◇フード・マイレージ資料室 通信 No.164◇
2019年3月21日(木)[和暦 如月十五日]発行
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◆ F.M.豆知識 水産加工業者の復興状況
◆ O.カレント ふたばいんふぉ(福島・富岡町)
◆ ほんのさわり 石戸 諭『リスクと生きる、死者と生きる』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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春分の日を迎えました。早くも各地からソメイヨシノ開花の便りも。
今年も「3.11」が過ぎ、手のひらを返すように震災関連の報道が激減することには違和感を覚えます。
和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している拙メルマガ、今号も東日本大震災・原発事故にこだわってみました。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/mame/
-水産加工業者の東日本大震災からの復興状況-
水産庁は、関係団体の協力を得て、青森、岩手、宮城、福島及び茨城の水産加工業者(814企業)における東日本大震災からの復興状況に関するアンケート調査を実施しました。今回で6回目となります。
調査期間は2018年11月~2019年1月の間、回収率は21.6%です。
これによると、生産能力が8割以上回復した業者は5県全体で57%となっていますが、売上が8割以上回復した業者は全体で42%にとどまっています。
依然として、生産能力の回復に比べ売上の回復が遅れていることが伺えます(リンク先参照)。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2019/03/117_suisankakou.pdf
さらに、福島県においては、生産能力が8割以上回復した業者は28%、売上が8割以上回復した業者は全体で16%と、5県全体の平均に比べて低い水準にとどまっています。
津波だけではなく原発事故の被害を直接に受けた福島県では、地元漁業者による試験操業等の取組みが行われているものの、いわゆる風評被害の影響等から、販路の不足等が課題となっていることが伺えます。
[資料]
水産庁「水産加工業者における東日本大震災からの復興状況アンケート(第6回)」
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kakou/pdf/190307.pdf
◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/pr/
-ふたばいんふぉ-
福島・双葉郡のインフォメーションセンター「ふたばいんふぉ」は、双葉8町村の現状を共有するとともに広く伝えるために、昨(2018)年秋にオープンしました。
運営主体は、震災後に郡内の連携を生み出すために誕生した民間団体「双葉郡未来会議」です。
双葉郡を構成するのは、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村の8町村。
事故を起こした東京電力福島第一原発が立地し、2011年の事故後には広い範囲に避難指示が出され、多くの住民が避難を強いられるという、歴史上、未曽有の事態に見舞われた地域です。
現在、避難指示区域は段階的に縮小され帰還する人も増えていますが、居住者数は原発事故前の水準を現在も大きく下回っています。
この施設の目的は、この地で何が起こったのか、どのような歩みを続けてきて現在があるのかといった情報を双葉郡内で共有し、さらに広く外部に発信すること。
そして、経験を教訓とし、未来に向けてのネットワークづくりに貢献することです。
施設の中心には郡全体の大きな立体模型が置かれ、双葉郡の地形や現状等を、まさに俯瞰することができます。
その前に設置された大型(85型)モニターでは、震災直後の様子や復興の歩みのアーカイブ映像を見ることができます。震災直後の様子を車載カメラで捉えた映像は緊迫感があります。
壁際には8町村や関連する公共機関等の資料や写真のパネル、書籍等が展示されています。イベントや旬のお知らせなどの告知コーナー、8町村のステッカーなどオリジナルグッズ等の物販コーナーもあります。
また、隣接するカフェ135(ひさご)では、地元産食材等を使ったランチやスイーツを楽しむことができます。
ふたばいんふぉは、富岡町中心部の国道6号線沿いにあります。
JR富岡駅からも徒歩10分。近隣には、昨年末にオープンした東京電力廃炉資料館やショッピングモールもあります。
変わりつつある双葉郡に足を運ぶ機会があれば、ふたばいんふぉにも立ち寄ってみて下さい。
「ふたばいんふぉ」
http://www.tomioka.jpn.org/info/info.html
福島県双葉郡富岡町大字小浜字中央295
OPEN:AM11:00 ~PM6:00(休館時間あり、日曜休館)
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/br/
-石戸 諭『リスクと生きる、死者と生きる』 (2017.8、亜紀書房) -
https://www.akishobo.com/book/detail.html?id=829
著者の石戸 諭(いしど・さとる)さんは1984年生まれのノンフィクションライタ-。
20歳代半ばの大手新聞社の記者として、「何を取材しても面白くて仕方がない」という充実した日々を送っていた著者は、2011年3月21日、志願して岩手・宮古市田老地区に取材に入りました。
ところが、津波被害の惨状を目の当たりにした時、著者は「この光景をどう伝えたらいいのか、さっぱり分からなくなった」「何を書いても言葉が上滑りするような気がした」そうです。
この経験を消化し、個々の被災者の思いにより踏み込むことを決意した著者は、2015年末に新聞社を辞め、改めて被災地における取材を始めました。
インタビューしたのは、収穫した米を子どもに食べさせられず捨てた経験から地域の汚染地図作りを始めた福島・いわき市の農家、飯舘村に新しいログハウスを建てて帰還した夫婦、「どうせがんになるんでしょ」と呟く女生徒と向きあう福島市の中学教師、津波で子どもを失った宮城・名取市の母親や石巻市の父親。
さらには、地域住民による原発視察等の活動を続ける元東電社員など。
「幽霊」を乗せたというタクシー運転手の話も紹介されています(そこで語られているのは、死者に対する畏敬の念とのこと)。
本書は、著者が被災地で出会った「歴史の当事者」たちの言葉を受けとり、自分自身との接点を見つけ、考え、自らも当事者となり、別の誰かに届けようとした記録です。
一つひとつの記事には、震災や原発事故を自分のこととして捉えている人たちの「声」の重みが感じられます。
一方、「分かりやすくまとめること」の危険性も指摘されています。
個人の経験は個人の言葉でしか語ることのできないものであり、分かりやすくまとめようとすると、そのなかの「葛藤や揺らぎ」が切り捨てられるというのです。
「きれいにまとめない言葉が必要」という糸井重里さんの言葉も紹介されています。
最後に著者は「一つの方向性に流されずに個として考え、行動すること」の大切さを訴えています。
「どんな時代であっても、最後に残るのは個人として考え行動した言葉であるこしは変わらない」と。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 世界都市農業サミットがやって来る[3/9]
http://food-mileage.jp/2019/03/09/blog-183/
○ 第2回東雲会 @千葉大学(松戸)[3/16]
http://food-mileage.jp/2019/03/16/blog-184/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○「人生フルーツ」上映会
日時:3月22日(金)10:30~、19:00~
場所:八王子アミダステーション(八王子市東町3)
主催:てんぐシネマ倶楽部
(詳細、お問合せ先等↓)
https://www.facebook.com/events/408599163235046/
○ 石戸 諭さん講演会「3.11からの8年を生きる」
日時:3月24日(日)16:00~17:30
場所:イネコヨガスタジオ(東京・渋谷区西原1)
主催:ローリング61
(詳細、お問合せ先等↓)
http://toshiaboutweb.blogspot.com/2019/01/3118.html
○ 「未来の収穫」上映会&パネルディスカッション
日時:3月30日(土)13:30~16:30
場所:小川町立図書館(埼玉・小川町大塚98)
主催:NPO生活工房つばさ・游
(詳細、お問合せ先等↓)
https://archives.mag2.com/0000102795/
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*舞麗児忽々の今号のコツコツ小咄
「大震災の経験と教訓は、お得意様へのメールと同じね」
「えっ、どういうこと?」
「継承(敬称)が不可欠ですから」
コツコツ小咄(まとめ)は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
http://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号 No.165は4月5日(木)[和暦 弥生朔日]の配信予定です。新年度に入ります。
より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
いつもありがとうございます。
http://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
https://archives.mag2.com/0001579997/
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
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ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
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発行システム:『まぐまぐ!』
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