【メルマガ】F.M.Letter No.285-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.285◇
  2024年2月10日(土)[和暦 睦月朔日]
────────────────────
◆ F.M.豆知識  農地面積に占める市民農園の面積の割合
◆ O.カレント  東京・東村山市の市民農園
◆ ほんのさわり 吉田俊道『図解でよくわかる 菌ちゃん農法』
    〃    吉井たくみ『鷹のつらきびしく老いて』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
────────────────────
 和暦でも新しい年を迎えました。今年こそは穏やかな1年になるようにと改めて心から祈ります。今号は市民農園、家庭菜園の特集。個人的な話題が多くなってしまいました。なお、「ほんのさわり」は二本立てです。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−農地面積に占める市民農園の面積の割合−

【ポイント】
 東京、神奈川等では市民農園の面積の割合は特に大きく、都市住民が土に触れる貴重な場となっているとともに、農業や農村に対する理解を深める面でも重要な役割を担っています。

市民農園とは、非農家や都市住民がレクリエーション等のために、小面積の農地を利用して野菜等を育てるための農園のことをいいます。2022年3月末時点の日本の市民農園数(注)は4,235農園・187,006区画で、面積は1,293haとなっており、農園数、面積ともこの20年間で約1.6倍に増加しています。

(注)特定農地貸付法、市民農園整備促進法及び都市農地貸借法の手続きに沿って設置された農園の数値で、いわゆる農業体験農園(園主の指導の下に利用者が継続的に農作業を行う農園利用方式の農園)は含まれていません。

 このように増加が著しい市民農園ですが、全国の農地面積に占める割合は0.03%に過ぎません。ただし、この割合は地域によって大きな差があります(リンク先の図285参照)。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/02/285_shiminnouen.pdf

これによると、関東、東海、近畿といった大都市圏を含む地域では0.07%と比較的高くなっています。さらに、東京都では1.21%、神奈川県では0.65%と、特に高くなっています。これは、これら地域ではもともと農地面積が少ないことに加えて、都市住民の市民農園に対するニーズが大きいことを反映しているものと思われます。

 市民農園で栽培・収穫される野菜等の量は、農業生産全体の中ではごくわずかでしかありません。しかし、非農家や都市住民が土や農に触れる貴重な機会が得られる貴重な場となり、都市住民等の農業への理解を深め、離れてしまっている食(食卓、消費者、都市)と農(産地、生産者、農村)との間の距離を縮めるきっかけともなります。このことが、ひいては、日本全体の食料供給力の維持・増進に貢献していくことが期待されるのです。

データの出典:
 農林水産省「耕地及び作付面積統計」(2022年7月15日現在)、「市民農園開設状況調査」(2022年3月末現在)、関東農政局「関東農政局管内の市民農園開設状況」
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/menseki/index.html
 https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/tosi_nougyo/attach/pdf/s_joukyou-1.pdf
 https://www.maff.go.jp/kanto/nouson/shinkou/nouen/attach/pdf/index-3.pdf

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−東京・東村山市の市民農園−

【ポイント】
 私自身、東京・東村山市にある自宅近くの市民農園の一画を利用させて頂くことで、農作業の辛さと喜び、自然の恵みの有難さ等を実感してます。

利用させて頂いている市民農園の一画。左は2023年10月3日の様子、中央は初チャレンジ・菌ちゃん農法の畝(よ9/19)、右は福島・いわき由来のコットンの花(8/14)

私が住んでいる東村山市(東京・北多摩地方)には、市が開設した市民農園が3か所(合計で211区画、8,849平米)あります。1区画当たりの面積は約30平米、利用料は年間18,000円で2年毎に更新、抽選倍率は1.5〜2.3倍となっています。
 なお、このほかに農業者自らが開設している市民農園が3か所、園主の指導の下に利用者が農作業を行う農業体験農園が7か所あります。

私も、自宅近くにある恩多町第二市民農園の一画を、抽選外れによる中断した期間はあるものの、10年以上にわたって利用させて頂いています。
 もともと農家出身ではなく、進学した農学部(農業経済学)での実習の経験さえ乏しいまま、東京・霞が関で農業に関係する業務に就きましたが、年を重ねるにつれて、現場の農業のことを何も知らないということに忸怩たる思いが強くなってきました。

 そのようななかで始めた市民農園は、もちろん「真似事」に過ぎないものの、私に大きな変化を与えてくれました。夏の草取りなどの作業の辛さや収穫の喜びを実感することができました。また、スーパーに普通に並んでいるきれいで大きさが揃った野菜は、生産者の方々の並々ならぬ努力とプロの技のたまものであることも理解できました。

 何より、一心に土に触れることで得られる自然や大地に包まれているような感覚は、他では得られないものでした。
 ちなみに昨年秋からは、オンライン講座で学んだ妻の主導で「菌ちゃん農法」(後述)にもトライし、素晴らしいキャベツや白菜を収穫することができました。

 ぜひ多くの方に、市民農園や家庭菜園で農作業の喜びを実感して頂きたいと思います。
 ちなみに故・山下惣一さん(佐賀・唐津、農民作家)は、「国民皆農」を提唱されていました。

参考
 市民農園(市が開設、東村山市HP)
 https://www.city.higashimurayama.tokyo.jp/kurashi/shigoto/nogyo/taiken/shiminnouen.html

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−吉田俊道『図解でよくわかる 菌ちゃん農法−微生物の力だけで奇跡の野菜づくり』(2014.1、家の光協会)−
 https://www.ienohikari.net/book/9784259567828 

【ポイント】
 菌ちゃん(微生物)の力を借りた元気野菜づくりについての、初心者にも分かりやすいガイドブック。市民農園や家庭菜園での野菜作りにも、大いに重宝しそうです。

著者は1959年長崎市生まれ。九州大学大学院で農学を修了後、長崎県庁に入庁(農業改良普及員)。1996年に退職し、有機農家として新規参入し、以後、佐世保市を拠点に「菌ちゃん野菜づくり」の普及に努めてこられています。現在、農業法人(株)菌ちゃんファーム代表取締役、NPO法人大地といのちの会理事長を務めておられます。
 なお、個人的には、20年近く前になりますが、九州農政局(熊本市)在勤中に食育関係の協議会の委員になって頂くなど、大変お世話になった方です。

菌ちゃん(糸状菌などの微生物)の力を借りて育てる元気野菜は、農薬や化学肥料が不要で、なにより美味しいとのこと。また、健康な野菜には害虫は寄ってこないそうです。また、元気野菜を自分たちで育てて給食で食べるようになったある保育園では、病気で欠席する子どもの数が10分の1にまで減少したというデータも紹介されています。

本書は、吉田さんの長年にわたる実践と、その中で明らかとなった理論に裏付けられた、言わば「菌ちゃん野菜づくり」の集大成ともいうべき力作です。
 全巻にわたってカラー写真やイラストがふんだんに使われており、土づくりと畝立て、生ごみの活用、作物ごとの育て方など、初心者にも具体的で分かりやすいガイドブックになっています。

ただし、本書は単なるノウハウ本ではありません。吉田さんの視線の先は、物質・資源循環の地球規模への拡大、生物多様性の確保と共生にまで及んでいます。吉田さんは「子どもたちの未来を守っていくために、菌ちゃん農法をみんなで広げていきましょう」と訴えておられます。
 私も早速、今年の土づくりから本書を活用したいと思っています。

参考 
 農業法人(株)菌ちゃんファーム
 https://kinchan.ocnk.net/

−吉井たくみ『鷹のつらきびしく老いて 評伝・村上鬼城』(2023.9、朔出版)−
 https://saku-pub.com/books/taka.html

【ポイント】
 著者は「『真情の俳句』を詠んだ村上鬼城の世界観は、これからの持続可能で新しい世のなかを導く一つの力になるのではないか」としています。

著者は1960年群馬・高崎市生まれ。
 農林水産省、内閣府、消費者庁等に在勤中から、多忙な業務のなか、趣味で俳句をたしなんでいたことは知っていましたが、同郷の「孤高の俳人」の研究を続けてきたことは知りませんでした。実は著者は、私の農水省の同期生です。

村上鬼城(きじょう)は慶應元(1865)年、鳥取藩士の長男として江戸に生まれました。
 7歳の頃に高崎に転居した後、17歳の夏に突然、聴覚を失ってしまうという失意と貧困の中でも句作を続けます。30歳の頃、正岡子規に教えを乞うために手紙を出したところ、懇切な返書が届いたそうで、これをきっかけに、さらに本格的に句作に取り組み、後には俳誌「ホトトギス」の黄金時代を担う一人となりました(見ず知らずの人からの手紙に丁寧な返書を送った子規の人柄もしのばれます)。

鬼城の俳句に対する姿勢は、他の俳人とは異なるとのこと。
 俳句作者としての最も重要かつ基本的な条件は、日々の生活を疎かにせず、精一杯真面目に生き抜くこととしていたそうです。著者は鬼城の俳句を「真情の俳句」と呼び、鬼城の生きざまや世界観は、これからの持続可能で新しい世のなかを導く一つの力になるのではないかと評価しています。

また、鬼城の俳句は、写実的であると同時に、自らの主観も直截に詠み込まれているという特徴があります。
 本書のタイトルは、「鷹のつら きびしく老いて あわれなり」という鬼城晩年の代表作から。老いてもなお厳しさを失わない鷹の顔を「哀れなり」と言い切った調べを、著者は、孤高の鷹に自らを投影したのではないかと解説しています。

なお、著者は鬼城のことを調べて行くうち「彼はつくづく上州人だなあ」と思ったとのこと。
 空っ風に象徴される厳しい自然の下で育まれた上州人気質とは、飾り気がなく、朴訥で頑固な面もありながら、正直な心で人々に接するといったもののようです。上州の豊かな自然や風土を詠んだ鬼城の句も、多数紹介されています。
 著者自身の郷里に対する愛情も感じられる、心が暖かくなる一冊です。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 恵贈いただいた2冊のご新著など[1/28]
 https://food-mileage.jp/2024/01/28/blog-484/

○ 今こそ停戦を−Cease All Fire Now[1/29]
 https://food-mileage.jp/2024/01/29/blog-485/

○ 埼玉・西所沢に根付いている循環の輪[2/5]
 https://food-mileage.jp/2024/02/05/blog-486/

○ 「いまこそ語ろう!生きたい社会のポリティクス」[2/6]
 https://food-mileage.jp/2024/02/06/blog-487/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○ オーガニック学校給食フォーラム
 「食材のコストと調達をクリアして持続可能なオーガニック給食を目指そう!」
 日時:2月12日(月)10:00〜
 場所:オンライン
 主催:オーガニック学校給食フォーラム実行委員会
 (詳細、問合せ等↓)
 https://organickyushokuforum3cost.peatix.com/

〇 『菌ちゃん農法』刊行記念イベント
 吉田俊道さん「わかりすぎる!菌ちゃん農法 超実践テクニック」
【満席】
 日時:2月16日(金)13:30〜12:00
 場所:芳林堂書店 高田馬場店8F(東京・池袋)
 主催:芳林堂書店
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.horindo.co.jp/t20240126/

○ ロータスシネマ vol.57
 能登半島震災支援チャリティ上映『一献の系譜』
 日時:2月24日(土)16:00〜
 場所:『okatteにしおぎ』(東京・杉並区宮前5)
 主催:ロータスシネマ
 (詳細、問合せ等↓)
 https://lotus-project.jp/lotuscinema-57/

○ ロータスシネマ vol.58
 能登半島震災支援チャリティ上映『ひとにぎりの塩』
 日時:2月25日(日)15:30〜
 場所:常圓寺(東京・西新宿7)
 主催:ロータスシネマ
 (詳細、問合せ等↓)
 https://lotus-project.jp/lotuscinema-58/

────────────────────
*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 今年こそは停戦を! 過去のアーカイブは以下に掲載しています(いい加減、再開するかな)。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.286は2月24日(土)[和暦 睦月十五日]に配信予定。この日はロシアによるウクライナ侵攻開始から丸2年目に当たります。
 正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。今回から新しい手帳(今年は北斎手帳)になりました。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
────────────────────
◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
 (購読(無料)登録はこちらから)
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 発行システム:『まぐまぐ!』
  https://www.mag2.com/
 バックナンバー
  https://food-mileage.jp/category/mm/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
  https://food-mileage.jp/
 ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」
  https://food-mileage.jp/category/blog/