2025年10月27日(月)19時から、第5回 食と農の未来フォーラムをオンライン開催しました。今回のテーマは「ハンセン病問題を基礎から学び、紙芝居『わたしの命の物語』から生きやすい社会について考える」です。

私事ながら本年3月末で退職し、地域と関わる時間が増えました。
国立療養所・多磨全生園は自宅から徒歩10分ほどにある散歩コースで、国立ハンセン病資料館にもこれまで何度も足は運んでいたのですが、改めてハンセン病問題を学び直そうと思ってスタディツアーに参加したのが、5月31日(土)のことでした。
この時、分かりやすいレクチャーをして下さったのが佐久間 建先生。また、全生園内にあるお食事処・なごみで完成したばかりの紙芝居『私の命の物語』を披露して下さったのが藤崎美智子さんでした。9月14日(日)には資料館のホールで紙芝居のお披露目会もありました。
スタディツアーを主催した「全生園の明日をともに考える市民の会」(代表・藤崎さん)の定例会にも顔を出させて頂くようになり、今回、お2人をゲストにお迎えして、多くの方にハンセン病問題の現状や紙芝居のことを知って頂くための会を主催することとなったのです。

お忙しい中、ゲストのお2人には拙宅までご足労頂きました。
佐久間 建先生は、1993年、小学校教諭として、国立ハンセン病療養所多磨全生園に近い東村山市立青葉小学校に赴任したのをきっかけに、30年以上にわたって人権教育に取り組んでおられる方。
江連恭弘先生と共同監修された『13歳から考えるハンセン病問題』(2023.5、かもがわ出版)は、複雑で歴史のあるハンセン病問題について、初心者でも理解できるように分かりやすく解説されている好著です。
藤崎美智子さんは多磨全生園内にある「お食事処 なごみ」を切り盛りされている方で、映画『あん』(2015年)の撮影にも協力されました。2023年に逝去された藤崎陸安(みちやす)さん(全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)事務局長)はご主人です。
その陸安さんの思いを受け継いで制作したのが、紙芝居『わたしの命の物語』(脚本:ドリアン助川さん、絵:ペトロアンドヨゼフ(田川誠さん、深澤慎也さん))です。
この日は20名以上の方が参加して下さいました。
まず、佐久間先生から「ハンセン病問題の基礎について皆様に知っていただきたいこと」と題してレクチャーして頂きました(本ブログの文責はすべて中田にあります)。

1909(明治42)年に開設された多磨全生園は全国に13ある国立ハンセン病療養所の一つ。
近年の複数の意識調査結果を紹介しつつ、ハンセン病への偏見差別は依然として深刻な状況にあること、特に若年層等で誤った考え方を支持する傾向が高いこと等の説明がありました。

ハンセン病は感染力はきわめて弱く、栄養・衛生状態が改善された今の日本では感染・発病のリスクはないこと、後遺症(外見の変化)が偏見・差別の大きな原因となっていること、遺伝病といった誤解(家族への差別につながる)が残っていること等についても説明。

また、1907(明治40)年に制定されたらい予防法、特に1930年代から1950年代の「無らい県運動」により、患者は療養所に強制収容され、終生隔離されるようになったという経緯について。らい予防法が廃止されたのは、実に89年後の1996(平成6)年のことでした。
療養所での生活の様子(療養所内だけで通用する通貨、ひいらぎの垣根、窮屈な共同生活、患者労働等)についても、写真やイラストを用いて説明して下さいました。

また、全生園内には、一生をこの中で過ごさせるための様々な施設(郵便局、売店、宗教施設、学校、農園、映画館、野球場、監房、火葬場、納骨堂等)があったそうです。入所者による消防団も組織されていました。

ハンセン病裁判(2001年)、ハンセン病家族国家賠償訴訟(2019年)の概要等についても説明。
また、殺人罪に問われた男性がハンセン病を理由に隔離された「特別法廷」で死刑判決を受け、執行された菊池事件については再審請求が行われており、熊本地裁が来年1月末までに再審開始の可否を決定することとなっているそうです。

そして「いのちの差別」について。
ハンセン病療養所では子どもをつくることはできなかったという事実。優生手術(1400件以上)が結婚の条件とされ、子どもができた場合は中絶手術(3000件以上)が強いられたそうです。
「故・藤崎陸安さん(全療協事務局長)はハンセン病への偏見・差別をなくすために人生をかけて活動してこられた。藤崎陸安さん・美智子さんご夫妻の熱い思いがこもった紙芝居を、ぜひ、多くの方に知って頂きたい」と締めくくられました。

複雑で多岐にわたるハンセン病問題の経緯と現状について、短い時間で簡潔に説明して下さいました。
続いて藤崎美智子さんから、紙芝居制作の経緯等についてお話がありました。
「11年前、映画『あん』撮影の際にスタッフとしてお手伝いしたのをきっかけに、全生園内の飲食店の経営を受託することになった。ハンセン病問題のことはほとんど知らなかったが、入所者の方からお話を伺い、また、陸安さんと出会って再婚した」
「主人は、ハンセン病患者が体験した過酷な偏見や差別が2度と繰り返されないように伝えていくことの大切さを語り、やがて人権学習の動機づけになる紙芝居を作ることが私たち夫妻の夢になった。その後6年以上の月日をかけて、ドリアン助川さんやペドロアンドヨゼフさん達ど多くの方の協力を得て、紙芝居は完成した。
主人は完成品を見ることなく逝去した。お披露目会が開催された9月14日は主人の三回忌に当たり、同時に菊池事件のFさんの命日(死刑執行の日)に当たる日だった」
「人は誰でも、尊い命を持って生まれてくる。しかし、社会は、時に無知や偏見からその命の価値を否定してしまうことがある。ハンセン病の歴史は正にその象徴だったし、近年の新型コロナウィルス感染症の時も、同じような偏見と差別が生まれた。
人権を守るということは、特別な人だけがすることではなくて、私たち一人一人が、
日々、どう命を見つめるのかにかかっていると感じている」
「この会は「食と農」がテーマと伺っており、ハンセン病や人権とは少し離れているように思われるかも知れないが、食べものは命そのもの。命というキーワードで深く繋がっている。食べものやや命を大切に思う心が、人を差別しない社会、人権を尊重する社会へとつながっていくと思う」

そして、紙芝居『わたしの命の物語』を朗読して下さいました。
ところがここで(またも)アクシデント。藤崎さんが読み上げるのに合わせて画像を1枚ずつ映していくこととしていたのですが、うまく共有できません。
結局、藤崎さんが手で支えて読み上げて下さる様子を、そのまま撮影することに変更しました。何度もリハーサルしたのですが、ゲストのお2方、参加者の皆様、申し訳ありませんでした。
紙芝居は、この世の中に生まれ出ることのできなかった「いのち」の独白で構成されています。風に舞う桜の花びら、猫との出会い、雨上がりの空の虹。過酷な物語だけに、優しいタッチの絵が一層印象的です。

療養所内で結婚した両親が愛し合うことによって芽生えた命は、法律(国の政策)によって、この世に生まれ出ることは許されませんでした。命を奪われ、体はホルマリンに漬けられてガラス瓶に密封されたのです。
「生まれたらお母さんに、暖かな風に、森のささやきに抱きしめてほしかった」と嘆く「いのち」の独白は、やがて「誰かを抱きしめるために生まれてみたかった」と変わっていきます。
「私を命がけで守ろうとしたお母さんにも綺麗なお花を渡してあげたかった。お母さん、もう泣かないで」「私やっぱり生まれたかったな」
そして、「こんな悲しみが二度とない、あらゆる命が祝福されて生まれてくるような世界がきますように」と、紙芝居は締めくくられました。
zoomの画面に、拍手のリアクションが舞います。

その後は参加者との間で質疑応答、意見交換。
中学校で人権教育を担当したこともあるという女性からは、映画『あん』がハンセン病問題に及ぼした影響についての質問。
藤崎さんからは「映画がきっかけとなって、ロケ地にもなったなごみに来られるお客さんが結構おられた。来て頂き、資料館で学習して頂ける機会になったのはとても良かったと思う」との回答。
佐久間先生からは「あの映画によってハンセン病問題に関心を持ち始めたという方は非常に多い。ただ、啓発を目的とした映画ではなく、従業員が入所者であることが分かってどら焼きが売れなくるという風評被害が広がるというストーリーについては、学校教員として活動してきた自分としては、東村山の小中学生は認めないのではないかと感じた」と回答して下さいました。
アート活動をされている男性からは「最近、日本で排外主義的な風潮が広がっているがハンセン病問題とも通じる部分があるのでは」との質問。
藤崎さんからは「偏見・差別は色々な人権問題の根底に共通している。自分の思いだけで決めつけるのではなく、何が正しいかをちゃんと調べて、相手のこと、命のことをみんなが考えてもらいたい」との回答。
佐久間先生は「誤った理解が差別・偏見につながる。ハンセン病問題を学習することは、あらゆる人々が差別されずに共に生きられる社会を作っていくための一つのきっかけとして、非常に有効と思う」と発言されました。

「今も根深い偏見・差別が残っている日本の社会とはどこまで遅れているのか、私たち一人ひとりがもっと意識をしないといけないと感じた」と感想を述べて下さった方も。
藤崎さんは、着ておられた服を見せて下さいました。へその緒で繋がっているお腹の中の赤ちゃんが描かれています。
ファッションを通じて偏見・差別の解消を訴える東京コレクションの際に、デザイナーの鶴田能史さんから頂いたものだそうです。
最後に佐久間先生からは「ハンセン病問題のことについて一人ひとりが学び、考えて頂き、できれば周囲の方々に広げて頂きたいと願っている」との発言。
藤崎さんは「この紙芝居は作ったこと自体が目的ではない。ぜひ多くの人に触れて頂き、人権学習のひとつの参考として、偏見・差別のない生きやすい社会を目指してほしい」と訴えられました。
予定の21時を15分ほど過ぎて終了。
佐久間先生、藤崎さん、参加して下さった皆様、有難うございました。参加者の皆様それぞれの心に届く内容だったかと自負しています。
佐久間先生のご著書、藤崎さんの紙芝居を一人でも多くの方に見て頂き、全生園やハンセン病資料館にも足を運んで頂きたいと思います。
(ご参考)
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
https://food-mileage.jp/
メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」
https://www.mag2.com/m/0001579997
フェイスブック「フード・マイレージ資料室(分室)」
https://www.facebook.com/foodmileage
第6回 食と農の未来フォーラム(11月25日(火)19時~)のご案内
講 師:高橋美香さん(写真家)
テーマ:「パレスチナの家族の今」(仮題)
会 場:パレスチナ料理店 Bisan(ビサン、東京・十条)
参加費:8000円(料理・ワンドリンク付き)
https://www.facebook.com/events/1925321064688494
