【メルマガ】F.M.Letter No.149

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.149◇
 2018年8月11日(土)[和暦 文月朔日]発行
────────────────────
◆ F.M.豆知識  14歳児童の平均身長・体重の推移
◆ O.カレント  昭和館(東京・九段下)
◆ ほんのさわり 斎藤美奈子『戦下のレシピ』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
────────────────────
 暦は立秋の初候・涼風至(すずかぜ、いたる)。
 涼風ならぬ台風が関東をかすめて通過、再び暑さが戻って来ました。変な天気が続きますが、虫の声が季節が確実に移りつつあることを教えてくれます。
 今号は 2018年8月11日(土)[和暦 文月朔日]]の配信。
 今年も8月が来ました。73 回目の夏です。6日の広島忌、9日の長崎忌に続き、15日には終戦記念日を迎えます。今号は「戦争と食」について考えてみました。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。

-14歳児童の平均身長・体重の推移-

先の大戦は国民生活に様々な深刻な影響(困窮)を与えましたが、その一つが食糧不足でした。その影響は、育ち盛りの児童の体格の統計結果に象徴的に表れています。

文部科学省(旧文部省)のホームページには、1900(明治33)年度以降の児童の平均身長・体重が年齢別に掲載されています(1920年及び1940~47年は欠落)。
 リンク先の図103 は、このうち14歳の男女の平均身長及び平均体重の推移を示したものです。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2018/08/103_taikaku.pdf

これによると、太平洋戦争前に最後に調査が行われた1939年における14歳男子の平均 身長は152.1cm、平均体重は43.6kgでした。これが、戦後、最初に調査が行われた1948 年には、身長は 146.0cm へと6.1cm(4%)縮小するとともに、体重は38.9kgへ4.7kg(実に10.8%も)減少しているのです。
 女子についても、それぞれ2.1%、7.4%減少しています。

なお、この1948年の男子の数値は、平均身長では1902年頃、平均体重では1914年頃のレベルに相当します。戦中・戦後の食糧不足は、育ち盛りの子ども達の体格を、実に30~40年ほども逆行させてしまったのです。

ちなみに、1年前の本メルマガ「ほんのさわり」欄でも紹介した野坂昭如『火垂るの墓』の主人公・清太も14歳(妹の節子は4歳)でした。

[参考]
 文部科学省「学校保健統計調査」)
 http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa05/hoken/1268826.htm
 (統計表は「統計表一覧」>「年次統計」にあります。)

野坂昭如『火垂るの墓』(ほんのさわり、本メルマガNo.124,、2017.8/6配信)
 http://food-mileage.jp/2017/08/18/hon-20/

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。

-昭和館-

東京・千代田区九段南にある昭和館は、戦中・戦後に国民が経験した労苦についての歴史的資料を収集、保存、展示し、後世代の人々に伝えていくことを目的として、1999(平成11)年に開館した国立の施設です。

食に関しても様々な展示があります。
 例えば「統制下の暮らし」のコーナーには、食料不足が深刻化するなかで実施された配給制度に関する実物資料(配給切符等)、「節米運動」を奨励するポスター(「兵隊さんのことを思えば、銃後の国民が米のゴハンで満腹するなどバチが当たる」)等が展示されています。

また、防空壕に避難するときの携帯食料(乾パン等)や、戦後の闇市の「残飯鍋」、援助物資により再開された学校給食を再現した展示等もあります。「体験コーナー」では一升瓶に入れた玄米を棒でつく(簡易精米)体験もできます。
 展示物の多くが「実物資料」だけに、その時代を証言する力には迫力があります。

なお、現在、漫画『この世界の片隅に』の特別展が開催中(9月9日(日)まで)、漫画の各シーンと関連する実物資料等をみることができます。

昭和館については、戦争責任に触れていない等の批判もありますが、戦中・戦後の身近な「暮らし」に触れることのできる貴重な場です。ぜひ一度、足を運ばれることをお勧めします。

[参考]昭和館
 http://www.showakan.go.jp/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。

-斎藤 美奈子『戦下のレシピ-太平洋戦争下の食を知る』(2015/7、岩波現代文庫)-
 https://www.iwanami.co.jp/book/b256540.html

1956年新潟生れの文芸・社会評論家である著者による「戦争中の食の世界へあなたを誘うガイドブック」です。
 著者は、戦下においても発行され続けた婦人雑誌に掲載された食や料理に関する記事をたんねんに調べました。
 その内容は、レシピ、栄養やカロリー等の科学的知識、計量することの大切さなど多岐に富んだものです。また、これら記事の背景には「手作りの料理は愛情の証という家庭料理イデオロギーとも言えるものがあった」とも指摘しています。

太平洋戦争が深刻化するまでは「戦争お楽しみグッズ」的なレシピも掲載されていました。
 例えば、端午の節句料理(飛行機メンチボール、軍艦サラダ、鉄兜マッシュ)のレシピには「大東亜建設の次代を担う坊ちゃん方のために」という説明が付されていました(表紙カバーと口絵に再現した料理の写真が掲載されています)。

しかし次第に戦況は悪化し、戦後にかけて食糧不足は深刻化します。
 そのなかで婦人雑誌は、配給食材の有効活用方法、節米(代用食)レシピ、食べられる野草の図鑑など、いかに量を増やし、かつ美味しく食べるための知恵や工夫が掲載され続けるのです(多くの詳細なレシピ等(当時の記事)が転載されています)。

ところで著者の意図は、単に苦しかった時代を回顧することにはありません。
 著者は、戦下の食糧難は「いまなお世界中で起きている飢餓の一端を、日本の都市住民がたまたま経験した得がたい機会だったともいえる」と位置付けています。

そして「当時の暮らしから耐えること、我慢することの尊さを学ぶ」のではなく、「こんな生活が来る日も来る日も来る日も続くのは絶対に嫌だ! そうならないために政治や国家とどう向き合うかを、私たちは考えるべき」と訴えています。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 証言ドキュメンタリー「福島は語る」上映会[7/29]
 http://food-mileage.jp/2018/07/29/blog-121/

○ 「家族の物語」を書くとき、何が起きるか(@本屋 Title)[7/31]
 http://food-mileage.jp/2018/07/31/blog-122/

○ 東雲会研究会(千葉大・園芸学部)[8/1]
 http://food-mileage.jp/2018/08/01/blog-123

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 戦後73年。いま感じていることを持ち寄り対話しませんか
 日時:8月15日(水)19:00~21:15
 場所:ご近所ラボ新橋(東京・新橋)
 主催:ご近所ラボ新橋
 (詳細、お問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/245491902938465/

○ ☆彡第23回 森の読書会☆彡
 日時:8月19日(日)10:00~12:00
 場所:森の食卓(東京・三鷹市井の頭5)
 主催:雀文庫みたか、森の読書会
 (詳細、お問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/230342337590538/

○ 共奏キッチン@仙人の家#1
 日時:8月27日(月)18:00~21:30
 場所:仙人の家(東京・西東京市東伏見5)
 主催:共奏キッチン@仙人の家
 (詳細、お問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/855302047995465/

────────────────────
*今号のコツコツ小咄
「毎年8月6日は、油揚げのお寿司を頂くことに決めているんです」
「えっ、どうしてですか?」
「稲荷(祈り)の日ですから」

なお、コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
  http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.150は8月25日(土)[和暦 文月十五日]の配信予定です。
 より役立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
────────────────────
◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
  https://archives.mag2.com/0001579997/
 発行者:中田哲也
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
  http://food-mileage.jp/
 ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
  http://food-mileage.jp/category/blog/
 発行システム:『まぐまぐ!』
  http://www.mag2.com/