【ブログ】令和の百姓一揆

2025年3月30日(日)は、前日の冷たい雨から一転して晴天に。
 東京都心でソメイヨシノが満開になったこの日は、日本の食料と農業にとって記憶される一日になったかも知れません。
 全国各地で「令和の百姓一揆」が行われたのです。

左と中はフライヤーの表裏。右は3/18付け日本農業新聞での全面広告記事(いずれも「令和の百姓一揆」実行委員会HPより)。

13時にメトロ千代田線乃木坂駅で高橋優子さん(つばさ游、埼玉・小川町)と待ち合わせて会場の青山公園南地区へ。
 フェンス越しに見えるトラクターは、幟(のぼり)等で飾り付けられています。

受付でフライヤーとうちわ、パネルを渡されます。これらも実行委員のメンバーがボランティアでデザインされたものです。
 受付には井出留美さん(食品ロスジャーナリスト)の姿もありました。かねて、ご著書等でフード・マイレージを紹介して下さっており、初めてお目に掛かってご挨拶。お忙しいなか厚かましくもご新著『私たちは何を捨てているのか』にサインまで頂いてしまいました。

 本部に行き、自作の幟(「農業問題は都市住民の問題」)と、行進後の「寄合」で配布させて頂く予定のフライヤー(「なぜ農業問題は都市住民の問題なのか」)を確認して頂きます。「寄合」の入場整理券も頂きました。事務局・スタッフの皆さんはバタバタです。

ちなみにこの日は、事務局と実行委員有志の方々は朝10時に集合し、様々な準備をして下さっていたのです。幟などツールの確認と組立て、トラクターや軽トラの飾り付け、シュプレヒコールの内容と手順の確認、受付の準備など、煩雑で、かつ警察との関係もあって慎重を期する必要のある作業ばかりです。
 「名ばかり」実行委員の私は何も手伝っておらず、申し訳ありませんでした。

どんどん人が増えてきます。事前に参加表明されていた知人も、幟を目印に集まって来て下さいました(幟を作ったのは初めてでしたが、なかなか便利なツールです)。
 鹿児島・種子島から来られた小農学会事務局の方は、伝統製法で黒糖を生産されている方たちを紹介して下さいました。

定刻の14時に法螺貝が響き、集会がスタート。この時点で3000名以上の参加者で、会場はほぼ埋め尽くされています。
 菅野芳秀代表(稲作と養鶏、山形・長井市)からの挨拶。
 「農業の現場では、これまで食料生産を支えてきた生産者の多くが高齢化しリタイヤしている。所得が少ないために後継者もおらず、『農じまい』が広がっている。故・山下惣一さんも仰っていた通り農業問題は都市の問題。消費者・市民と連携して、食と農と命を大事にする日本に変えていかなければならない。今日はそのための第一歩」(文責・中田。以下、同様)。

 トラクターを運転する全国から来られた生産者の方たちによるスピーチでは、改めて安全運転を宣言される方も。全国各地からの連帯メッセージの読み上げ。

来賓の国会議員からの挨拶(与党所属の方はおられませんでした)。
 篠原 孝衆議院議員(立憲)は、30年前にパリでトラクターデモを目撃した時の体験談を感慨深そうに披露されました。東京でトラクター行進が行われるのは、この日が初めてです。

いよいよ14時30分、トラクター行進出発の時間が来ました。
 写真を撮ろうと殺到する多くの参加者を整理するのも、スタッフ(実行委員)の方々です。注意された参加者たちも通路を空けて整然と並び、大きな拍手と歓声で、1台ずつ出発するトラクターや軽トラを見送っていました。

明るい陽射しと満開の桜の下、車列が代々木公園に向けて進んでいきます。沿道の向う側からも多くの拍手と歓声。
 ちなみにこの日の行進は、トラクターと人とで時間をずらし、コースも異なっています。事務局の方々が事前に警察とも綿密に相談して決めらたものです。

「令和の百姓一揆」実行委員会HPより。

人の行進スタートまでは少々時間があり、陽射しが暑いくらいです。
 列を整理している最中、突然、何機もの低空飛行のヘリコプターの轟音が。実は公園のすぐ隣は在日米軍の六本木ヘリポートになっているのです。

ようやく、人の行進のスタート時間の15時30分に。
 約300人ずつの9グループ(梯団)に分かれ、順次、出発していきます。子ども連れの若い家族の姿なども。私たちが参加した7グループが歩き始めたのは、16時過ぎでした。
 それぞれ、受付で渡された、あるいは自分で準備したプラカード等を掲げつつ、リーダーに唱和してシュプレヒコール。
 「今動かなきゃ、農業守れない!」「みんな立ち上がれ、今が正念場!」
 これらの文言も、オンラインによる実行委員会等で相談しながら決めたものです。

実際に街中を歩いてみると、約3000人とは相当の人数であることが分かります。多くの警察官の方が交通整理をして下さっています。
 交差点では、歩行者やドライバーの方たちが行進が通過するのを待って下さいました。

 農業ジャーナリストの榊田みどりさんも、手作りのプラカードを掲げて行進。車田文弘さんには、長い時間、幟を掲げて下さり感謝です。
 東京大学大学院の鈴木宣弘先生(農水省の同期入省生)は多くのマスコミ等から取材を受けておられましたが、しばらくは行進に合流して一緒に歩くことができました。これまでの鈴木先生の全国での講演活動等が、この日の盛り上がりにつながったことは間違いありません。

スタートから約1時間後、いよいよ行進は佳境ともいえる表参道に入りました。好天に恵まれた日曜日の午後、もっとも農業の現場からは遠い観光スポットは多くの老若男女で溢れています。
 突然の行列の出現に驚いた様子の若者のグループ、ちょっと怪訝そうに幟やプラカードを覗き込むカップル。それでも多くの方たちが、拍手や掛け声で応援して下さいました。
 興味深そうにカメラを向ける外国人観光客の姿も。ちなみに事務局が用意して下さったプラカードの裏面は、英語表記になっています。

第7グループがゴール地点・代々木公園に到着したのは17時30分近く。
 約3km、1時間半の行進でした。トラクターは地元に帰る準備中。ドライバーの方の笑顔が印象的でした。

終了後は明治神宮会館に移動。
 18時30分から実行委員メンバーによる「寄合」が開催されました。入口の脇に置かせて頂いた自作のフライヤーは、多くの方が持って帰って下さり有難うございました。

 まず、高橋宏道事務局長を始め、事務局の方々からの報告。
 この日の参加者は沿道参加の方を含めると4500人になったこと。多数のマスコミの取材も入っており、既にX(旧ツイッター)ではトレンド入りしているとの報告も。
 クラウドファンディングの状況と、この日の費用の概算等の説明。5000枚準備していたフライヤーやうちわは、ほぼ配布し切ったそうです。

遅れて来られた事務局の方も。
 代々木公園で幟などのツールを回収・整理し、全てのトラクターの出発を見送ってから来られたそうです。最後まで事務局・スタッフの皆様の献身的なお力に支えられた「一揆」でした。

今後に向けて、会場参加者との間で意見交換。
 「沿道からの多くの方の声援に驚いた」「こんなに歓迎してくれる行進は少ないのでは」「多くの消費者が農業問題を自分ゴトと捉えて参加してくれたことは心強かった」等の感想。「消費者など、もっと多くの人に運動を広げていくことが必要では」といった提言も。
 この日のためにトラクターの免許を取られたという、広島から来られた女性も。

 福島から参加された長谷川浩さん(農業、母なる地球を守ろう研究所)からは「すべての農家に補償が必要かなど、農業者の間でも意見が一致していない論点については、今後話し合っ必要があるのでは」との意見。

最後に、菅野代表から総括的な発言がありました。
 「事務局、実行委員の皆さんの尽力に感謝。お陰で今日はみんなが楽しみ、個性が生かされた行進になった。素晴らしい成功だったのでは。しかし、今日はスタートに過ぎない」
 「現下の農業危機を突破するために必要なものは、怒りや理念ではない。怒りは長続きしないし、理念では人は動かない。正義を主張し始めると人は攻撃的になり、対立軸が生まれることにつながる」

 「必要なことは、人の輪を拡大していくこと。そのためには共感が重要。難しい理屈は不要で、まずは身近な人たちで農のあり方について考え、共有していくこと。それが人間関係も変え、農業全体の希望を引き寄せることにつながる。喜びこそが共感を広げる」
 会場からは大きな拍手が起こりました。

これを受けて山田正彦さん(元農水大臣)から、菅野さんを代表に「令和の百姓一揆の会」を設立して運動を継続していくこととしてはどうかとの具体的な提案が行われました。
 最後に法螺貝が吹き鳴らされ、会場の全員が立ち上がって拍手。これで熱気に包まれた寄合は終了です。

 名残惜しい方も多かったようで、終了後もロビーのあちらこちらで多くの方が立ち話をしておられました。この場で初めてお目に掛かった方同士で名刺交換される姿も。
 20時30分に外に出ると、すっかり暗くなっていました。昂揚した気分と心地よい疲労感とともに、家路につきました。

 菅野代表がおっしゃったように、この日はスタートです。
 離れてしまった「食(食卓、消費者、都市)と農(産地、生産者、地方)の間の距離」を縮めるために、これからも微力ながら、個人としてできることを実践していきたいと思っています。

(ご参考)
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
 https://food-mileage.jp/
 メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」
 https://www.mag2.com/m/0001579997