F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信- No.096

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◇◆◇ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信 ◇◆◇

     No.96;2016.6/19(日)[和暦 皐月十五日]発行

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 去る69日(皐月五日)は端午の節句、10日(同六日)は入梅。梅雨

のシーズンですが、近年、雨の降り方が激しくなってきたような気がし

ます。と思っていると、ここ数日は梅雨の晴れ間の夏空。明後日は夏至

を迎えます。

 時の流れを体感するため、和暦の毎月一日(朔日=新月の日)と十五

日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は皐月十五日の配

信です。

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  F.M.豆知識

  食や農について、(特に私たち消費者にとって)ちょっと役に立つ、

 あるいは考えるヒントになるような話題を、毎回こつこつと取り上げ

 ていきます。

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 「食品に関するリスクが最も大きい場所」

 前回は食品に対する消費者の不安の実感について、消費者モニター調

査結果を紹介しました。これによると、「輸入農産物、輸入原材料」

「外食店舗」については不安感が大きいのに対して、「家庭での取り扱

い方」については9割以上の消費者が安心と感じていることが明らかとな

りました。

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/52_monitor.pdf

 

 ところで、食に関するリスクの最大のものは食中毒といえます。食中

毒による死者数は長期的にみると大幅に減少しているものの、現在もほ

ぼ毎年、食を直接原因とする死者が出ているのです。

 

 近年における食中毒による死者数の推移を原因施設別に示したものが、

リンク先の図53です。

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/53_shokuchudoku.pdf

 

 これによると、200015年の16年間で合計92人の死者が出ていますが、

うち54人(59%)は家庭で亡くなっています。なお、家庭以外の死者の

多くは、2002年の8人(病院給食・栃木)、2011年の5人(ユッケ・富山)、

2012年の8人(白菜漬物・札幌市)といった特定の事件によるものです

(原因物質はいずれも腸管出血性大腸菌)。

 

 一方、家庭における死者の原因物質はフグ、トリカブト、サルモネラ

等で、一般の家庭にとってはやや特殊なものが多いのですが、それでも

200910年を除いて毎年死者が出ています。

 つまり、食に関するリスクが最も大きいのは家庭と言えるのです。

 これを前号で紹介したアンケート調査結果と照らし合わせると、ある

程度科学的・客観的に評価できる「安全」と、主観に基づく「安心」と

は全く異なることが分かります。

 

 それでは、科学的・客観的な安全性の確保を前提として、消費者の食に

対する「安心」はどのようにすれば確保されるのでしょうか。

 引き続き次回で考察します。

 

[出典、参考資料等]

 厚生労働省「食中毒発生状況(食中毒統計)」

  http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html

 

 FM豆知識のページ(ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」)

  http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/fm-data_mame.html

 

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  オーシャン・カレント 潮目を変える

  食や農の分野について、先進的かつユニークな活動に取り組んでお

 られる方達やトピックスを紹介しています。

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 『福島第一原発廃炉図鑑』(2016.6、大田出版)という本が刊行され

ました。

 一般住民・民間の立場で福島第一原発の廃炉の現場(施設内及び周辺地

域)に入り、実態調査した結果を分かりやすくまとめた本です。

 福島第一原発(1F=いちえふ)を考えるための必携の書と言えます。

 

 編著者の開沼博先生(立命館大学衣笠総合研究機構特別招聘准教授、

東日本国際大学客員教授、福島大学客員研究員)は、大学院在学中に出

版された『「フクシマ」論』以来、民間事故調での議論を含め、一貫し

て福島第一原発と周辺地域について丹念なフィールドワークを続けてこ

られた社会学者です。

 

 共著者の吉川彰浩さんは元東京電力社員。福島第一原発での勤務経験

もあり、東日本大震災時は福島第二原発で地震と津波被害からの収束作

業に当たられたそうです。東電を退職された後は一般社団法人AFW

Appreciate
FUKUSHIMA Workers
)の代表として、福島第一原発で働く

人々を外部から支援するとともに、周辺地域の復興活動に取り組んでお

られます。

 

 もう一人の共著者は漫画家の竜田一人さん。事故後の福島第一原発で

実際に働いた経験を基にしたルポルタージュ漫画『いちえふ』は、海外

でも大きな反響を呼んでいます。

 

 この本は、全400頁(かなりボリュームがあります。)のほとんどがカ

ラー刷りで、豊富な写真とイラスト、漫画まで掲載することで、専門的

な知識が十分ではない私たち一般の人にも、廃炉作業と周辺地域の現状

が正確に理解できるように工夫されています。

 

 開沼先生は、この本を書かれた意図を「『難しくて面倒くさい』廃炉

に関する複雑な知識を体系的に整理し、いつでも参照できる『知のプラッ

トフォーム』(このテーマについて語るならこれだけは知っておこう)

を目指した」とされています。

 

 本書にも正確に記されているとおり、廃炉作業には解決すべき多くの

課題があります。

 「本丸」であるデブリ(溶融した核燃料)の取り出しは今までのとこ

ろ全く手がつけられておらず、研究開発を進めている段階です。そもそ

も廃炉作業は30年とも50年とも言われる長い期間を要することが分かっ

ています。さらに、現在も多くの方々が不便で不自由な避難生活を強い

られているという現実もあります。

 

 その一方で、4号機燃料プールからの核燃料の取り出しや汚染水対策な

ど、ある程度の着実に進捗している部分があるのも事実です。そして現

場には困難な廃炉作業に取り組む多くの方達がおられ、周辺地域には実

際にたくさんの方が住み、生活されています。

 ともすればマスコミやネット等では「廃炉作業は問題だらけで全く進

捗していない」等と批判されることが多いのですが、そのような極端な

見方も、また、事実に反するのです。

 

 この本は、私たち一般市民が、廃炉の現状について、事実に基づく公

平で客観的で、バランスの取れた判断や評価ができるようになることを

後押ししてくれます。

 

 開沼先生は「本書は全ページを熟読する必要があるような本ではあり

ません。興味があるテーマをつまみ食いして読んでみるので構わない本

です。ぜひ、肩肘を張らず、気楽に読んで、いろいろと考えたり、誰か

と議論したりしてみて下さい」と書かれています。

 確かに竜田さんの漫画の部分を拾い読みするだけでも、ある程度の全

体像が把握できるかもしれません。

 ぜひ、多くの方に手に取っていただきたいと思います。

 

[参考]

 『福島第一原発廃炉図鑑』(2016.6、大田出版)

  http://www.ohtabooks.com/publish/2016/06/06100000.html

 

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  情報ひろば

  拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベント

 の開催情報等をお届します。

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ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」更新情報

 中野晃一先生講演会「立憲デモクラシーの挑戦」 (06/03)

  http://food-mileage.jp/2016/06/03/

 20166月の共奏ファーム(埼玉・東街山) (06/07)

  http://food-mileage.jp/2016/06/07/

 福島学トークショー in 駒場・番來舎 (06/15)

  http://food-mileage.jp/2016/06/15/

 神田・なみへいで熊本応援食事会を開催します(7/9() (06/17)

  http://food-mileage.jp/2016/06/17/

 

 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。

  なお、既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には

 必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

 

【筆者が説明者を務めます】

 市民科学講座Bコース

 食べものや農業はこの先どうなっていくのか

 日時:629日(水)19:0021:3018:30開場)

 場所:光塾COMMON
CONTACT
並木町(渋谷区渋谷3-27-15光和ビルB1

 主催:NPO法人
市民科学研究室

 (詳細、お問合せ等

  http://blogs.shiminkagaku.org/shiminkagaku/2016/05/629.html

 

【筆者も発起人の一人です】

 がまだせ、くまもと! 食べて呑んで勝手に熊本を応援する会

 日時:79日(土)13:0015:0012:45開場)

 場所:全国うまいもの交流サロン
なみへい(東京・中央区日本橋本石町4

  http://www.namihei5963.com/namihei-board/list4.html

 発起人:蔦谷栄一、茂木正光、植村春香、中田哲也

 協力:くまもと食べる通信、全国うまいもの交流サロン なみへい

 (詳細、お問合せ等

  http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/160709kumamoto.pdf

 

【その他】

 「世界農業遺産」と地域ブランディング

  焼畑と自給の山里・椎葉村に学ぶ

 日時:622日(水)19:0022:00

 場所:From
a & e cafe
フロマエカフェ(東京・荒川区西日暮里4

 主催:いとなみ大学

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/1673223652953782/

 

 脱成長ミーティング公開研究会
11

   アベノミクスよりもっと経済成長を目指すって政策、どうなの?

 日時:625日(土)18002130

 場所:ピープルズ・プラン研究所(地下鉄有楽町線「江戸川橋」徒歩5分)

 主催:脱成長ミーティング

 (詳細、お問合せ等

  http://umininaru.raindrop.jp/datsuseichou/tuo_cheng_zhangmitingu/di11hui_kai_cui_jiang_zuo.html

 

 大豆種まき
in
横田農場

 日時:73日(日)930東武東上線小川町駅前集合

 場所:横田農場(埼玉・小川町青山)

 主催:(有)USP研究所

 (詳細、お問合せ等

  http://uspeace.jp/user_data/event.php#taikenkai2

 

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* 今号のコツコツ小咄。

 「年をとるほど、スパイスの効いたものがいいんだって」

 「えっ、何を食べたらいいの?」

 「たとえば、カレー(加齢)」

 

注:「コツコツ小咄」は、拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)

 投稿中です。

  https://www.facebook.com/tetsuya.nakata.7

 

* 次号No.97は、74日(月)[水無月朔日]の配信予定です。

 

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて

 頂いています。いつもありがとうございます。

  http://www.lunaworks.jp/

 

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方

 は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。

 

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F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信ID;0001579997】 

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  発行者:中田哲也

 

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