【メルマガ】F.M.Letter No.113

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.113◇
 2017.2/26(日)[和暦 如月朔日]発行
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◆ F.M.豆知識 相対的貧困率と可処分所得の推移
◆ O. カレント ばばらあやかさん
◆ ほんのさわり テツオ・ナジタ「相互扶助の経済」
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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 すでに春一番も吹きましたが、いまだ寒暖の差が激しい日々が続きます。花粉の飛散(悲惨?)も始まりました。
 時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は如月朔日の配信です。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるような話題を毎回コツコツと紹介していきます。

-相対的貧困率と可処分所得の推移-
 前々回は、日本の経済成長率が低迷する中で格差が拡大している状況を紹介しました。
 今回は、この同じ統計(厚生労働省「国民生活基礎調査」)にある別のデータをみます。リンク先の図68をご覧ください。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/02/68_hinkonritu2.pdf

折れ線グラフは前々回に示したもの(図66)と同じもので、相対的貧困率と子どもの貧困率(17歳以下の子どもがいる世帯から計算)の推移を示しています。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/66_hinkonritu.pdf

おさらいですが、相対的貧困率とは等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分(貧困線)に満たない世帯員の割合です。
 図68の棒グラフは、この中央値と貧困線の推移を示したものです。

これによると、1985年から97年までは可処分所得(中央値及び貧困線)が増加するなかで格差が拡大していたのですが、それ以降は可処分所得が減少に転じるなかで(「脱成長」のなかで)格差が拡大し続けていることが分かります。

なお、2000年から2003年にかけては可処分所得が減少するなかで貧困率が低下して(格差が是正されて)いますが、これは貧困線が低下することに伴い、貧困線に満たない世帯員の割合が低下したという事情もあるものとも考えられます。

[参考]
 内閣府「国民生活に関する世論調査」(2016年7月調査)
  http://survey.gov-online.go.jp/h28/h28-life/2-2.html
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-F.M.豆知識」
  http://food-mileage.jp/category/mame/

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方達や、トピックスを紹介していきます。

-ばばらあやかさん-
 ばばらあやか(羽原朱香)さんは、青森・八戸出身のシンガーソングライター。
 盛岡、仙台を経て2年ほど前に東京へ。発達障がいを持つ子ども達とともに遊び学ぶ仕事をしながら、フリーのシンガーソングライターとして活躍されていました。

そして2017年2月11日(土)、東京・新宿御苑近くのパーティースペースで開催されたのは「ばばらいぶ・Uターン前都内ラストワンマン」。八戸に帰郷されるばばらさんの東京での最後のライブに駆けつけた50名ほどで、インド料理店の会場は満席です。

この日はギターを演奏しながら10数曲を熱唱。
 東京での日常の帰り道と帰省時の自分の心情を比べて八戸の風を感じた(「帰り道」)、最大の恐怖は都会の電車(競争の瓶詰め)だった(「mirror man」)、都会の生活にやつれていた私を目覚めさせてくれたのは家族(「ステッキ家族」)など。
 地元のサッカークラブの(今はまだ非公式の)応援歌も。

演奏の合間に、ばばらさんの思いが語られます(温かさを感じる八戸弁です)。
 「東京で2年ほど暮らすうち、ふるさと八戸への思いが募ってきた。気がつくと八戸での思い出をテーマにするなど、八戸や家族を思う歌ばかりを作っていた。
 自分の目標はメジャーになることではなく心に響く歌作りをしていくこと。それなら大好きな八戸でもできると思った」

「上京して最初の頃のライブの後、歌も演奏もボロボロでヘコんでいた時、小さな女の子を連れたお母さんが来て『この子が歌手になりたいと初めて将来の夢を語った』と言ってくれた。その言葉に支えられ、ほかの多くの方にも助けてもらって歌を続けてきた」

「これからも、人の心を大事にする歌、人の心に届く歌を歌っていきたい」

Uターン後は、主に八戸で活動されるというばばらさん、本気で地域密着の「地sound 地show」を企んでおられるそうです。
 ますますの活躍をお祈りしています。

[参考]
 ばばらあやか 公式サイト
  https://ayaka-babara.jimdo.com/
 シンガーソングライター ばばら あやか ぶろぐ
  http://ameblo.jp/tomatthy/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-オーシャン・カレント」
  http://food-mileage.jp/category/pr/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野について、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。

-テツオ・ナジタ『相互扶助の経済-無尽講・報徳の民衆思想史』(五十嵐暁郎監訳 福井昌子訳)-
 http://www.msz.co.jp/topics/07889/

著者は1936年ハワイ生まれの日系アメリカ人で、シカゴ大学教授を長く務められた方(専攻は近代日本政治史・政治思想史)。

大阪の町人学問所・懐徳堂における教えや、山片蟠桃、三浦梅園、石田梅岩、弘世助三郎、和田耕斎など、必ずしも有名ではない在野の実践者を含む様々な人の思想や事績を丹念に辿り、近世から江戸時代の日本社会には、相互扶助的な経済や思想の伝統が存在していたことを明らかにしています。なお、巻末には11ページに及ぶ膨大な参考文献リストが収録されています

相互扶助的な経済や思想の背景には、は「経済は道徳と無関係であってはならない」「自然はあらゆる知の第一原理であらねばならない」等の確固とした認識があったとし、その具体例として、「講」と「報徳運動」が取り上げられています。

鎌倉時代や平安時代には宗教的活動を目的としていた講(伊勢講、念仏講等)は、江戸時代には飢饉等に対する経済的な相互扶助を目的とする頼母子講、無尽講等に深化しました。信頼・契約に基づくセーフティ・ネットの仕組みが実践されていたのです。
 「報徳」とは、二宮尊徳の思想に基づく相互扶助の組織・運動。尊徳は「自然から命を与えられている人は、命を助け育てる義務がある」とし、この義務を果たすことこそ「報徳」であるとします。そして命を守るために勤勉に働くことが道徳にかなう「善」であるとしているとのこと。
 ちなみに報徳本社(静岡・掛川市)の入り口には「道徳門」「経済門」と刻まれた2本の門柱があり、これは道徳と経済は分離できないという報徳思想を象徴しているものだそうです。

明治以降の国家主導の近代化政策の中で、このような相互扶助の伝統は次第に失われました。若き農商務省官僚・柳田國男と岡田良一郎(報徳運動の指導者)との間で戦わされた興味深い(思想的に相容れない)論争のエピソードも紹介されています。
 しかし、相互扶助の伝統は全く失われてしまった訳ではなく、近代経済の底には理想的な倫理(自然を前提とした共存・共生)の力が生き続けているそうで、それは例えば震災時のボランティア活動等にも現れているとしています。

[参考]
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
  http://food-mileage.jp/category/br/

◆ 情報ひろば
  拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ ばばらあやかさん「地sound地show」 (2/13)
  http://food-mileage.jp/2017/02/13/blog/

○ 脱成長MTG12「次の時代を、先に生きる」 (2/23)
  http://food-mileage.jp/2017/02/23/blog-2/

○ 高遠菜穂子さん「モスル緊急報告会」 (2/24)
  http://food-mileage.jp/2017/02/24/blog-3/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
  なお、既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○ 目白台・江戸川橋界隈まち歩き
 日時:3月5日(日)13:00~16:00
 場所:目白台・江戸川橋界隈
 主催:市民科学研究室
 (詳細、お問合せ等↓)
 http://www.shiminkagaku.org/202000_20170305_2/

○ 公開研究会‘いのちと農’の危機から再生へ~日本と世界~
 日時:3月7日(火)14:00~17:30
 場所:國學院大学渋谷キャンパス2号館(東京・渋谷区東4)
 主催:「資本主義再考」研究会、國學院大學大学院特定課題研究グループ
 (詳細、お問合せ等↓)
 http://www.kokugakuin.ac.jp/economics/kei03_00199.html

○ かなしみを生きるちからに[入江杏先生]
 日時:3月14日(火)19:00~21:00
 場所:番來舎(東京・目黒区駒場1)
 主催:番來舎
 (詳細、お問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/1718199185175043/

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*今号のコツコツ小咄。
「なんで板長は寿司を握る時に、演歌を口ずさんでいるんですか」
「サビをきかせたいからね」」
 
注:「コツコツ小咄」は、拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)投稿中です。
  新ウェブサイトにも掲載しています。
  http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.114は、3月12日(日)[如月十五日]の配信予定です。
  より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えていますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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 ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
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