷栄一『生産消費者が農をひらく』(2024.1、創森社)−
https://www.soshinsha-pub.com/bookdetail.php?id=436
【ポイント】
著者は、「生産消費者」がキーとなって「農的社会」を広めていくことが、日本の世界的・歴史的な役割であり責務であるとしています。
著者は宮城県出身。農林中央金庫熊本支店長、農中総研特別理事等を歴任し、現在は農的社会デザイン研究所を主宰し、様々な活動に取り組んでおられます。
著者は、日本農業の存続自体が危ぶまれるようになっているなかで、単に消費するだけではなく農業生産にも参画する「生産消費者」が増加していることに希望を見出しています。市民農園や体剣農園、生協運動や労働者協同組合運動の広がりが紹介されており、さらには著者がかかわって各地において開催されている「農あるまちづくり講座」の事例も紹介されています。
また、日本は都市の内部にも農地が存在するなど都市と農村の距離が短く、生産消費者を広げていく条件に恵まれていともしています。
さらに、著者はEUにおける環境支払いや有機農業推進の施策を高く評価する一方で、「風土産業」であるはずの農業のモデルを海外に求めることは間違いであり、日本の歴史を再評価すべきともしています。
すなわち、1万年に及ぶ縄文時代を過ごした日本人には、戦争はせず、分配を公平に行う等のモラルや規範を重視する「穏やかな共同体」の思想が根付いているというのです。これは一神教の世界にはないものとのこと。
著者は、生産消費者がキーとなり、循環・自給・皆農による農的社会を広めていくことが、日本の世界的・歴史的役割であり、同時に責務でもあるとしています。
なお、著者は今回の基本法改正案については、基本法のあり方自体についての議論が欠落しており、将来ビジョンも明確となっていない等としており、直接支払いの本格的拡充など、さらなる抜本的な見直しが必須としています。
[参考]
農的社会デザイン研究所
http://www.nouteki-design.com/
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 鈴木 亨さん古希のお祝い/能登支援の2本の映画[2/27]
https://food-mileage.jp/2024/02/27/blog-493/
○ 寮 美千子さん コラボライブ&講演会[3/4]
https://food-mileage.jp/2024/03/04/blog-494/
○ 基本法改正の全貌(今夜はご機嫌@銀座で農業)[3/8]
https://food-mileage.jp/2024/03/08/blog-495/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ 第100回 奥沢ブッククラブ(小林秀雄、岡 潔『人間の建設』)
日時:3月16日(土)15:00〜17:00
場所:シェア奥沢(東京・自由が丘)
主催:奥沢ブッククラブ
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/276931302111986
○ 霞ヶ関ばたけのこれまでとこれから(第200回霞ヶ関ばたけ)
日時:3月17日(日)18:00〜21:00
場所:3×3 Lab Future(東京・大手町1)
主催:霞ヶ関ばたけ
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/405723772106359/
○ Present Tree in くまもと山都 植樹ツアー2024
日時:4月6日(土)〜7日(日)
場所:熊本・山都町
主催:環境リレーションズ研究所
(詳細、問合せ等↓)
https://blog.presenttree.jp/2024/01/12/13165/
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
2年以上前のロシアのウクライナ侵攻以来、お休み中です。過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.288は3月24日(日)[和暦 如月十五日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』(今年は北斎手帳)を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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