◇フード・マイレージ資料室 通信 No.279◇
2023年11月13日(月)[和暦 神無月朔日]
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◆ F.M.豆知識 供給熱量に占める米の割合と食料自給率の推移
◆ O.カレント 2023年産の米について
◆ ほんのさわり 向田邦子『父の詫び状』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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ウクライナやガザの情勢に心を痛めつつ、先日、宮城と福島を訪ねてきました。
私たちの「食」を支える「農」の現場は、高齢化や農地荒廃等の構造的な問題に加えて、本年の猛暑・水不足が大きなダメージとなっている様子も目のあたりにしました。今号は「ごはん」の特集です。
なお、本号から各項目ごとに「ポイント」を記載することにしました。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−供給熱量に占める米の割合と食料自給率の推移−
【ポイント】
カロリーに占める米の割合は約2割に低下しているものの、食料自給力の観点からは依然として「主食」。
「主食」とされる米ですが、その地位は現在も本当に「主食」と呼ぶのにふさわしいものでしょうか。
リンク先の棒グラフは、供給熱量(食卓に並べられた食べもののカロリー)の推移について、主な品目別にみたものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/11/279_calorie.pdf
1960年の一人一日当たりの供給熱量は2,291kcalで、うち米により供給された熱量は1,106kcalと全体のほぼ半分(48.3%)を占めていました。この時点では確かに熱量供給面でも米は「主食」と呼ばれるのにふさわしい地位にありましたが、その割合は次第に低下し、1980年には全体のちょうど3割、2021年には約2割(21.3%)にまで低下しているのです。
この推移を示したものが、上半分の棒グラフの一番下のグラフです。
一方、赤のグラフはカロリーベースの、青のグラフは生産額ベースの総合食料自給レ率の推移を示しています。これらをみると、供給熱量に占める米の割合が低下するのと並行するように、食料自給率が低下していることが分かります。
これは、国内でほぼ自給できている米の割合が低下し、飼料穀物や大豆・菜種等の大きな部分を輸入に依存している畜産物や油脂の割合が上昇しているためです。また、このことは、米消費の激減、畜産物や油脂の消費の大幅拡大といった、私たちの食生活の変化を直接反映したものです。
以上のように、供給熱量に占める割合からは、現在は米は「主食」とは呼び難い地位となっているものの、自給率(国内での食料供給力)の観点からは、依然として米は「主食」と呼ばれるのにふさわしい地位にあります。
(資料)
農林水産省「食料需給表」(令和3年度)から筆者作成。
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−2023年産の米について−
【ポイント】
本年産の米は作況指数(量)は平年並みながら、一等比率(質)は大きく低下。地域による差も大。
先日、農林水産省が公表した10月25日現在の米の作況指数(平年の単収に対する比率)は、全国では101と「平年並み」となりました。しかしながら地域別にみると、北海道(104)、宮城(105)など「やや良」となっている都道府県がある一方、秋田(97)、新潟(95)、愛知(96)、鳥取(95)など7県は「やや不良」となっています。
一方、9月30日現在の米の検査結果によると、一等の比率は、昨年産は75.8%であったのが本年産は59.6%と16ポイント以上の大きな低下を示しています。これは地域別の差がさらに大きく、特に新潟県では13.5%と、昨年産の74.4%から61ポイント低下しています(秋田県、山形県、神奈川県でも30ポイント以上の低下)。これは、梅雨明け以降、記録的な高温で推移するとともに降水量が乏しかったことから、大量の白未熟粒等が発生したためです。
白未熟粒とは、米粒にでんぷんが十分に詰まらず隙間ができたため、光を乱反射して白く見えるもので、水加減を少なめにして炊くなど工夫すれば味は変わらないものの、農家の収入は大きく減少することとなります。
今後も地球温暖化に伴い高温傾向が続くことが懸念されることから、高温耐性品種の拡大等の対策を進めていく必要があります。
注:
作況指数とは、10アール当たり平年収量に対する本年産の10アール当たり予想収量の比率。
米の検査とは、米粒の色、形、そろい具合などから1等、2等、3等、基準外の4段階に等級付けするもので、食味の格付けではない。
資料:
農林水産省「令和5年産水稲の作付面積及び10月25日現在の予想収穫量」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_kome/attach/pdf/suitou_231025.pdf
同「令和5年産米の農産物検査結果」(9月30日現在)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/kome/index.html
同「農水省米担当に猛暑の影響について聞いてみた」(BUZZMAFF動画、音が出ます)
https://www.youtube.com/watch?v=3TUlzcX7G6o&list=PLVc03uX0IwZtHPJonvqm-dPd-iH_TdfD_&index=3
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−向田邦子『父の詫び状』(2006.2、文春文庫)−
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167277215
【ポイント】
著者の思い出に残っている「ごはん」は、東京大空襲の翌日に食べたサツマイモの天ぷらなど、苦くてしょっぱいものばかりとのこと。
1924年東京に生まれ、放送作家として大活躍中の1956年に台湾での航空機事故で急逝した著者の、最初のエッセイ集です。
家庭内で暴君として威張り散らし、それでもどこかユーモラスな父からもらった一行だけの詫び状の思い出について記した表題作を含め、24編の短編が収められています。タイトルだけでも「食」関連のものが8編(海苔巻、カレー、卵など)あり、表題作も、もらいものの伊勢海老をきっかけに父の思い出が語られるというストーリーになっています。
これらの中から、ここで紹介するのは『ごはん』。
1945年の東京大空襲の夜、当時女学校の三年生だった著者は初めて靴のまま畳に上がり、水を掛けて回ります。翌日、何とか焼け残った自宅で、父は「最後にうまいものを食べて死のう」と言い出し、埋めてあったサツマイモを掘り出しててんぷらにして家族で食べます。著者は、自分の家を土足で汚し、年端も行かぬ子どもたちを飢えたまま死なせる父の無念を想像します。
病気になった小学校三年生の時、通院するたびに母が連れて行ってくれた鰻屋では、自分にだけ注文してくれた一人前の鰻丼を気兼ねしいしい食べたそうです。
「楽しいだけではなく、甘い中に苦みがあり、しょっぱい涙の味がして、生き死ににかかわりのあったこのふたつの『ごはん』が、どうしても思い出に引っかかってくる」と著者は記します。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 学徒出陣から80年、暴落している原皮価格など[11/3]
https://food-mileage.jp/2023/11/03/blog-466/
○ Present Tree in みやぎ大崎・植樹ツアー(1、2日目)[11/9,10]
https://food-mileage.jp/2023/11/09/blog-467/
https://food-mileage.jp/2023/11/10/blog-468/
○ 私が巻き寿司に巻き込んでいるもの(食と農の市民談話会 3-4)[11/11]
https://food-mileage.jp/2023/11/11/blog-469/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ 農あるまちづくり講座 in 所沢 第一回
日時:10月14日(火)19:00〜20:30
場所: 森のとうふ屋さんの手づくり菓子工房 (埼玉・所沢市上新井1
主催:都市農業研究会
(詳細、問合せ等↓)
https://tokorozawanote.net/11247/
○ &green Day-北本の魅力を楽しむ1日
日時:11月18日(土)10:00〜15:30
場所:埼玉・北本市
主催:埼玉県北本市
(詳細、問合せ等↓)
https://andgreen-kitamoto.com/articles/andgreenday20231118/?fbclid=IwAR065MlBVho-UIPAyoSUTZ9ebiN2gK1MX16o9uwKtGp7y3Wd9YXxPBT8ZAc
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
ロシアによるウクライナ侵攻は続き、パレスチナ情勢も緊迫化し再開すしようという気分には至らず。
過去のアーカイブ以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.280は11月27日(月)[和暦 神無月十五日]に配信予定です。世の中の情勢が少しでも好転していることを祈ります。
正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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