福島紀行-④二本松・東和地区その2

 2013年3月16日(土)の「福島紀行」の最終回です(前回から続きます)。
 道の駅の裏の駐車場に出てみると、一面、灰色の煙でおおわれています。
 焦げる臭い、ボンボンと竹がはぜる大きな音。
 強い風に煙が払われると、山肌や立木を真っ赤な炎が舐めているのが見えます。
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 道の駅のお客さんや従業員の皆さんも、心配そうに眺めています。
 子どもが泣き声で電話をかけてきた、と話しておられる方も。
 最初の頃は火元は離れていたのですが、強い風に煽られ、道の駅のすぐ裏山にも飛び火したようで、煙が上がり始めました。
 山の反対側には住宅団地があるそうです。
 サイレンを流しながら、消防車が4台ほど道の駅の下にある広場に集まってきました。
 ここにある池(普段は釣り堀になっているそうです。)からポンプで水を汲み上げ、消防団の方がホースを担いで急な斜面をよじ登り、放水を始めました。
 ヘリコプターも現れ、上空からも水(消化剤?)をかけ始めました。何度も往復して散水を続けます。
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 その甲斐もあって、やがて火は見えなくなり、色が白く変わった煙も収まり始めました。
 地元の皆さんの表情も、ようやくほっとした安どの表情に変わります。
 そのような慌ただしい中、挨拶もそこそこに「道の駅ふくしま東和」を後にしました。
 山の反対側、住宅団地の当たりにも消防車が何台も止まっており、ここにも地元の方達が集まっていました。幸い住宅等には被害はなかった様子です。
 来た車道を戻るのもつまらないので田んぼに降り、農道やあぜ道を歩くことにしました。まだ冬の気配、かさかさに枯れた草を踏む感覚が心地よく感じられます。
 青空が戻り、風も収まってきました。
 山々は、西に傾き始めた陽を浴び、眩しい位に美しい姿をみせています。
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 春の山は笑うがごとく、という言葉があります。
(ちなみに夏の山は滴(した)たる、秋の山は粧(よそお)う、冬の山は睡(ねむ)るが如し」だそうです。)
 冬の装いのままの褐色の水田とは対照的に、山では、華やかな春の芽吹きが始まっている様子です。 
 早めに着いたので、降りた「宮の平」バス停を過ぎ、少し街中に入ってみました。
 東和支所(旧東和町役場)近くに置かれた何体もの大きな人形は、400年の歴史がある「針道のあばれ山車」で使われるもののようです。
 そして「堤崎」というバス停の近くに見つけたのが、浪江中学校の真新しい看板です。
 原発事故から避難し、この地の廃校になった小学校の校舎を間借りしているようです。
 後日、ウェブサイトを拝見すると、この3日前に卒業式が行われたとのこと。
 生まれ育った土地を離れて不便な生活を送っている生徒たちに、明るい未来が待っていることを切望する思いがしました。
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 15時過ぎ、ほぼ定刻に来たバスに乗って二本松駅へ。東北本線16時21分発の新白河行きに乗る頃、突然、冷たい雨が落ちてきました。これで山火事は完全に鎮火することでしょう。
 郡山で東北新幹線に乗り換え、うとうとしている間もなく1時間ほどで大宮に到着。
 福島の近さが実感されました。
 
 これで、ささやかな「福島紀行」は終了です。
 短い時間ながら、現地の空気を吸い、現地の方たちの取組を垣間見ることができたのは、貴重な経験になりました。
 もともとイベントで忙しい中、海老沢さん(数年前に大手家電メーカーを退職し東和にIターンされたそうです。)は何とか時間を取ろうとして下さいましたが、山火事騒ぎもあって、残念ながら、お話を伺う時間はあまりありませんでした。
 それでも海老沢さんのお話の端々からは、現在の福島・東和地区は、原発事故に見舞われた衝撃から立ち直るというステージから、放射能汚染に関する知見の集積と技術開発という新しいステージに進みつつあることが伺えました。
 これは、世界でも初めての壮大な挑戦でもあります。
kaji_5_convert_20130323141403.png その内容(農作物への放射性セシウムの移行が少ない理由、そのための技術等)は、新刊の『原発事故と農の復興』(2013.3、コモンズ)でも詳しく紹介されています。
 3月11日付けの厚生労働省の報道発表によると、2012年2~5月に食品中の放射性セシウムから受ける線量を調査したところ、基準値の根拠である線量(1mSv/年)や自然放射能からの線量(約0.2mSv/年)と比べて極めて小さく、前回調査(2011年9~11月)と比べて大きく減少(福島・中通りでは約3分の1に減少)しているとのことです。
 福島での様々な努力と取組の成果が、この調査結果にも反映されているものと思われます。
 一方、文部科学省の放射線モニタリング情報によると、私が訪ねた3月16日14時00分の「道の駅ふくしま東和」の空間線量は 0.522μSv/時と、平常の値よりかなり高くなっていることも事実です。
 むろん、美しい姿を見せていた山々にも、放射性物質は降り注いでいるのです。
 このような現実の中で、福島・東和地区では、未来に向けた取組が着実に進められています。
【ご参考】
 ◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
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